第11話 特別依頼
翌日。太陽は真上を少し過ぎたあたり。
俺たちは別れ、それぞれ休息を取った後、再びこの場所――冒険者ギルド、サンダリア支部に集合していた。
「もー! 大変でしたね、皆さん!」
「はあ」
相変わらずのハイテンションな受付嬢に若干引きつつ、生返事を返す。
「私に黙って! 依頼を捏造するなんて! 支部長たちはとっちめておきましたから! 私が!」
「そ、そりゃ大変でしたね」
「ほんとですよぉっ! このままじゃ私も疑われる! ってもう、必死だったんですから」
どうやら、例の魔物2体は支部長以下数名による《中央》に対する忖度だったらしい。
いやでも、支部長ってこの子の上役だよね? いったい何者なの、この受付嬢。
……まあいいや。これ以上、余計な情報を頭に入れたくないし。
「はい、それではこちらが今回の報酬となりまーす!」
「……え?」
「銀貨。2まい」
「ちょっと、お姉さん。これはないんじゃないの? 俺たち、27個も」
「……あなたたち」
受付嬢がメガネをくいっと持ち上げると、光の加減か? 丸レンズの向こうに見えていたはずの両目が見えなくなった。
「え、な、何でしょう」
「サンダール峡谷でずいぶんと暴れてくれたみたいですねー?」
俺とトラックスの大立ち回りで発生した大規模な崖崩れに、プリムの魔法でクレーターだらけとなった谷底。
まあ、どう考えても俺たちの仕業だった。
「あそこは、南西にあるたくさんの集落の方々が使う重要な通り道なんですよー? 知ってましたかー?」
「い、いや、それは」
「今朝、見に行ったらビックリしましたよ。どれだけ暴れればあんなことになるんですか」
「でも。楽しかった」
「プ、プリム!」
平謝りモードの俺など関係ないとばかりに素直な感想を口にするプリム。
ああ、もう、この子ったら!
「あー、そーですかー。それはよかったですねー」
「うん。ありがとう?」
言葉とは裏腹に顔を引きつらせ、青筋を立てる受付嬢。
「?」と小首をかしげる不思議系魔法少女。
俺はどうでもいいやぁ、とどこ吹く風の不死身ゴリラ。
どうやら、このパーティーでまともなのは俺だけらしい。た、頼む、頼むから誰か常識人をっ……。
「これは明らかに依頼外の事象です。復旧工事に集落の方々への見舞金など、金3枚銀67枚! あなたたちにも負担していただきますからね!」
き、金3まい……?
ええと、ええと? 銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だから……。
あ、いいや。もう、考えるのをやめよう。
と、真っ白になりかけていたところで、受付嬢は佇まいを直し、一つ咳ばらいをすると――
「――ですが。あれだけあった公設クエストは全部片づけていただきましたし、こちらの不手際があったことも事実です」
「だよねえ。俺たちは言われた通りにしただけだし」
「……何かおっしゃいました?」
「いえいえいえいえ! 何でもありません! 悪いのは全部僕たちでーす! な、な? トラックス?」
「まあいいでしょう。そういうことでして、全額とは参りませんが、気持ちばかりとして銀貨2枚はお支払いいたします」
はあ。あれだけ頑張って銀貨二枚かあ。
いやでも、ここで借金するよりはマシだよな。過ぎたことは仕方ない、前向きに行こう。
「そして――」
え、何、まだ何かあるの?
「――皆さんにはこれまで信頼を積み重ねていただいたことに感謝して……特別依頼をご紹介いたしまーす!」
ぱんぱかぱーん、と間抜けな響きの歌を歌いながら受付嬢は妙なことを言い出した。
なんとなく、ろくでもない話のような気がしないでもないが。気のせいであってほしい。
「とくべついらい? なんですか、それ」
「ふっふっふ、こんな美味しい依頼、年に一回あるかどうかなんですよー? 実はですね……」
*
「――へー。その……エルデ村、ってとこに依頼人を送り届ければ金貨1枚、ですか」
「ええっ! 何ですかその微妙そうな顔は! こんな破格の条件、そうそうありませんよっ!?」
正直な話、魔物のAとかBとかそういうランクなんて俺からすれば誤差みたいなものだ。
なので、討伐依頼なら……いっそのこと、ランクSSSSです! くらいの、頭の悪そうな依頼の方がよっぽどマシだったかもしれない。
それに――
「――まあ、ジール君がディルベスタに早く行きたい、っていうのは分かるけどさ」
色々なことが立て続けに起きて忘れてしまいそうだったが、今の俺の目標はここからだいぶ北西に行ったところにある、ディルベスタへ行くことだ。
だから、そんなことをしている時間も惜しい、他を当たってくれ――と、言いたいところなのだが……
「お金、ない」
そう、先立つものがないのである。
何しろ、今回の報酬を当てにしてコツコツ貯めていた旅の資金をかなり使ってしまっていたのだ。
ブーツやグローブなどの修繕はともかく、ダリアの蕩け顔見たさに毎日の食事を少し豪華にしてしまったのは完全に余計だった。
「金貨1枚といっても、依頼人と俺たちの経費もそこから出すんですよね」
「まあ……そうですけどお。でも、皆さんの分を合わせても銀貨60枚は余る計算になると思いますよ」
そう言われて、カウンターに広げられた地図に再び目を落とす。
ここを出て、ロゼール街道を北上し、いくつかの集落を経由して、"開拓地"ディルベスタへと続く街道の途中にある分かれ道から西へ。
その先、"瘴気の森"の手前15リークほどのところに"エルデ村"の印がつけられていた。
「……まあ、仕方ないか」
「仕方、ない」
「いいじゃない。ちょっと寄り道するようなもんでしょ」
「それじゃ、決まりですねっ! じゃあ、依頼人さんを――」
「――すみません、ちょっと待ってもらえます?」
そそくさと話をまとめようとする受付嬢を止め、ぽけーっと俺の脇で突っ立っていた二人の方を向く。
こちらの緊張感とは真逆で、相変わらずの気の抜けた雰囲気で何? という表情を浮かべる二人。
「二人とも、本当にいいのか?」
俺は、二人の意志を問う。
「俺と正式にパーティーを組んでも、いいのか?」
最後に、もう一度だけ確認するために。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
☆やブクマして頂けますと作者のやる気が100倍になる!…かもしれません。
軌道に乗ればこちらの作品も挿絵を入れていきたいと思います。
どうかよろしくお願いします!!




