5 四条凛音・非公式面接①
翌日の昼休み。
俺は購買に向かおうと廊下を歩いていた。今日は凛音からの誘いはない。昨日の弁当のお礼は伝えたが、毎日というわけにもいかないだろう。
「雨宮大樹くんね」
突然、背後から声がかかった。
振り返ると、見覚えのある三人の女子生徒が立っていた。凛音と一緒にいるのを何度か見かけたことがある。
「ちょっと、話があるの」
中央に立つ女子が、腕を組んで言った。ショートカットで、意志の強そうな目をしている。
「逃げないで」
その隣の、茶髪でギャル系の女子が笑顔で言った。笑顔だが、目が笑っていない。
「あの……怖がらせるつもりは……ないんですけど……」
もう一人の、おっとりした雰囲気の女子が申し訳なさそうに言った。
——いや、十分怖い。
「話って……何ですか?」
「ついてきて」
ショートカットの女子が先導する形で、俺は空き教室に連れて行かれた。
*
空き教室に入ると、三人は俺を囲むように立った。
「まず自己紹介するわ。私は佐伯咲来。凛音ちゃんの友達」
ショートカットの女子が名乗った。
「私は田村杏奈。よろしくね、雨宮くん」
ギャル系の女子がウインクした。
「私は……山本百花です。その……よろしくお願いします」
おっとり系の女子が頭を下げた。
「で、何の話ですか?」
俺が聞くと、咲来が真剣な表情で言った。
「単刀直入に聞くわ。あなた、四条さんのこと、どう思ってるの?」
「どうって……」
「ちゃんと答えて。私たち、凛音ちゃんの友達だから」
杏奈が言った。
「凛音さん……とっても純粋な人だから……」
百花が心配そうに言った。
「だから、軽い気持ちで近づいたなら、今すぐ離れて」
咲来の目が鋭い。
俺は少し考えてから、口を開いた。
「……正直に言います」
三人が息を呑んだ。
「最初は、本当に誤解だったんです」
「誤解?」
「寝不足でぼーっとしてただけで……告白なんてしてない。ただ、たまたま視線が四条さんの方に向いていて……」
三人が顔を見合わせる。
「でも……四条さんは、俺の知ってる『お嬢様』とは違った」
俺は続けた。
「手作り弁当を作ってきてくれたり……家族のこと、ちゃんと聞いてくれたり……」
昨日の屋上での会話を思い出す。凛音の寂しそうな表情。家族と一緒に食事をする俺を羨ましがっていた彼女。
「……良い人だな、って思いました」
本音だった。
三人は再び顔を見合わせた。
「ねえ、咲来」
杏奈が小声で言った。
「この子、本気っぽくない?」
「うん……そうみたい」
咲来が頷いた。
「……あの、雨宮くん」
百花が一歩前に出た。
「四条さん、実は……すごく寂しがり屋なんです」
「え?」
「パパもママも忙しくて、いつも一人で。家には使用人さんたちがいるけど……友達と遊ぶ時間も少なくて……」
杏奈が続けた。
「私たちも、最初は『お嬢様』として近づいたの。正直、ちょっと怖かったし、距離があった」
咲来が腕を解いた。
「でも、凛音ちゃんは、私たちを『友達』って呼んでくれた。遠慮しないでって、何度も言ってくれた」
三人の表情が柔らかくなった。
「だから……もし本気で凛音ちゃんのこと考えてくれるなら……私たちは、応援する」
咲来が真剣な目で言った。
「ただし、傷つけたら許さないから」
「そのときは、私たちが黙ってないよ」
杏奈がニッコリ笑った。怖い。
「あの……でも、凛音さん、きっと幸せになってくれると思います」
百花が優しく微笑んだ。
俺は、三人の言葉に胸が熱くなった。
凛音には、こんなに心配してくれる友達がいる。それだけでも、彼女は幸せなんじゃないだろうか。
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「四条さんを……大切にします」
その言葉が、自然と口から出ていた。




