4 お嬢様の本気アプローチ①
翌朝、校門をくぐると、いつもの視線が刺さる。
もう三日目だ。さすがに慣れてきた——というのは嘘で、全く慣れない。
周囲の生徒たちが俺を見て、ひそひそと話している。昨日の購買前での出来事が、また拡散されたらしい。
俺は視線を気にしないふりをして、昇降口へ向かった。
「雨宮くん!」
突然、後ろから声がかかった。
振り返ると、四条凛音が小走りでこちらに近づいてくる。長い黒髪が風になびき、周囲の空気が一瞬で変わった。
「「「!!!」」」
校門付近にいた生徒たちが、一斉にこちらを見る。
「あの……昨日のクッキー、食べてくれましたか?」
凛音が俺の前で立ち止まり、期待に満ちた目で見つめてくる。
「あ、ああ……美味しかったです」
嘘ではない。本当に美味しかった。妹たちも絶賛していた。
「よかった!」
凛音がぱあっと笑顔になった。その笑顔は、朝日に照らされて眩しいくらいだ。
「それで、今日は……」
彼女がカバンから何かを取り出す。
二段重ねの、綺麗な弁当箱だった。
「お昼、一緒に食べませんか?」
周囲がざわついた。
「えええええ!?」
「手作り弁当!?」
「四条様が!?」
スマホを取り出す生徒が何人もいる。また撮影されている。
「いや、でも——」
俺は言葉に詰まった。
断る理由が見つからない。いや、正確には、断るべき理由はあるのだが、この状況で断れば、また凛音を傷つけることになる。
「ダメ……ですか?」
凛音が少し不安そうに、上目遣いで俺を見つめる。
——ッ!?
心臓が跳ねた。
周囲の視線が、明らかに「断るんじゃねえぞ」と語っている。特に女子たちの視線が痛い。
「……わかりました」
「本当ですか!?」
凛音の顔がぱあっと輝いた。
「じゃあ、お昼休みに。屋上で待ってます!」
そう言って、凛音は嬉しそうに昇降口へ向かっていった。
残された俺と、ざわめく野次馬たち。
どうしてこうなった。
*
午前の授業は、全く頭に入らなかった。
凛音と二人きりで昼食。その事実が、頭の中でぐるぐると回っている。
田中が心配そうに声をかけてきた。
「雨宮、お前大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「大丈夫じゃない」
「まあ、そうだろうな。四条様と二人きりのランチとか、学園中の男子が羨むぞ」
「羨まれても困る」
「でもさ、お前、ちょっとは四条様のこと意識してるだろ?」
田中がニヤニヤしながら聞いてくる。
「……わからない」
正直に答えた。
昨夜、妹たちに言われたことが頭に残っている。『相手の気持ちに向き合ってあげて』という言葉。
確かに、凛音は本気で俺のことを想ってくれている。手作りのクッキー、丁寧な手紙、そして今日の弁当。
その気持ちに、ちゃんと向き合うべきなのかもしれない。
でも、俺には妹弟がいる。バイトもある。恋愛に割く時間も余裕もない。
そんな俺が、凛音のような令嬢と釣り合うわけがない。
「まあ、とりあえず今日のランチを楽しんでこいよ」
田中が肩を叩いた。
「楽しめるかどうか……」
「大丈夫だって。四条様、すごく良い人らしいし」
そうかもしれない。でも、それが余計に辛い。




