エピローグ
それから三年後——
俺は大学三年生になっていた。経営学部に進学し、将来は自分の力で凛音を支えられるよう、真面目に勉強を続けていた。
バイトも続けている。妹たちは既に高校生と中学生になり、蒼葉も小学校の高学年だ。三人とも、しっかり成長してくれた。
凛音は同じ大学の文学部に進学していた。二人は別の学部だったが、毎日のように会っていた。昼休みには一緒にランチを食べ、授業が終われば図書館で一緒に勉強した。付き合い始めてから三年以上が経つが、二人の関係は以前よりもさらに深まっていた。
ある春の日曜日、俺は凛音を、あの公園に誘った。初めて三人で遊んだ公園。蒼葉が迷子になった公園。そして、ガチャガチャの指輪を渡した、思い出の場所だ。
「懐かしいですね」
凛音が嬉しそうに言った。桜が満開で、公園全体がピンク色に染まっていた。
「ええ。あの日から、もう三年以上経つんですね」
「あっという間でした」
二人で、あの日歩いた道を辿った。遊具エリア、芝生広場、池の周り——全部、思い出が詰まっている。
「ここで、シャボン玉しましたね」
凛音が芝生広場を見つめた。
「凛音さん、最初は液を飛ばしてましたね」
「もう! あの時は恥ずかしかったんですから」
凛音が頬を膨らませた。その仕草が可愛くて、俺は笑ってしまった。
「でも、すぐに上手になりましたよ」
「雨宮くんが、優しく教えてくれたおかげです」
二人で歩き続けた。そして、あのガチャガチャの機械の前で立ち止まった。
「ここで、指輪をもらいました」
凛音が左手を見せた。あのプラスチックの指輪は、今はネックレスとして首にかけられていた。大学に入ってから、指輪が少し窮屈になったため、ネックレスに変えたのだ。でも、凛音は毎日、それを身につけていた。
「まだ、大切に持ってるんですね」
「当たり前です。雨宮くんからもらった、一番大切な宝物ですから」
凛音が微笑んだ。その笑顔を見て、俺の決意が固まった。今日、この場所で、ちゃんと伝えよう。この三年間、ずっと考えていたことを。
「あの、凛音さん」
「はい?」
「少し、話があります」
「はい」
俺は深呼吸をした。手が震えている。でも、もう迷わない。
「凛音さん、俺と……」
その時、子供たちの声が聞こえた。小学生くらいの男の子が二人、ガチャガチャの機械に向かって走ってくる。
「あ、ごめんね」
俺たちは少し場所を空けた。子供たちは嬉しそうにガチャガチャを回している。その様子を見て、凛音が懐かしそうに笑った。
「私たちも、あの日こうやって……」
「ええ」
子供たちが去った後、俺たちは機械の前に戻った。
「凛音さん、もう一回、ガチャガチャやってみませんか?」
「え? 今ですか?」
「はい」
俺は百円玉を取り出して、機械にコインを入れた。ガラガラガラ……カプセルが出てきた。
「何が出るでしょうね」
凛音が興味深そうに見ている。俺はカプセルを開けた。中には——小さな指輪のキーホルダーが入っていた。
「指輪……また、指輪ですね」
凛音が笑った。
「でも、今回はキーホルダーですね」
「ええ……でも」
俺はポケットから、小さな箱を取り出した。凛音の目が大きく見開かれた。
「雨宮くん……それは……」
「凛音さん」
俺は片膝をついた。凛音の手が、口元に当てられた。その目には、既に涙が浮かんでいた。
「三年前、この場所で、俺はガチャガチャの指輪を凛音さんに渡しました。あの時、俺はまだ自分の気持ちがよくわかっていませんでした」
俺は箱を開けた。中には、ダイヤモンドの指輪が輝いていた。
「でも、今は違います。俺は、凛音さんのことが大好きです。凛音さんと、ずっと一緒にいたいです」
凛音の涙が、頬を伝った。
「四条凛音さん、俺と結婚してください」
その言葉を聞いて、凛音が泣き崩れた。俺の前にしゃがみ込んで、両手で顔を覆った。
「凛音さん……?」
「嬉しい……嬉しすぎて……」
凛音が顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃだったが、それでも笑顔だった。
「はい……喜んで……」
俺は凛音の手を取って、左手の薬指に指輪をはめた。完璧にフィットした。凛音はしばらく、その指輪を見つめていた。
「綺麗……」
「凛音さんに似合うように、一生懸命選びました」
「ありがとうございます……」
凛音が俺に抱きついた。二人で、しばらく抱き合っていた。周りの家族連れが、温かい拍手を送ってくれた。
「おめでとう!」
「素敵!」
そんな声が聞こえてきた。凛音が顔を上げた。
「あの……この指輪、どうやって……?」
「バイト代を貯めました。三年間、コツコツと」
「三年間……?」
「はい。大学に入った時から、いつかプロポーズしようって決めてたんです」
その言葉を聞いて、凛音がまた泣き始めた。
「雨宮くん……ありがとうございます……」
凛音が首にかけていたネックレスを外した。あのプラスチックの指輪だ。
「この指輪……大切に保管します」
「はい」
「そして、新しい指輪と一緒に……ずっと、大切にします」
凛音が微笑んだ。
「雨宮くん、私……本当に幸せです」
「これからも、もっと幸せにします」
俺が言うと、凛音が微笑んだ。
「あの日、大樹さんがぼーっと私を見てくれて……本当によかった」
「俺も、そう思う」
二人で、笑い合った。
寝不足の視線から始まった、誤解の恋。
でも、今では本物の愛になった。
これから、俺たちの新しい人生が始まる。
二人で、ずっと一緒に——




