3 妹たちの査定会議①
夕飯の準備を終え、四人でテーブルを囲む。
今日のメニューは照り焼きチキン、ほうれん草のお浸し、豆腐とわかめの味噌汁。蒼葉のリクエストで、デザートにプリンも用意した。
「いただきます」
手を合わせて食事を始める。
しかし、妹たちの視線が痛い。三人とも、時々俺の顔を見ては、何か言いたげな表情をしている。
「……何だよ」
「ねえ、お兄ちゃん」
さくらが箸を置いた。
「四条凛音さんって、どんな人なの?」
来た。
「お兄ちゃんのこと、本気で好きなの?」
すみれも箸を置いて、身を乗り出してくる。
「りんねおねえちゃん、かわいいよね!」
蒼葉だけは無邪気に笑っている。
俺は深呼吸をした。
「まず聞いてくれ。あれは誤解なんだ」
「誤解って?」
「だから、俺は告白なんてしていない。ただ、授業中に寝不足でぼーっとしていたら、たまたま視線が凛音の方に向いていて——」
「で、四条さんが勘違いしたってこと?」
さくらが冷静に確認してくる。
「そういうこと」
「じゃあ、お兄ちゃんは四条さんのこと、どう思ってるの?」
「どうって……よく知らないし……」
すみれが不満そうに頬を膨らませた。
「お兄ちゃん、それ失礼だよ。相手は本気なのに」
「わかってる。だから明日、ちゃんと話すつもりだ」
「話して、どうするの?」
さくらが真剣な表情で聞いてくる。
「誤解を解く」
「それで終わり?」
「……それで終わりだと思う」
二人が顔を見合わせた。
「お兄ちゃんがモテるのは嬉しいけどさ」
さくらがゆっくりと言った。
「私たち、お兄ちゃんが無理してないか心配なんだよね」
「無理って?」
「だって、お兄ちゃん、私たちのために毎日頑張ってくれてるでしょ。朝ごはん作って、お弁当作って、バイトして……」
さくらの目が少し潤んでいた。
「もしお兄ちゃんに好きな人ができたら、私たちのこと、邪魔だって思われないかなって」
「馬鹿」
俺はさくらの頭に手を置いた。
「お前ら三人がいなきゃ、俺はとっくに潰れてる。邪魔なんて思うわけないだろ」
「……本当?」
「本当だ」
すみれも心配そうに俺を見ている。
「お金持ちって聞いたけど、四条さん、お兄ちゃんのこと馬鹿にしたりしない? 両親がいないこととか、バイトしてることとか……」
その言葉に、俺は少し胸が痛んだ。
確かに、四条凛音は名門のお嬢様だ。俺のような、親を亡くして妹弟の面倒を見ながらバイトをしている人間とは、住む世界が違う。
「大丈夫だ。そもそも、付き合うわけじゃないから」
「ぼく、りんねおねえちゃんとあそびたい!」
蒼葉が突然叫んだ。
「なんで蒼葉、凛音のこと知ってるんだ?」
「だって、ゆーちゅーぶでみたもん! がくえんのひめさまって、みんないってた!」
「YouTube!?」
まさか小学生の間でも話題になっているとは。
さくらがスマホを取り出して、検索し始めた。
「あ、本当だ。『四条凛音』で検索したら、たくさん出てくる」
画面を見せられる。そこには、凛音の画像や動画がたくさんあった。
「学園のアイドル的存在なんだね」
「すごいお金持ちの家らしいよ。慈善事業とかもやってる」
すみれも興味津々で画面を覗き込んでいる。
「でも、本人は物腰が柔らかくて、誰にでも優しいって評判みたい。あ、これ見て」
さくらが動画を再生した。学園祭の様子らしい。凛音が模擬店で笑顔で接客している。
「普通に焼きそば作ってる……」
「意外と庶民的なんだね」
すみれが驚いた様子で言った。
「料理もできるんだ。お嬢様なのに」
「お兄ちゃんが好きになっても、おかしくないよね」
「だから、好きになってないって」
「じゃあなんで、四条さんはそう思ったの?」
「だから、寝不足でぼーっとしてたら、視線が合って……」
「それだけで好きになるって、四条さん、ピュアなんだね」
すみれがほんわかした表情で言った。
さくらが俺の顔をじっと見つめてくる。
「お兄ちゃん、もしかして嫌なの? 四条さんのこと」
「嫌とかじゃなくて……」
俺は言葉に詰まった。
昨日、屋上で見た凛音の表情が脳裏をよぎる。少し寂しそうで、でもどこか希望を持っているような、そんな顔。『ずっと、誰かに本気で見つめられたこと、なくて』と言っていた彼女の言葉も思い出される。
「まあ、悪い人じゃなさそうだけど」
「お兄ちゃん、顔赤い!」
すみれが指を差して笑った。
「赤くない」
「赤いよー」
「……ふーん」
さくらがニヤリと笑った。その顔は、何かを企んでいるようにも見える。
「とにかく、明日ちゃんと話してくる。それで終わりだ」
「はいはい」
二人は納得していない様子だったが、それ以上は追及してこなかった。




