17 誕生日パーティーの誓い①
凛音の誕生日パーティーは、三月の第一土曜日に開催されることになっていた。
その日が近づくにつれ、俺の緊張は日に日に高まっていった。これまでの五ヶ月間、凛音と一緒にマナーを勉強してきた。テーブルマナー、会話の作法、立ち居振る舞い——全てを学んだ。
でも、本番で失敗したらどうしよう、という不安は消えなかった。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
パーティー前日の夜、さくらが心配そうに声をかけてきた。
「ああ、大丈夫だ」
「嘘。顔に書いてあるよ」
すみれも頷いた。
「でも、お兄ちゃんなら大丈夫だよ。この五ヶ月、すごく頑張ってたもん」
「そうだよ。四条さんも、お兄ちゃんのこと信じてるんだから」
二人の言葉に、少し勇気が湧いた。そうだ、凛音が隣にいてくれる。一人じゃない。
「ありがとう」
*
パーティー当日の朝、俺は早くから準備を始めた。スーツは、凛音が選んでくれたものだ。ダークネイビーのスリーピーススーツに、白いシャツ、シルバーグレーのネクタイ。鏡の前で何度も確認した。髪も、いつもより丁寧に整えた。
「お兄ちゃん、かっこいい!」
蒼葉が目を輝かせた。
「本当、すごく似合ってる」
さくらとすみれも、感心した顔をしている。
「行ってくるな」
「頑張って!」
妹たちに見送られて、俺は家を出た。
*
四条家に着くと、既に多くの車が停まっていた。高級車ばかりだ。門をくぐると、庭には華やかなイルミネーションが施されていた。まるで別世界のようだ。玄関では、執事が丁寧に出迎えてくれた。
「雨宮大樹様ですね。お待ちしておりました。凛音お嬢様は、既にパーティー会場におられます」
「ありがとうございます」
執事に案内されて、パーティー会場へ向かった。廊下を歩きながら、俺の心臓は激しく鳴り続けた。会場の扉が開くと、そこには想像以上に豪華な光景が広がっていた。シャンデリアが輝き、大きなテーブルには美しい料理が並んでいる。すでに多くの客が集まっていて、上品な会話が交わされていた。みんな、高そうなドレスやスーツを着ている。俺は、この中で浮いていないだろうか。不安が押し寄せてきた。
「雨宮くん」
声がして、振り返った。凛音が立っていた。淡いピンクのドレスを着て、髪を綺麗にまとめている。まるでお姫様のようだった。
「凛音さん……綺麗です」
俺が言うと、凛音が頬を染めた。
「ありがとうございます。雨宮くんも……すごく素敵です」
「ありがとうございます」
凛音が俺の腕に手を添えた。
「緊張してますか?」
「少し……」
「大丈夫です。私が一緒にいますから」
凛音が微笑んだ。その笑顔を見て、俺の緊張が少しだけ和らいだ。
「まず、お父様に挨拶に行きましょう」
凛音に案内されて、会場の奥へ向かった。そこには、四条厳一郎が立っていた。黒のタキシードを着て、周囲の人々と談笑している。俺たちに気づくと、四条氏が歩み寄ってきた。
「凛音、雨宮くん」
「お父様」
凛音が挨拶した。俺も深く一礼した。
「本日は、お招きいただき、ありがとうございます」
「よく来てくれた。今日は、楽しんでいってくれ」
四条氏が言った。その声には、以前のような冷たさはなかった。むしろ、温かみさえ感じられた。
「それと、雨宮くん」
「はい」
「後で、紹介したい人がいる。少し時間をもらえるか」
「はい、もちろんです」
四条氏が頷いて、他の客の方へ向かった。凛音が俺を見た。
「お父様、雨宮くんのこと、認めてくれてると思います」
「そうだといいんですけど……」
「大丈夫です。この五ヶ月、雨宮くんがどれだけ頑張ったか、お父様も知ってますから」




