16 半年間の試練③
その夜、家に帰ってから、俺は自分の部屋で考えていた。
半年後の誕生日パーティー。そこで、凛音の父親に認めてもらわなければならない。
でも、俺には社交界のマナーなんて、わからない。どうすればいいんだろう。
ノックの音がして、さくらが部屋に入ってきた。
「お兄ちゃん、何か悩んでる?」
「ああ……ちょっとな」
俺は、冴から聞いた話をさくらに話した。半年後のパーティーのこと。そこで認めてもらわなければならないこと。
「それは……大変だね」
さくらが真剣な顔で言った。
「でも、大丈夫だよ。お兄ちゃんなら」
「でも、俺、社交界のマナーとか、全然わからないんだ」
「なら、勉強すればいいじゃん」
さくらが当然のように言った。
「勉強?」
「そうだよ。半年もあるんだから、その間に勉強すればいい」
「でも、何から始めればいいのか……」
「四条さんに聞いてみたら? きっと、教えてくれるよ」
さくらの言葉に、俺ははっとした。そうだ、凛音に聞けばいい。彼女なら、マナーのことも詳しいはずだ。
「ありがとう、さくら」
「どういたしまして」
さくらが笑って、部屋を出て行った。俺はスマホを取り出して、凛音にメッセージを送った。
『凛音さん、相談があります。
明日、話せますか?』
すぐに返信が来た。
『はい、大丈夫です。
どうしましたか?』
『半年後のパーティーのこと、聞きたくて。
マナーとか、教えてもらえますか?』
少し間があって、返信が来た。
『もちろんです!
喜んで教えます。
明日、放課後に図書室で会いましょう。』
その文章を読んで、俺の気持ちが少し軽くなった。凛音と一緒なら、乗り越えられる。そう思えた。
*
火曜日の放課後、俺は図書室で凛音を待っていた。しばらくすると、凛音が本を何冊も抱えて現れた。
「雨宮くん、お待たせしました」
「いえ」
凛音が本をテーブルに置いた。マナーの本、社交界の本、会話術の本……様々な本が並んだ。
「これ、全部……」
「はい。雨宮くんのために、選んできました」
凛音が嬉しそうに笑った。
「これから、一緒に勉強しましょう」
「ありがとうございます」
二人で、本を開いた。凛音が丁寧に、一つ一つ説明してくれる。テーブルマナー、挨拶の仕方、会話の作法……覚えることは山のようにあった。でも、凛音が隣にいてくれるだけで、不安は消えていった。
「雨宮くん、すごいです。覚えるのが早い」
「本当ですか?」
「はい。このペースなら、半年後には完璧になりますよ」
凛音が微笑んだ。
「私も、全力でサポートします」
「ありがとうございます」
俺は凛音の手を握った。
「凛音さんがいてくれて、本当に心強いです」
「私も……雨宮くんと一緒なら、何でも乗り越えられる気がします」
二人で、しばらく見つめ合った。そして、また勉強に戻った。半年後、俺は凛音の父親に認められる。その目標に向かって、今日から一歩ずつ進んでいく。
*
それから、俺と凛音の日々は変わった。授業の合間、昼休み、放課後——時間があれば、二人でマナーの勉強をした。凛音が丁寧に教えてくれるおかげで、少しずつだが、俺も上達していった。週末には、凛音の家でディナーマナーの実地訓練をした。最初は緊張したが、凛音が優しく教えてくれるので、だんだんと慣れていった。
一ヶ月が過ぎた頃、凛音の父親から、俺に手紙が届いた。
『雨宮大樹殿
凛音から、君が真面目にマナーの勉強をしていると聞いた。
感心している。
この調子で、努力を続けなさい。
四条厳一郎』
その手紙を読んで、俺の胸が熱くなった。認められている。少しずつだが、凛音の父親に認められている。その実感が、さらに俺を奮い立たせた。




