16 半年間の試練②
月曜日の朝。
週末の出来事が、まだ夢のように感じられた。
でも、これは現実だ。俺と凛音は、正式に付き合っている。
そして、凛音の父親からも、半年間の条件付きで認められた。
学校に着くと、教室はいつもの賑やかさだった。席に座ると、田中がすぐに話しかけてきた。
「雨宮、土曜日どうだった?」
「え?」
「四条様の親父さんと会ったんだろ?」
田中がニヤニヤしている。
「……なんで知ってるんだ」
「四条様から聞いた」
「凛音さんから?」
「ああ。今朝、校門で会ってな。すごく嬉しそうだったぞ」
田中が笑った。
「よかったな」
「ああ……半年間の条件付きだけど」
「半年? それって、お試し期間ってこと?」
「まあ、そんな感じだな」
「大変だな。でも、お前ならできるだろ」
田中が肩を叩いた。その時、教室の扉が開いた。四条凛音が入ってきた。俺と目が合うと、凛音の顔がぱあっと明るくなった。周囲の生徒たちが、小さくざわついた。凛音が自分の席に向かう途中、俺の席の前で立ち止まった。
「雨宮くん、おはようございます」
「おはようございます」
凛音が微笑んだ。その笑顔を見て、俺も自然と笑顔になった。周囲から、さらに大きなどよめきが起こった。
「あれ、完全に付き合ってるだろ」
「四条様、めっちゃ嬉しそう」
「雨宮、すげえな」
そんな声が聞こえてきたが、もう気にならなかった。
*
昼休み、いつものように二人で屋上へ向かった。階段を上りながら、凛音が嬉しそうに話しかけてきた。
「雨宮くん、昨日の夜、お父様とまた話したんです」
「はい」
「お父様、雨宮くんのこと……悪い人じゃないって言ってました」
「本当ですか?」
「はい。『家族思いで、誠実そうだ』って」
凛音が嬉しそうに笑った。
「でも、『本当に凛音を幸せにできるか、半年間で証明しろ』とも言われました」
「そうですか……」
俺たちは屋上に着き、いつもの場所に座った。凛音がお弁当箱を開けると、今日も綺麗に盛り付けられた料理が並んでいた。
「今日は、雨宮くんの好きな唐揚げ、たくさん入れました」
「ありがとうございます」
二人で、お弁当を食べ始めた。穏やかな時間が流れる。でも、俺の頭の中では、半年後のことを考えていた。どうすれば、父親に認めてもらえるのか。どうすれば、凛音を幸せにできるのか。
「雨宮くん、何か考え事ですか?」
凛音が心配そうに聞いてきた。
「いえ……ちょっと」
「お父様のこと、ですか?」
「……はい」
凛音が俺の手を握った。
「大丈夫です。雨宮くんと一緒なら、乗り越えられます」
「凛音さん……」
「それに、お父様も、本当は雨宮くんのこと、認めたいんだと思います」
「え?」
「だって、半年間も待ってくれたんですから。もし本当に反対なら、すぐに別れろって言うはずです」
凛音が微笑んだ。
「お父様は、私の幸せを願ってくれてる。だから、雨宮くんが本当に私を幸せにできるか、確かめたいんです」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。そうだ、これはチャンスなんだ。凛音の父親に、俺の誠意を見せるチャンス。
「わかりました。半年間、精一杯頑張ります」
「はい。一緒に、頑張りましょう」
二人で、手を繋いだまま、お弁当を食べ続けた。
*
放課後、俺は生徒会室に呼ばれた。氷室冴が、話があるという。ドアをノックすると、「どうぞ」という声が聞こえた。中に入ると、冴が一人で書類を整理していた。
「雨宮くん、座って」
「はい」
俺は椅子に座った。冴が書類を脇に置いて、俺を見た。
「土曜日、凛音ちゃんのお父さんと会ったんだって?」
「はい」
「凛音ちゃんから聞いたわ。半年間の条件付きで、認めてもらえたって」
「はい……」
冴が微笑んだ。
「よく頑張ったわね」
「ありがとうございます」
「でも、ここからが本番よ」
冴の表情が真剣になった。
「四条家の当主は、言葉通りの人。半年後、あなたが凛音ちゃんにふさわしくないと判断したら、容赦なく別れを強要するわ」
「……はい」
「だから、気を抜かないで。凛音ちゃんを、ちゃんと大切にして」
冴が立ち上がった。
「それと、もう一つ」
「はい?」
「半年後、四条家では大きなパーティーがあるの。凛音ちゃんの誕生日パーティー」
「誕生日……」
「そう。そこに、あなたも招待されるはず。そのパーティーで、あなたがどう振る舞うか……それが、最終的な判断材料になるわ」
冴が俺を見つめた。
「だから、その日までに、ちゃんと準備しておきなさい」
「準備……ですか?」
「ええ。四条家のパーティーには、多くの名士が集まる。あなたは、そこで凛音ちゃんのパートナーとして、恥ずかしくない振る舞いをしなければならない」
冴が続けた。
「マナー、会話、立ち居振る舞い……全部が見られるわ」
その言葉に、俺は少しプレッシャーを感じた。でも、同時に決意も固まった。
「わかりました。頑張ります」
「そう。頑張りなさい」
冴が微笑んだ。
「凛音ちゃん、あなたのこと、本当に大切に思ってるから。裏切らないでね」
「……はい」




