2 学園騒然、俺は何もしていない②
昼休みが終わり、午後の授業。
四時間目の途中、俺は考えた。このままでは誤解が広がる一方だ。放課後、凛音に直接会って、きちんと説明しなければならない。
授業が終わり、放課後。
俺は人目を避けて、屋上へ向かうことにした。ここなら誰もいないだろう。少し時間を置いてから、凛音を探そう。
屋上のドアを開ける。
すると——
「あ……」
そこには、四条凛音がいた。
フェンスに寄りかかり、空を見上げている。風に黒髪がなびいている。
「雨宮くん……」
凛音が俺に気づき、驚いた表情を見せた。
気まずい沈黙が流れる。
「あの、昨日のことなんだけど——」
俺が口を開くと、凛音も同時に話し始めた。
「私、驚きましたけど——」
二人で止まる。
「あ、ごめん。先にどうぞ」
「いえ……雨宮くんから、お願いします」
俺は深呼吸をした。ここできちんと説明しなければ。
「昨日、俺が授業中に君を見ていたのは——」
「はい」
凛音が真剣な表情で俺を見つめる。
「——その、寝不足で、ぼーっとしていただけで、特に深い意味は——」
「嬉しかったんです」
凛音が俺の言葉を遮った。
「え?」
「ずっと、誰かに本気で見つめられたこと、なくて……」
凛音の表情が、少し寂しそうになった。
「私、四条家の娘だから、みんな遠慮するんです。話しかけられても、本心かどうかわからなくて……」
彼女は視線を空に向けた。
「でも、雨宮くんの視線は……まっすぐで……怖いくらい真剣で……」
「あ、あの……」
「だから……もう少し、時間をください。私の気持ち、整理させてください」
凛音がもう一度、俺を見た。頬が赤く染まっている。
俺は言葉を失った。
これは、完全に誤解が前提で話が進んでいる。
「あの、四条さん、俺は本当に——」
「凛音です」
「え?」
「凛音って、呼んでください」
彼女は恥ずかしそうに言った。
俺は頭を抱えたくなった。
どうすればいいんだ、これ。
*
家に帰ると、玄関で妹たちが待ち構えていた。
「お兄ちゃん!」
さくらとすみれが同時に叫んだ。
「説明して! ちゃんと説明して!」
「四条凛音って、あの超お金持ちの!?」
二人に詰め寄られる。
「りんねおねえちゃん!」
蒼葉までもが、なぜか凛音のことを知っているようだった。
「どこから情報が……」
「学校中で話題になってるもん! うちのクラスの子も知ってた!」
さくらが言った。
「ネットニュースにもなってるよ! 『名門学園の令嬢、クラスメイトに告白される』って!」
すみれがスマホを突きつけてくる。
画面には、確かに記事があった。顔にはモザイクがかかっているが、間違いなく俺と凛音だ。
「お兄ちゃん、本当に告白したの?」
「してない」
「じゃあなんで——」
「寝不足で、ぼーっとしていたら、偶然視線が向いていただけだ」
三人が沈黙した。
「……それ、最悪じゃん」
さくらが呟いた。
「最悪って……」
「だって、相手は本気なのに、お兄ちゃんは何も考えてなかったってことでしょ?」
「そうだけど……」
「ちゃんと謝らなきゃダメだよ。傷つけちゃうよ」
すみれも頷いた。
俺は、はたと気づいた。
確かに、凛音は本気で俺の気持ちを受け取ったと思っている。その誤解を放置したまま、ただ「違う」と言い続けるのは、彼女を傷つけることになるかもしれない。
でも、どうすればいいんだ。
本当のことを言えば、彼女は恥ずかしい思いをするだろう。言わなければ、誤解は広がり続ける。
「お兄ちゃん、明日ちゃんと話してきなよ」
さくらが真剣な顔で言った。
「わかった」
俺は頷いた。
明日、凛音にきちんと話そう。本当のことを、正直に。
それしか、方法はない。




