15 二人の誓い①
金曜日の朝。
目が覚めた瞬間、昨日のことが鮮明に思い出された。
屋上で凛音に告白したこと。
凛音が「大好きです」と答えてくれたこと。
二人で抱き合ったこと。
全部が、夢のように感じられた。
でも、これは現実なんだ。俺と凛音は、両想いだ。
その事実だけで、胸がいっぱいになった。
布団から出て、いつも通りに朝の準備を始めた。妹たちを起こし、朝食を作る。でも、今日はいつもと違う気分だった。軽やかで、温かい気持ちが胸にあった。
「お兄ちゃん、すごく機嫌いいね」
さくらが笑いながら言った。
「そうか?」
「そうだよ。さっきから、鼻歌歌ってるもん」
すみれも頷いた。
「昨日、上手くいったんだね」
「まあ、な」
俺が答えると、二人が「おおー!」と声を上げた。
「お兄ちゃん、やったね!」
「おめでとう!」
蒼葉も嬉しそうに笑った。
「おにいちゃん、おひめさまとなかよくなったの?」
「ああ、そうだな」
三人の祝福の言葉に、俺の顔が少し熱くなった。朝食を食べながら、妹たちは昨日のことを根掘り葉掘り聞いてきた。どこで告白したのか、凛音は何て言ったのか、その後どうしたのか。俺は照れくさかったが、嬉しそうに話す妹たちの顔を見ていると、話さずにはいられなかった。
*
学校に着くと、教室はいつもの賑やかさだった。席に座ると、田中がすぐに話しかけてきた。
「雨宮、お前今日、顔が違うぞ」
「違う?」
「ああ。なんか、明るい。昨日、上手くいったのか?」
田中がニヤニヤしている。
「……まあ、な」
「マジかよ! おめでとう!」
田中が俺の肩を叩いた。周囲の何人かが、こちらを見た。
「声がでかい」
「悪い悪い。でも、よかったな」
田中が笑った。
「で、これからどうするんだ? 四条様の親父さんの問題は?」
その言葉に、俺の笑顔が少し消えた。そうだ。凛音の父親は、俺たちの関係を認めていない。見合いまで決められている。告白して、両想いになった。でも、それで全部が解決したわけじゃない。むしろ、ここからが本当の試練なのかもしれない。
「それは……これから、考える」
「そうか。まあ、頑張れよ」
田中が真剣な顔で言った。
「四条様、お前のこと本気で好きなんだから。裏切るなよ」
「わかってる」
その時、教室の扉が開いた。四条凛音が入ってきた。俺と目が合うと、凛音の顔がぱあっと明るくなった。俺も、自然と笑顔になった。凛音が自分の席に向かいながら、小さく手を振った。俺も手を振り返した。周囲から、小さなどよめきが起こった。
「お前ら、わかりやすすぎ」
田中が呆れたように笑った。
*
午前中の授業は、いつもより集中できた。昨日までの不安や迷いが消えて、心が軽かった。凛音のことを考えると、自然と笑顔になってしまう。時々、凛音と目が合う。その度に、お互いに照れたように視線を逸らす。でも、すぐにまた見てしまう。そんなことを何度も繰り返した。
昼休み、凛音が俺の席にやってきた。
「雨宮くん」
「はい」
「今日も……お弁当、作ってきました」
凛音が恥ずかしそうに言った。
「ありがとうございます」
「屋上で、食べませんか?」
「はい」
二人で教室を出た。周囲の視線が、以前よりも温かい気がした。廊下を歩きながら、凛音が小さな声で言った。
「あの……昨日は……」
「はい」
「本当に、嬉しかったです」
凛音が俯いた。
「雨宮くんが、私のこと……好きだって言ってくれて……」
「俺も、嬉しかったです」
俺が答えると、凛音が顔を上げた。その目は、少し潤んでいた。
「ありがとうございます……」
屋上に着き、いつもの場所に座った。凛音がお弁当箱を開けた。今日も、綺麗に盛り付けられている。
「今日は、雨宮くんの好きなもの、たくさん入れました」
「ありがとうございます」
二人で、お弁当を食べ始めた。しばらく無言が続いた。でも、それは気まずい沈黙ではなく、お互いの存在を感じ合える、心地よい時間だった。風が優しく吹いて、凛音の髪が揺れた。
「あの、雨宮くん」
凛音が口を開いた。
「はい?」
「私……お父様と、もう一度話してみます」
凛音が真剣な目で俺を見た。
「ちゃんと、雨宮くんのこと……好きな人がいるって、伝えます」
「でも——」
「大丈夫です」
凛音が俺の言葉を遮った。
「もう、逃げません。雨宮くんが、勇気を出して気持ちを伝えてくれたんですから……私も、頑張ります」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。
「凛音さん……」
「だから、雨宮くんも……一緒に、頑張ってください」
凛音が俺の手を握った。その手は、小さくて温かかった。
「はい。一緒に、乗り越えましょう」
俺も凛音の手を握り返した。二人で、しばらく手を繋いでいた。




