14 揺れる心と、確かな想い②
放課後、俺は生徒会室に向かっていた。
氷室冴に、話を聞いてもらいたかった。
ドアをノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえた。
扉を開けると、冴が一人で書類を整理していた。
「雨宮くん? どうしたの?」
「あの……相談があって……」
「座って」
冴が椅子を勧めてくれた。
俺は椅子に座り、これまでのことを全部話した。
凛音の父親のこと。見合いのこと。凛音の決意。
全部、包み隠さず。
冴は黙って聞いていた。
俺が話し終えると、冀が静かに口を開いた。
「雨宮くん、あなたは凛音ちゃんのこと、好き?」
その質問に、俺は少し考えた。
好き。
その感情を、ちゃんと認められるだろうか。
「……わかりません」
「わからない?」
「でも、凛音さんといると幸せです。笑顔を見たい。守りたい。そう思います」
「それって、好きってことじゃない?」
冴が微笑んだ。
「雨宮くん、あなた、素直じゃないわね」
「……すみません」
「謝らなくていいわ。でもね、一つだけ言わせて」
冴が真剣な目で俺を見た。
「もし、凛音ちゃんのことが本当に好きなら、ちゃんと伝えなさい」
「伝える……」
「そう。告白よ」
冴がはっきりと言った。
「凛音ちゃん、あなたの気持ちを待ってる。でも、あなたがちゃんと言葉にしないと、彼女は不安なの」
「でも、俺は——」
「自信がない?」
冴が俺の言葉を読んだ。
「確かに、四条家の令嬢と、普通の高校生。立場は違うわ」
冴が立ち上がった。
「でもね、凛音ちゃんはそんなこと、気にしてない。彼女が求めているのは、あなたの誠実な気持ちだけ」
冴が窓の外を見つめた。
「私ね、凛音ちゃんのこと、ずっと見てきたの。幼い頃から」
「はい」
「凛音ちゃんは、いつも寂しそうだった。友達がいても、本当の意味で心を開けなくて」
冴が振り返った。
「でも、あなたと出会ってから、凛音ちゃんは変わった。毎日、笑顔でいられるようになった」
「それは……」
「あなたのおかげよ」
冴が微笑んだ。
「だから、雨宮くん。自信を持って。あなたは、凛音ちゃんにとって、かけがえのない存在なの」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。
「生徒会長……」
「それと、もう一つ」
冴が俺に近づいた。
「四条家の当主を説得するのは、簡単じゃないわ。でも、不可能じゃない」
「どういう意味ですか?」
「凛音ちゃんのお父さんは、厳格だけど、娘思い。凛音ちゃんの幸せを、誰よりも願ってる」
冴が続けた。
「だから、あなたが誠実に、真剣に、凛音ちゃんを大切にする気持ちを伝えれば……きっと、わかってくれるわ」
「本当に……そう思いますか?」
「ええ。でも、それには時間がかかるかもしれない。だから、覚悟が必要よ」
冴が俺の肩に手を置いた。
「雨宮くん、あなたには、その覚悟がある?」
俺は、深呼吸をした。
そして、はっきりと答えた。
「あります。俺、凛音さんを守ります。どんなことがあっても」
冴が満足そうに頷いた。
「それでいいわ。頑張りなさい」
*
生徒会室を出て、廊下を歩きながら、俺は考えていた。
冴の言葉が、胸に響いている。
「ちゃんと伝えなさい」
告白。
俺の気持ちを、言葉にする。
それが、今の俺にできることだ。
でも、どうやって伝えればいいんだろう。
どんな言葉を使えばいいんだろう。
不安は尽きない。
でも、やらなければならない。
凛音のために。
そして、俺自身のために。
*
その日の夜、家に帰ってから、俺は部屋で一人考えていた。
凛音への気持ち。
守りたい。笑顔を見たい。一緒にいたい。
その全部が、一つの感情に繋がっている。
——好き。
俺は、四条凛音のことが好きなんだ。
その自覚が、ようやくはっきりと形になった。
スマホを取り出して、凛音にメッセージを送ろうとした。
でも、何を書けばいいのかわからない。
LINEで告白するのは、違う気がした。
ちゃんと、面と向かって伝えたい。
俺の気持ちを。
ノックの音がして、さくらが部屋に入ってきた。
「お兄ちゃん、何考えてるの?」
「ん? 何でもない」
「嘘。絶対、四条さんのことでしょ」
さくらが俺の隣に座った。
「お兄ちゃん、四条さんのこと、好きなんでしょ?」
その言葉に、俺は少し驚いた。
「……わかるのか?」
「わかるよ。顔に出てる」
さくらが笑った。
「お兄ちゃん、最近、四条さんのこと考えてる時、すごく幸せそうな顔してるもん」
「そうか……」
「で、どうするの?」
「どうするって?」
「告白するんでしょ?」
さくらがニヤリと笑った。
「……考えてる」
「じゃあ、早くしなよ。四条さん、待ってるよ」
「でも、俺は——」
「お兄ちゃん」
さくらが真剣な顔で俺を見た。
「私たちのこと、気にしないで」
「え?」
「お兄ちゃん、いつも私たちのこと優先してくれるけど……お兄ちゃんの幸せも、大事なんだよ」
さくらが続けた。
「四条さんと一緒にいて、お兄ちゃんが幸せなら、それでいいの。私たちも、嬉しいから」
その言葉に、俺の目が熱くなった。
「さくら……」
「だから、素直になって。自分の気持ちに」
さくらが立ち上がった。
「応援してるから」
そう言って、さくらは部屋を出て行った。
俺は一人、部屋に残された。
妹たちの言葉。
冴の言葉。
田中の言葉。
みんなが、俺の背中を押してくれている。
なら、俺は——
スマホを取り出して、凛音にメッセージを送った。
『明日、放課後、話したいことがあります。
屋上で待ってます。』
送信ボタンを押した。
心臓が、激しく鳴っている。
明日、凛音に告白する。
この気持ちを、ちゃんと言葉にする。
不安もある。でも、もう迷わない。
俺は、四条凛音が好きだ。
その気持ちを、伝える。




