14 揺れる心と、確かな想い①
水曜日の朝。
目覚めると、体が重かった。
昨夜も、あまり眠れなかった。布団に入ってからずっと、凛音のことを考えていた。
見合いを強要されている凛音。
俺たちの関係を認めない父親。
どうすれば、この状況を変えられるんだろう。
朝食を作りながら、そんなことばかり考えていた。
「お兄ちゃん、また寝不足?」
さくらが心配そうに声をかけてきた。
「ちょっとな」
「四条さんのこと?」
「……ああ」
さくらとすみれが顔を見合わせた。
「お兄ちゃん、無理しないでね」
すみれが優しく言った。
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃないでしょ。顔色悪いよ」
「心配かけて、ごめん」
俺が謝ると、二人が首を振った。
「謝らないで。お兄ちゃんが頑張ってるの、わかってるから」
「そうだよ。私たち、応援してるから」
蒼葉も頷いた。
「おにいちゃん、がんばれ! おひめさまをまもるんだ!」
三人の言葉に、少し勇気が湧いた。
*
学校に着くと、教室はいつもの賑やかさだった。
でも、俺の心は重かった。
席に座ると、田中が話しかけてきた。
「雨宮、お前最近、顔色悪いぞ」
「そうか?」
「ああ。何かあったのか?」
俺は少し迷ったが、田中に話すことにした。
凛音の父親のこと。見合いのこと。全部。
「マジかよ……」
田中が驚いた顔をした。
「それは、大変だな」
「ああ」
「で、お前はどうするんだ?」
「どうするって……」
「諦めるのか? それとも——」
田中が真剣な目で俺を見た。
「お前、四条様のこと、好きなんだろ?」
その言葉に、俺は答えられなかった。
好き。
その感情を、まだはっきりと認めていなかった。
「わからない……でも……」
「でも?」
「凛音さんを、守りたい。それだけは、確かなんだ」
田中が肩を叩いた。
「なら、答えは出てるじゃん」
「え?」
「守りたいって思うのは、好きだからだろ。素直になれよ」
田中が笑った。
「お前、不器用だな」
「……そうかもな」
その時、教室の扉が開いた。
四条凛音が入ってきた。
俺と目が合うと、凛音が小さく微笑んだ。
その笑顔を見て、俺の胸が温かくなった。
昼休み、凛音が俺の席に来た。
「雨宮くん、今日も……お弁当、一緒に食べませんか?」
「はい」
二人で屋上へ向かった。
階段を上りながら、凛音が小さな声で言った。
「あの……昨日は、ありがとうございました」
「いえ」
「雨宮くんが、守るって言ってくれて……すごく、嬉しかったです」
凛音が俯いた。
「でも……私、迷惑かけてますよね……」
「迷惑じゃないです」
俺がきっぱりと言うと、凛音が顔を上げた。
「本当に……?」
「はい。凛音さんのためなら、何でもします」
その言葉を聞いて、凛音の目が潤んだ。
「雨宮くん……」
屋上に着き、いつもの場所に座った。
凛音がお弁当箱を開けた。今日も、綺麗に盛り付けられている。
「今日は……雨宮くんの好きなもの、たくさん作りました」
凛音が恥ずかしそうに言った。
「ありがとうございます」
二人で、お弁当を食べ始めた。
しばらく無言が続いた。でも、それは気まずい沈黙ではなく、お互いの存在を感じ合える、心地よい時間だった。
「あの、雨宮くん」
凛音が口を開いた。
「はい?」
「私……お父様と、もう一度話してみます」
「え?」
「ちゃんと、私の気持ちを伝えます。雨宮くんのことを、諦めたくないって」
凛音が真剣な目で俺を見た。
「だから……雨宮くんも、待っていてください」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。
「凛音さん……」
「私、雨宮くんのこと……」
凛音が言いかけて、止まった。
「……大好きです」
その言葉を聞いて、俺の心臓が大きく跳ねた。
「だから……諦めません」
凛音の目には、強い決意が宿っていた。
その姿を見て、俺も決意した。
俺も、ちゃんと自分の気持ちと向き合わなければ。




