13 試練の始まり①
月曜日の朝。
いつもと同じ時間に目が覚めた。
しかし、今日はいつもと違う予感がした。不安とも、緊張ともつかない、重苦しい何かが胸にあった。
今日、凛音の父親が帰国する。
そして、凛音は父親と話をする。
俺と凛音の関係について。
布団から出て、いつも通りに朝の準備を始めた。妹たちを起こし、朝食を作る。卵焼きを焼きながら、凛音のことを考えていた。
今頃、凛音はどうしているだろう。
不安を感じているだろうか。
俺に何かできることはないだろうか。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
さくらが心配そうに声をかけてきた。
「ん? 何が?」
「さっきから、ぼーっとしてる」
「ああ……ごめん」
俺は気を取り直して、朝食の準備を続けた。
「今日、四条さんの日?」
すみれが聞いてきた。
「ああ。お父さんが帰ってくるらしい」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんなら」
蒼葉も頷いた。
「おにいちゃん、がんばって!」
三人の言葉に、少し勇気が湧いた。
*
学校に着くと、いつもの教室。いつもの席。
でも、凛音の姿が見えなかった。
彼女の席は空いている。
まだ来ていないのか、それとも——
「雨宮」
田中が話しかけてきた。
「四条様、今日休みらしいぞ」
「休み?」
「ああ。さっき担任が言ってた。体調不良だって」
俺の胸が、ざわついた。
体調不良。
本当にそうなのか、それとも——
一時間目の授業が始まったが、全く頭に入らなかった。
凛音のことばかり考えていた。
今日、父親と会う。
だから学校を休んだのか。
それとも、本当に体調が悪いのか。
不安が、どんどん大きくなっていく。
*
昼休み、俺は一人で屋上にいた。
いつも凛音と過ごす場所。
今日は、一人だ。
スマホを取り出して、凛音にメッセージを送ろうとした。
でも、何を書けばいいのかわからない。
「大丈夫ですか?」
そんな言葉では、何も伝わらない気がした。
結局、送信ボタンは押せなかった。
「雨宮くん」
背後から声がした。
振り返ると、氷室冴が立っていた。
「生徒会長……」
「一人? 四条さんは?」
「今日、休みらしいです」
「そう……」
冴が俺の隣に立った。
「知ってる? 今日、凛音ちゃんのお父さんが帰国するの」
「はい。聞いてます」
「凛音ちゃん、きっと緊張してるわ」
冴が遠くを見つめた。
「四条家の当主は、とても厳格な人。娘の凛音ちゃんのことを、誰よりも大切に思ってる」
「……はい」
「だから……あなたのことも、厳しく見るでしょうね」
冴の言葉が、胸に刺さった。
「雨宮くん、覚悟はできてる?」
「覚悟……」
「凛音ちゃんを守る覚悟。どんなことがあっても、彼女の側にいる覚悟」
冴が俺を見た。
「あなたには、その覚悟がある?」
俺は少し考えてから答えた。
「……わかりません」
「わからない?」
「でも、凛音さんを守りたい。その気持ちだけは、確かです」
冴が微笑んだ。
「それで十分よ。完璧な覚悟なんて、誰も最初から持ってない」
冴が俺の肩に手を置いた。
「ただ、一つだけ覚えておいて。凛音ちゃんは、あなたを信じてる。だから、裏切らないでね」
「……はい」
冴が去っていった後、俺は一人、屋上に残された。
凛音を守る。
その言葉の重さを、改めて感じた。




