11 雨の日の傘と、温かい手③
雨宮家に到着した。
玄関で靴を脱ぎ、凛音を中に案内する。
「お邪魔します……」
凛音が緊張した面持ちでリビングに入った。
リビングは、決して広くはない。テーブルとソファ、テレビがあるだけのシンプルな部屋だ。
凛音がキョロキョロと辺りを見回している。
「素敵なお家ですね……」
「全然素敵じゃないですよ。普通の家です」
さくらが苦笑しながら言った。
「いえ、温かくて……家族の匂いがします」
凛音が微笑んだ。
「四条さん、ソファに座ってください。お茶、入れますね」
すみれがキッチンへ向かった。
凛音がソファに座ると、蒼葉が隣に座った。
「おひめさま!」
「蒼葉くん、こんにちは」
「おひめさま、きょう、がっこうどうだった?」
「楽しかったよ。蒼葉くんは?」
「ぼくもたのしかった!」
蒼葉が嬉しそうに話している。
俺は少し離れたところから、その様子を見ていた。
凛音は、本当に子供が好きなんだ。蒼葉と話している時の表情は、心から楽しそうだ。
「はい、お茶です」
すみれがお茶を運んできた。
「ありがとうございます」
凛音が丁寧に受け取った。
さくらもソファに座り、凛音の向かい側に陣取った。
「四条さんって、料理得意なんですか?」
「はい。小さい頃から習ってました」
「すごーい。どんな料理作れるんですか?」
「えっと……和食も洋食も、一通りは……」
「じゃあ、お兄ちゃんと一緒に料理とかしたら、楽しそうですね」
さくらがニヤリと笑った。
「え、あ……それは……」
凛音が顔を赤くした。
「お兄ちゃんも料理するんですよ。毎日、私たちのご飯作ってくれるんです」
すみれが続けた。
「知ってます。雨宮くん、すごいですよね」
凛音が俺を見た。その目は、優しかった。
「でしょ? 私たちのこと、いつも面倒見てくれて。お弁当も作ってくれるし、宿題も見てくれるし」
「素敵です……」
凛音がしみじみと言った。
「家族で支え合って……私が、ずっと憧れてたこと」
「四条さんは、お兄さんとか妹さんとか、いないんですか?」
すみれが聞いた。
「はい。一人っ子なんです」
「そうなんですか。寂しくないですか?」
「……正直、寂しいです」
凛音が少し寂しそうに微笑んだ。
「家は広いけど、いつも一人で。両親は仕事で忙しくて、一緒にご飯を食べることも少なくて……」
さくらとすみれが顔を見合わせた。
「四条さんも、もう家族みたいなものですよ」
すみれが明るく言った。
「え……?」
凛音が目を丸くした。
「だって、お兄ちゃんの彼女でしょ?」
さくらが追い打ちをかけた。
「か、彼女……!」
凛音の顔が真っ赤になった。
「さくら!」
俺も慌てて止めに入った。
「違うの?」
さくらがニヤニヤしている。
「まだそういう関係じゃ——」
「でも、お兄ちゃん、四条さんのこと好きでしょ?」
すみれが畳み掛けてくる。
「それは……」
俺が言葉に詰まると、凛音が小さな声で言った。
「私は……雨宮くんのこと……」
全員の視線が凛音に集まった。
「……大好きです」
その言葉に、リビングが静まり返った。
凛音は真っ赤な顔で俯いている。
さくらとすみれが、興奮した顔で俺を見た。
「お兄ちゃん!」
「返事しなよ!」
「あ、いや、その——」
俺が混乱していると、蒼葉が立ち上がった。
「おにいちゃん、おひめさまとけっこんするの?」
「蒼葉、それは——」
「ぼく、おひめさまだいすき! おねえちゃんになってほしい!」
蒼葉が凛音に抱きついた。
「蒼葉くん……」
凛音が優しく蒼葉の頭を撫でた。
「ありがとう。私も、蒼葉くんのこと、大好きだよ」
その光景を見て、俺の胸が温かくなった。




