11 雨の日の傘と、温かい手②
午後の授業が終わり、放課後。
雨はまだ降り続いていた。むしろ、朝よりも強くなっている。
俺は荷物をまとめて、昇降口へ向かった。
昇降口には、既に何人かの生徒が傘を差して帰る準備をしている。
そこに、凛音がいた。
困った顔をして、外を見ている。
「四条さん」
俺が声をかけると、凛音が振り返った。
「雨宮くん」
「どうしました?」
「あ、あの……傘、忘れちゃって……」
凛音が申し訳なさそうに言った。
「朝、天気予報見るの忘れて……お迎えの車も、今日は来ないし……」
「そうなんですか」
「はい……どうしよう……」
凛音が困り果てている。
俺は少し迷ったが、意を決して言った。
「……一緒に帰りますか?」
「え?」
「俺の傘、入ります」
その言葉を聞いて、凛音の顔が真っ赤になった。
「い、いいんですか……?」
「はい。四条さんの家、こっちの方向ですよね」
「は、はい……でも……」
凛音が周囲を見回した。何人かの生徒が、こちらをチラチラ見ている。
「あの……噂に、なっちゃいますよ……?」
「もう十分噂になってますから」
俺が苦笑すると、凛音もクスッと笑った。
「そうですね……」
「じゃあ、行きましょう」
「はい」
俺は傘を開き、凛音に近づいた。
周囲から、小さなどよめきが起こった。
「うわ、マジで相合傘……」
「四条様と雨宮……」
「写真撮っとこ」
そんな声を無視して、俺と凛音は昇降口を出た。
*
二人で、一つの傘に入る。
距離が近い。
凛音の肩が、俺の腕に触れている。
凛音の髪から、甘い香りがする。シャンプーの香りだろうか。
「ごめんなさい、狭いですよね……」
凛音が申し訳なさそうに言った。
「いえ、大丈夫です」
大丈夫じゃない。心臓がうるさい。
雨の音だけが、二人の間に響いている。
しばらく無言で歩いていると、凛音が口を開いた。
「あの……昨日のこと……」
「はい」
「私……変なこと、言っちゃいましたよね……」
「変じゃないです」
「でも……嫉妬するなんて……私、おかしいですよね……」
凛音が俯いた。
「おかしくないです」
俺が言うと、凛音が顔を上げた。
「本当に……?」
「はい。四条さんの気持ち、嬉しかったです」
その言葉を聞いて、凛音の目が潤んだ。
「雨宮くん……」
「俺も……四条さんのこと、放っておけないって思ってます」
凛音が俺を見上げる。
距離が近すぎて、思わず視線を逸らしてしまった。
「あの……私……」
凛音が何か言いかけた時、前方から声が聞こえた。
「お兄ちゃん!」
振り返ると、さくらとすみれ、蒼葉がいた。三人とも、一つの傘に入っている。
「あ……」
俺は立ち止まった。
「四条さん……」
さくらが驚いた顔をしている。
「相合傘……」
すみれが目を丸くしている。
「おひめさまだ!」
蒼葉が嬉しそうに叫んだ。
「こんにちは、皆さん」
凛音が笑顔で挨拶した。
「おひめさま、おにいちゃんとあいあいがさしてるの?」
蒼葉が無邪気に聞いてくる。
「え、ええ……傘、忘れちゃって……」
凛音が恥ずかしそうに答えた。
さくらとすみれが顔を見合わせた。
「……お兄ちゃん、四条さん、家に来ませんか?」
さくらが突然言った。
「え?」
「雨、すごいし。お茶でも飲んでいってください」
すみれも頷いた。
「で、でも……」
凛音が戸惑っている。
「いいじゃん。お兄ちゃんも、そう思うでしょ?」
さくらが俺を見た。その目は、明らかに何かを企んでいる。
これは、査定だろうか。
でも、断る理由もない。
「四条さん、よかったら」
「え、あ……はい……お邪魔します……」
凛音が遠慮がちに答えた。




