11 雨の日の傘と、温かい手①
水曜日の朝。
窓の外は、灰色の空が広がっていた。
雨が降っている。
「お兄ちゃん、今日雨だよ」
さくらが朝食を食べながら言った。
「そうだな」
「傘、持って行ってね」
「わかってる」
俺は三人分の弁当を作り終え、自分の朝食を食べ始めた。
昨日のことが、頭から離れない。
校舎裏で、凛音と二人で話した。
凛音の涙。嫉妬。そして、「放っておけない」と言った自分の言葉。
あれから、凛音のことを考えない時間がない。
「お兄ちゃん、また上の空」
すみれが呆れた顔をしている。
「そんなことない」
「嘘。さっきから、味噌汁に箸突っ込んでぼーっとしてるよ」
「……悪かった」
三人が笑った。
*
学校に着くと、雨はまだ降り続いていた。
昇降口で傘を畳み、下駄箱で靴を履き替える。
教室に入ると、いつもより早い時間だったので、まだ人は少なかった。
自分の席に座り、窓の外を見る。雨粒が窓ガラスを叩いている。
「おはよう、雨宮」
田中が声をかけてきた。
「おはよう」
「昨日、四条様と何があったんだ? お前ら、すごい雰囲気だったって聞いたけど」
「……別に」
「嘘つけ。校舎裏で二人きりだったらしいじゃん」
田中がニヤニヤしている。
「話しただけだ」
「ふーん」
それ以上は追及してこなかった。
しばらくすると、教室の扉が開いた。
四条凛音が入ってきた。
俺と目が合った。
凛音の顔が、少し赤くなった。俺も、顔が熱くなるのを感じた。
凛音は小さく会釈をして、自分の席に向かった。
「お前ら、わかりやすすぎ」
田中が小声で笑った。
「うるさい」
*
午前中の授業は、いつも通り過ぎていった。
ただ、時々凛音と目が合うと、お互いに慌てて視線を逸らす、ということが何度かあった。
昼休み、凛音が俺の席にやってきた。
「雨宮くん」
「はい」
「今日も……お弁当、作ってきたんですけど……」
凛音が恥ずかしそうに言った。
「ありがとうございます」
「屋上で、食べませんか?」
「はい」
周囲の視線を感じながら、二人で教室を出た。
屋上への階段を上る。凛音が先を歩いている。
「あの……昨日は……」
凛音が小さな声で言った。
「はい?」
「変なこと、言ってしまって……」
「変じゃないです」
俺が答えると、凛音が振り返った。
「本当に……?」
「はい」
凛音が安心したように微笑んだ。
「よかった……」
屋上に着き、いつもの場所に座る。
雨は止む気配がない。灰色の空が、どこまでも続いている。
「今日のお弁当、何ですか?」
「えっと……オムライスと、唐揚げと……」
凛音がお弁当箱を開けた。今日も綺麗に盛り付けられている。
「すごいですね」
「雨宮くんに喜んでもらいたくて……」
凛音が恥ずかしそうに言った。
二人で、お弁当を食べ始めた。
雨の音だけが、静かに響いている。




