10 別の誤解、発生中③
放課後。
俺は凛音を探していた。
教室にはいない。図書室にもいない。
校舎の中を探し回った。
そして、校舎裏の花壇で、凛音を見つけた。
一人で、花壇の縁に座っている。
「四条さん……」
俺が声をかけると、凛音が顔を上げた。
その目は少し赤かった。泣いていたんだ。
「雨宮くん……ごめんなさい」
凛音が小さな声で言った。
「私、変なこと言って……」
「いえ……」
俺は凛音の隣に座った。
「でも……我慢できなくて」
凛音が俯いた。
「雨宮くんが、他の人を見てるの……嫌だった……」
その言葉に、俺の心臓が大きく跳ねた。
これは、嫉妬。
凛音が、俺に対して嫉妬している。
「私、わがままですよね……」
「私、わがままですよね……」
凛音が自嘲するように笑った。
「雨宮くんは、私のものじゃないのに……でも、柊先輩と一緒にいるの見たら、胸が苦しくて……」
凛音の声が震えている。凛音は左手を胸に当てた。指輪が、夕日を受けて鈍く光っている。
「四条さん……」
「指輪、くれたのに……」
凛音が指輪を見つめた。
「雨宮くんが、私にくれた……大切な、大切な指輪……」
凛音の指が、指輪を優しく撫でた。
「私、この指輪をもらった時、すごく嬉しかったんです。ガチャガチャの安物だって、わかってます。でも……」
凛音の目に、また涙が浮かんだ。
「雨宮くんが、私にくれた。それだけで、世界で一番大切なものになったんです」
「四条さん……」
「だから、勝手に特別だって思い込んで……私だけを見てくれるって……」
凛音が唇を噛んだ。
「でも、雨宮くんは、また他の人を見つめてて……」
「あれは——」
「わかってます。雨宮くんの癖だって」
凛音が俺を見た。その目には、涙が浮かんでいた。
「でも、わかっててもっ……嫌なんです……」
涙が一筋、凛音の頬を伝った。
俺の心臓が、止まりそうなくらい大きく跳ねた。
凛音が泣いている。
俺のせいで。
「ごめんなさい……こんなこと言う資格、ないのに……」
凛音が涙を拭おうとした。
俺は、とっさに凛音の手を掴んだ。
「四条さん」
「……はい」
「俺は……柊先輩のことは、何とも思ってません」
俺は真剣に言った。
「昨日も、ただ考え事をしていただけで……柊先輩を見つめていたわけじゃない」
「……」
「でも、四条さんのことは……」
言葉に詰まった。
何て言えばいいんだ。
俺の気持ちを、どう伝えればいいんだ。
「四条さんのことは……放っておけないんです」
それだけ言うのが、精一杯だった。
凛音が目を見開いた。
「放っておけない……?」
「はい。四条さんが悲しそうにしてるのを見ると、胸が痛くなる。四条さんが笑ってるのを見ると、嬉しくなる」
俺は続けた。
「それが何なのか、まだはっきりとはわからないけど……でも、確かなことが一つあります」
「……何ですか?」
「俺は、四条さんを泣かせたくない」
その言葉を聞いて、凛音の目から涙が溢れた。
「雨宮くん……」
凛音が俺の手を握り返した。
「私……嬉しいです……」
凛音が微笑んだ。涙を流しながら、幸せそうに。
「ありがとうございます……」
夕日が、二人を優しく照らしていた。
凛音の指の、安物の指輪が、オレンジ色に光っていた。




