9 デートの余韻、時々尋問③
教室に入ると、クラスメイトたちの視線が一斉に俺に向いた。
気まずい沈黙が流れる。
俺は自分の席に座った。
「雨宮くん」
隣の席の女子が声をかけてきた。
「はい?」
「あの……四条さんと、付き合ってるの?」
「いえ、付き合ってないです」
「でも、指輪……」
「あれは、ガチャガチャで出たもので……」
説明しようとしたが、女子は「ふーん」とだけ言って、前を向いた。
信じてもらえなかったようだ。
一時間目が始まる前に、ざわめきが大きくなった。
「四条様だ」
「本当に指輪してる……」
俺が顔を上げると、凛音が教室に入ってきたところだった。
そして、彼女の左手薬指には——
あのプラスチックの指輪が光っていた。
学校に、してきたのか。
凛音が俺と目が合うと、嬉しそうに微笑んだ。そして、小さく手を振った。
俺も、反射的に手を振り返した。
教室が、さらにざわついた。
「マジで付き合ってるじゃん」
「四条様、嬉しそう……」
「雨宮、すげえな……」
周囲の声が聞こえるが、俺は凛音から目を離せなかった。
凛音は自分の席に座ると、何度も指輪を見つめていた。その表情は、とても幸せそうだった。
*
昼休み。
購買に向かおうとすると、凛音が俺の席にやってきた。
「雨宮くん、お昼、一緒に食べませんか?」
「はい」
周囲がざわつく。でも、もう気にならなかった。
二人で屋上へ向かった。
「今日も、お天気がいいですね」
凛音が嬉しそうに言った。
「そうですね」
「あの……これ」
凛音が俺に、小さな袋を差し出した。
「何ですか?」
「お弁当です。雨宮くんの分も作ってきました」
「え……でも……」
「受け取ってください。作りたかったんです」
凛音が微笑んだ。
俺は袋を受け取った。
「ありがとうございます」
「いえ。私の方こそ、いつもありがとうございます」
凛音が指輪を見せた。
「これ、ずっとつけてます」
「学校にも?」
「はい。大切なものですから」
凛音が恥ずかしそうに笑った。
その笑顔を見て、俺の胸が温かくなった。
屋上で二人、お弁当を広げる。今日も、凛音の手作りだ。
「いただきます」
二人で手を合わせて、食べ始めた。
今日の卵焼きも美味しい。おにぎりも、丁寧に握られている。
「美味しいです」
「よかった」
凛音が嬉しそうに笑った。
しばらく無言で食べていると、凛音が口を開いた。
「あの、雨宮くん」
「はい?」
「私……すごく幸せです」
凛音が俯いた。
「雨宮くんと過ごす時間が、とても楽しくて……毎日、学校に来るのが楽しみなんです」
その言葉に、俺の心臓が跳ねた。
「俺も……」
俺が言いかけた時、屋上のドアが開いた。
「あ、ごめん。邪魔した?」
下級生の男子が顔を出した。
「いえ、大丈夫です」
凛音が笑顔で答えた。
男子が去った後、少し気まずい空気が流れた。
「あの……また、後で」
凛音が立ち上がった。
「はい」
凛音が去っていく。その後ろ姿を見ながら、俺は考えた。
俺は、四条凛音のことをどう思っているんだろう。
好きなのか。
それとも、まだ確信が持てないだけなのか。
*
放課後、教室で荷物をまとめていると、窓の外に人影が見えた。
校庭を、一人の女子が歩いている。
その女子は、ふと立ち止まり、こちらを見上げた。
俺と目が合った。
女子が、ニコッと笑って手を振った。
俺は反射的に手を振り返した。
——誰だっけ……?知り合いか?
「雨宮、帰るぞ」
田中の声で我に返った。
「ああ」
窓の外を見ると、もうその女子の姿はなかった。
気のせいだったのかもしれない。
俺は荷物をまとめて、教室を出た。




