9 デートの余韻、時々尋問①
家に帰ると、玄関でさくらとすみれが待ち構えていた。
「お帰りー!」
「お帰りなさい!」
二人の目が、明らかに何かを期待している。
「ただいま」
「たっだいまー!」
蒼葉が元気よく返事をした。
「で、どうだった?」
さくらが即座に聞いてきた。
「どうって……」
「デートだよ、デート!」
「デートじゃないって」
「じゃあ何? お嬢様と二人きりで公園に行ったんでしょ?」
「蒼葉もいたし——」
「家族同伴デートって言うんだよ、それ」
すみれが笑いながら言った。
「とにかく、詳しく聞かせて!」
二人に促されるまま、リビングのソファに座った。蒼葉は既に自分の部屋に行って、ガチャガチャで手に入れた犬のフィギュアで遊んでいる。
「四条さん、可愛かった?」
すみれが目を輝かせて聞いてくる。
「……可愛かったよ」
素直に答えると、二人が「おおー!」と声を上げた。
「お兄ちゃん、顔赤い」
「赤くない」
「赤いって」
さくらがニヤニヤしている。
「で、何したの?」
「普通に遊具で遊んだり、お弁当食べたり……」
「お弁当!? 四条さんが作ってきたの?」
「ああ。三人分」
「うわー、完全に本気じゃん」
すみれが感嘆の声を上げた。
「他には?」
「シャボン玉やったり……」
「シャボン玉? お嬢様が?」
「ああ。四条さん、シャボン玉やったことなかったらしくて……」
俺がその時のことを話すと、二人は微笑ましそうに聞いていた。
「で? 他には?」
さくらが追及してくる。
「……ガチャガチャやった」
「ガチャガチャ?」
「ああ。蒼葉が迷子になって——」
「迷子!?」
二人が驚いた顔をした。
「大丈夫だったの?」
「ああ、すぐに見つかった。でも、蒼葉が落ち込んでたから、ガチャガチャで元気づけようと思って」
「お兄ちゃん、優しい……」
すみれがしみじみと言った。
「で、何が出たの?」
「蒼葉は犬のフィギュア。四条さんは星のキーホルダー。俺は……」
言いかけて、少し躊躇した。
「俺は?」
さくらが身を乗り出してくる。
「……指輪」
「指輪!?」
二人が同時に叫んだ。
「で、どうしたの? まさか——」
「蒼葉が、四条さんにあげろって……」
「あげたの!?」
「ああ……」
さくらとすみれが顔を見合わせた。
「お兄ちゃん……それ、プロポーズじゃん……」
「違う。ガチャガチャの安物だし、蒼葉が勝手に——」
「でも、指輪は指輪でしょ?」
すみれが真剣な顔で聞いてくる。
「四条さん、喜んでた?」
「……すごく」
凛音の笑顔が脳裏に浮かぶ。「一生大切にします」と言ってくれた時の、幸せそうな表情。
「お兄ちゃん、完全に落ちてるじゃん」
さくらが呆れたように言った。
「落ちてない」
「落ちてるって。さっきから、すごく嬉しそうな顔してる」
「してない」
「してる」
二人に笑われた。
*
夕飯の準備をしながら、俺は今日のことを思い返していた。
凛音の私服姿。白いワンピースと麦わら帽子。シャボン玉を作る時の無邪気な笑顔。お弁当を作ってきてくれた優しさ。
そして、迷子になった蒼葉を見つけた時の涙。
あの涙は、本物だった。蒼葉のことを、本気で心配してくれていた。
指輪を受け取った時の、幸せそうな顔。
全部が、俺の心に深く刻まれている。
「お兄ちゃん、お米研ぎすぎ」
すみれの声で我に返った。
「え?」
「さっきからずっと研いでるよ。もう十分だって」
「あ……ごめん」
俺は慌てて手を止めた。
「お兄ちゃん、完全に上の空じゃん」
さくらが笑っている。
「四条さんのこと、考えてたでしょ?」
「……別に」
「嘘つけ」
二人にからかわれながら、俺は夕飯の準備を続けた。




