8 初めてのデート(という名の公園遊び)⑤
午後四時を過ぎ、そろそろ帰る時間が近づいてきた。
公園の出口に向かいながら、蒼葉が二人の手を繋いで歩いている。左手に俺、右手に凛音。
「きょう、たのしかった!」
「よかったな」
「うん! またこようね!」
「ああ、また来よう」
俺が答えると、凛音も嬉しそうに頷いた。
「今日、本当に楽しかったです」
「俺も楽しかったです」
「シャボン玉も、お弁当も、ガチャガチャも……全部、大切な思い出になりました」
凛音が指輪を見つめる。
「特に、この指輪……一生、大切にします」
その言葉に、俺の胸が締め付けられた。
一生、大切にする。
ガチャガチャの安物の指輪を。
それは、俺からのプレゼントだから。
「また……来てくださいね」
「はい。必ず」
凛音が嬉しそうに笑った。
出口で、凛音のお迎えの車が待っていた。例の執事風の男性が、丁寧に頭を下げる。
「お嬢様、お時間です」
「はい……」
凛音が名残惜しそうに俺を見た。
「雨宮くん、今日は本当にありがとうございました」
「いえ……こちらこそ」
「また……学校で」
「はい」
凛音が車に乗り込む前に、もう一度振り返った。
「あの……雨宮くん」
「はい?」
凛音が左手を上げて、指輪を見せた。
「ずっと、つけてます」
その言葉を残して、凛音は車に乗り込んだ。
車が走り去っていく。俺と蒼葉は、その後ろ姿を見送った。
「おにいちゃん」
蒼葉が俺の手を握った。
「りんねおねえちゃん、すごくうれしそうだったね」
「ああ……そうだな」
「おにいちゃん、すきなんでしょ?」
蒼葉が真剣な顔で聞いてきた。
「……ああ、好きだ」
俺は素直に認めた。
もう、誤魔化せない。
俺は、四条凛音のことが好きだ。
本気で、好きだ。
「じゃあ、けっこんしなよ!」
「まだ早い」
「はやくないよ! ゆびわあげたんだもん!」
蒼葉が笑った。
俺も、苦笑いしながら蒼葉の頭を撫でた。
空を見上げると、夕日が沈み始めていた。オレンジ色の光が、公園全体を優しく照らしている。
今日という日は、俺にとっても、凛音にとっても、特別な一日になった。
迷子になって怖い思いもしたけど、三人で抱き合って、泣いて、笑って。
そして、この安物の指輪が、俺たちを繋いでくれた。
凛音の笑顔、指輪を見つめる幸せそうな表情、「一生大切にします」という言葉。
全部が、俺の心に刻まれた。
そして、この気持ちを、いつか彼女に伝えなければならない。
ちゃんと、言葉にして。
「帰ろうか」
「うん!」
蒼葉と手を繋いで、俺は家路についた。
胸の中に、温かいものが溢れていた。




