8 初めてのデート(という名の公園遊び)④
案内所を離れ、ベンチに座る。
蒼葉は俺と凛音の間に座り、まだ少ししゃくり上げていた。
「蒼葉、もう大丈夫だぞ」
「うん……でも……」
蒼葉が俯いた。
「ぼく、わるいこだから……」
「悪い子じゃないよ」
凛音が優しく言った。
「でも、おにいちゃんとおひめさま、しんぱいさせちゃった……」
「心配したけど、無事でよかった。それが一番大事なんだよ」
俺が蒼葉の頭を撫でた。
「蒼葉は、悪い子じゃない。ただ、これからは勝手に走らないって約束してくれるか?」
「……うん」
蒼葉が小さく頷いた。
でも、まだ表情が暗い。
俺は何か蒼葉を元気づける方法を考えた。そして、思いついた。
「なあ、蒼葉」
「なに?」
「ガチャガチャ、やりたいか?」
蒼葉の顔が少し明るくなった。
「がちゃがちゃ?」
「ああ。ほら、あそこに機械があるだろ」
俺が指差した先に、ガチャガチャの機械が数台並んでいる。
「やりたい!」
「じゃあ、行こう」
三人でガチャガチャの機械に向かった。蒼葉の表情が、少しずつ明るくなっていく。
「四条さんも、やってみますか?」
「ガチャガチャ……やったことないです」
凛音が興味深そうに機械を見ている。
「じゃあ、一緒にやりましょう」
ガチャガチャの機械の前でそれぞれ好きな機械を選んだ。
蒼葉は動物のフィギュアが出る機械。凛音はキーホルダーが出る機械。俺は、適当に選んだアクセサリーの機械。
「これに、百円を入れて……」
俺が説明しながら、コインを投入する。
「それから、このハンドルを回すと……」
ガラガラガラ……
カプセルが出てきた。
「わあ!」
凛音が目を輝かせた。
「蒼葉も、やってみて」
「うん!」
蒼葉がコインを入れて、ハンドルを回す。
ガラガラガラ……
カプセルが出てきた。
「なにかな、なにかな!」
蒼葉が興奮して開ける。中から出てきたのは、小さな犬のフィギュアだった。
「わんちゃんだ! かわいい!」
蒼葉が嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、俺は安心した。
凛音もカプセルを開けた。中には、小さなキーホルダーが入っていた。星の形をしている。
「可愛い……」
凛音が嬉しそうにキーホルダーを見つめている。
「雨宮くん、これ、カバンにつけてもいいですか?」
「もちろんです」
「嬉しい。ガチャガチャ、楽しいですね」
凛音が笑顔で言った。
俺もカプセルを開けた。中には——
小さな指輪が入っていた。
安っぽいプラスチック製の指輪だが、一応キラキラしたラインストーンがついている。
「ゆびわだ!」
蒼葉が俺のカプセルを覗き込んだ。
「おにいちゃん、それおひめさまにあげたら?」
「え?」
「だって、ゆびわでしょ? おひめさまにぴったりだよ!」
蒼葉が無邪気に言った。
凛音が顔を赤くしている。
「いや、これは……」
「いいじゃん! あげなよ、おにいちゃん! おひめさま、げんきにしてくれたもん!」
蒼葉が俺の手から指輪を取り、凛音の前に差し出した。
「ほら、おひめさま!」
「え、あ、その……」
凛音が困惑している。俺も困惑している。
でも、蒼葉の無邪気な笑顔を見ていると、断ることもできなかった。蒼葉は、凛音に元気づけてもらったことを、ちゃんと覚えているんだ。
「あの……よかったら……」
俺が指輪を受け取り、凛音に差し出した。
「受け取ってください。ガチャガチャの指輪ですけど……」
凛音が指輪を見つめる。その目が、大きく見開かれた。
「いただいて……いいんですか?」
「はい」
凛音がゆっくりと指輪を受け取った。そして、左手の薬指にはめようとした。
——ちょっと待て、薬指!?
「あの、四条さん、それは——」
「え? 指輪は、この指じゃないんですか?」
凛音が不思議そうに聞いてくる。
——この人、本当に天然だ。
「いえ、その……薬指は、特別な意味があるので……」
「特別……ですか?」
凛音が首を傾げる。
「その……婚約とか……結婚とか……」
俺が説明すると、凛音の顔が真っ赤になった。
「え……あ……そ、そうなんですか……」
凛音が慌てて指輪を外そうとした。しかし、ふと手を止めてその指を握る。
「いえ……このままでいいです」
「え?」
「雨宮くんからいただいた、初めてのプレゼントですから……」
凛音が恥ずかしそうに微笑んだ。
「大切にします」
その笑顔に、俺の心臓が大きく跳ねた。
「あの、でも薬指は……」
「……いいんです」
凛音が小さな声で言った。
「私、嬉しいですから……」
その言葉の意味を、俺は理解した。
凛音は、この指輪を、ただのガチャガチャの景品としてではなく、特別なものとして受け取ってくれている。
薬指の意味を知った上で、それでも「このままでいい」と言ってくれている。
「やったー! おにいちゃんとおひめさま、けっこんする!」
蒼葉が無邪気に叫んだ。
「蒼葉、違う——」
「違わないよ! ゆびわあげたんだもん! やくゆびだもん!」
周りの家族連れが、微笑ましそうにこちらを見ている。中には、スマホで写真を撮っている人もいる。
凛音は真っ赤な顔で、指輪を見つめていた。安物のプラスチックの指輪を、まるで本物のダイヤモンドのように、大切そうに。
「綺麗……」
凛音が呟いた。
「え?」
「この指輪……光が当たると、虹色に光るんですね……綺麗です……」
凛音が幸せそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、俺の胸が温かくなった。




