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寝不足で無表情の俺が、財閥令嬢に”恋の射抜き”されて学園騒然になった件  作者: 甘酢ニノ


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8 初めてのデート(という名の公園遊び)②

アイスを食べ終わった後、三人で公園内を散策した。


広大な芝生広場では家族連れがピクニックをしていて、池の周りではカップルが仲良く散歩をしている。穏やかな日曜日の午後の光景だ。


「わあ、あそこにあひるさんがいます!」


凛音が池を指差した。確かに、何羽かのアヒルが気持ちよさそうに泳いでいる。


「蒼葉くん、見て!」


「ほんとだ! あひるさんだ!」


二人で池の縁に近づいていく。俺も後を追った。


凛音が池を覗き込んでいる。風が吹いて、麦わら帽子が少し揺れた。


「雨宮くん、あのアヒル、すごく可愛いです」


「そうですね」


「あ、こっち来ました!」


凛音が嬉しそうに笑う。その笑顔を見て、俺も自然と笑顔になった。本当に楽しそうだ。


「四条さん、本当に動物が好きなんですね」


「はい。家では飼えないので……こうやって見るだけでも嬉しいです」


「飼えないんですか?」


「ええ。父が動物アレルギーで……だから、ペットは飼えないんです」


凛音が少し寂しそうに言った。


「そうなんですか」


「でも、いつか……自分の家を持ったら、犬か猫を飼いたいです」


凛音が夢見るような表情で遠くを見つめた。


「どんな犬がいいですか?」


「えっと……大型犬がいいです。ゴールデンレトリバーとか」


「意外ですね。小型犬かと思いました」


「大きい犬の方が、抱きしめた時に温かいじゃないですか」


凛音が真剣な顔で言った。


——この人、本当に天然だ。


「雨宮くんは、動物は好きですか?」


「まあ、嫌いじゃないです。でも、今は飼う余裕がなくて」


「そうですよね……蒼葉くんたちの面倒もありますし……」


凛音が少し申し訳なさそうに俯いた。


「いえ、いつか余裕ができたら、蒼葉に犬でも飼ってやりたいとは思ってます」


「素敵です……」


凛音が微笑んだ。その笑顔は、さっきまでの寂しそうな表情とは違う、温かいものだった。


   *


池の周りを歩いていると、蒼葉が疲れたのか、あくびをし始めた。


「蒼葉、眠いのか?」


「うん……ちょっとだけ……」


「じゃあ、あそこの芝生で休もう」


三人は広い芝生広場の隅に移動した。俺が事前に用意していたレジャーシートを広げ、座る。


蒼葉は俺の膝の上に座ると、すぐに目を閉じ始めた。数分もしないうちに、規則正しい寝息が聞こえてきた。


凛音は俺の隣に座り、時々蒼葉の寝顔を微笑ましそうに見ていた。


「あの、雨宮くん」


凛音が小さな声で言った。蒼葉を起こさないように、という配慮だろう。


「はい?」


「実は……お弁当、作ってきたんです」


「お弁当?」


凛音がショルダーバッグから、風呂敷に包まれたお弁当箱を取り出した。風呂敷の柄は、桜の花びらが散っている上品なデザインだ。


「三人分あります。よかったら……一緒に食べませんか?」


「ありがとうございます。でも、わざわざ……」


「作りたかったんです。雨宮くんと蒼葉くんのために」


凛音が嬉しそうに笑った。その笑顔には、少しの照れと、大きな喜びが混じっていた。


「じゃあ、蒼葉が起きたら食べましょう」


「はい」


凛音がお弁当箱をそっと横に置いた。


しばらく無言の時間が流れた。でも、それは気まずい沈黙ではなく、心地よい静けさだった。風が優しく吹いて、木々の葉が揺れる音が聞こえる。


   *


三十分ほどして、蒼葉が目を覚ました。


「んー……おなかすいた……」


「ちょうどいい。お弁当食べよう」


凛音がお弁当箱を開けた。三段重ねのお弁当箱で、それぞれに綺麗に料理が詰められている。


「わあ! すごい!」


蒼葉が目を輝かせた。


一段目には、彩り豊かなおにぎりが並んでいる。うさぎの形をしたものや、星型に切った海苔が貼られたもの。どれも丁寧に作られている。二段目には、黄色い卵焼き、きつね色の唐揚げ、真っ赤なミニトマト、緑のブロッコリー。まるで宝石箱のような美しさだ。三段目には、いちごやぶどう、メロンなどのフルーツと、小さなゼリーが入っていた。


「すごいですね……全部手作りですか?」


俺も感心した。料理を日常的にしている俺から見ても、このクオリティは相当なものだ。


「はい。今朝、早起きして作りました」


「今朝?」


「ええ。昨日の夜に下準備はしましたけど、詰めるのは今朝で……何時に起きたか、覚えてないくらいです」


凛音が少し照れたように言った。目を逸らして、頬が少し赤くなっている。


「いただきます」


三人で手を合わせて、お弁当を食べ始めた。


卵焼きを一口食べる。出汁の味がしっかり効いていて、ふわふわだ。口の中で優しく溶けていく。


「美味しいです」


「本当ですか?」


凛音が嬉しそうに目を輝かせた。


「おいしい! うさぎさんのおにぎり、かわいい!」


蒼葉も唐揚げを頬張りながら叫んだ。


「よかった……実は、少し心配だったんです」


凛音がほっとした表情で言った。


「なぜですか?」


「雨宮くんは料理が上手だから……私の料理、口に合うかなって……」


「十分美味しいですよ。それに、このうさぎのおにぎり、すごく可愛いですし」


俺が言うと、凛音の顔がさらに明るくなった。


「ありがとうございます」


凛音が嬉しそうに笑った。


「私、料理は習ったけど……家族に作ってあげたことは、ほとんどなくて……」


凛音の声のトーンが、少し落ちた。


「そうなんですか」


「ええ。両親は忙しいですし、家には料理人さんがいるので……だから、今日みたいに誰かのために作れて……嬉しいです」


凛音の声が少し寂しそうになった。でも、その表情には確かな喜びもあった。


「これからも、作ってくださいね」


俺が言うと、凛音が顔を上げた。


「え?」


「蒼葉も喜んでますし、俺も……また食べたいです」


凛音は目を大きく見開く。そして、こくりと頷いた。


「はい……!」


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