7 生徒会の介入②
俺は深呼吸をして、冴を見つめた。
「……正直、最初は誤解でした。授業中、寝不足でぼーっとしていたら、たまたま視線が四条さんの方に向いていて……それを、告白だと勘違いされたんです」
冴が目を細めた。
「でも、四条さんと話してるうちに……彼女のこと、放っておけないって思うようになりました」
俺は続けた。
「四条さんは、俺が思っていたお嬢様とは違った。手作りのクッキーを作ってきてくれたり、俺の家族のことを聞いてくれたり……」
凛音の笑顔が浮かんでくる。蒼葉を優しく撫でる姿、屋上で寂しそうに話していた姿。
「彼女は、寂しがり屋で、でもすごく優しくて……そんな四条さんを、俺は……」
言葉に詰まった。
この気持ちを、何と表現すればいいのか。
「だから……ちゃんと向き合いたいんです。四条さんと」
俺が言い切ると、冴は数秒沈黙した。
そして、小さく微笑んだ。
「……そう」
冴が椅子に座り直した。
「なら、頑張りなさい。凛音ちゃん、あなたのこと、本当に大切に思ってるから」
その言葉に、俺の心臓が跳ねた。
「ただし」
冴が眼鏡を直した。
「もし凛音ちゃんを泣かせたら、私はあなたを許さない。学園中を敵に回すことになっても、彼女を守る」
「……はい」
「あなたには、妹さんと弟さんがいるのよね」
「はい」
「家族を大切にしている人は、信用できる。でも、凛音ちゃんも、これからあなたの大切な人になるかもしれない。両方を大切にできる?」
冴の問いに、俺は即答した。
「できます」
「……そう。なら、期待してるわ」
冴が立ち上がり、扉に向かった。
「あ、それと」
冴が振り返った。
「日曜日、凛音ちゃんと公園に行くんでしょ?」
「え……なんで知ってるんですか?」
「凛音ちゃんから聞いたわ。すごく楽しみにしてたから」
冴がクスッと笑った。その笑顔は、先ほどまでの冷たさが嘘のように柔らかかった。
「楽しい時間にしてあげてね」
「……はい」
*
生徒会室を出ると、廊下に人影があった。
四条凛音が、壁に寄りかかって立っていた。
「雨宮くん……」
「四条さん……」
「冴ちゃんに、何か言われました?」
凛音が心配そうに俺を見つめる。
「いえ、大丈夫です」
「……ごめんなさい。冴ちゃん、心配性で……私のこと、ずっと守ってくれてて……」
凛音が申し訳なさそうに俯く。
「いえ……四条さんのことを大切に思ってる人がいるって、良いことだと思います」
俺が言うと、凛音が顔を上げた。
「雨宮くん……」
「生徒会長も、四条さんの友達も、妹たちも……みんな、四条さんのことを心配してくれてる。それって、幸せなことだと思います」
凛音の目が潤んだ。
「雨宮くん……優しいですね」
彼女が微笑む。その笑顔に、俺の顔が熱くなった。
「日曜日、楽しみにしてます」
「俺も……楽しみにしてます」
自然と、そんな言葉が出ていた。
凛音が嬉しそうに笑った。夕日に照らされた彼女の横顔は、眩しいくらいに美しかった。
*
その夜、家に帰ってスマホを見ると、田中からLINEが来ていた。
『お前、生徒会に呼ばれたらしいな』
『無事か?』
俺『なんとか』
『マジで四条様、本気だぞ』
『お前、覚悟決めたほうがいいぞ』
覚悟、か。
俺はベッドに横になった。
覚悟。
凛音と向き合う覚悟。彼女を大切にする覚悲。傷つけない覚悟。
そして、この気持ちが何なのか、ちゃんと確かめる覚悟。
日曜日、凛音と会う。
その時、俺は自分の気持ちと、ちゃんと向き合おう。
スマホの画面を見つめながら、俺はそう決意した。




