夜のそよ風
イチゴ
「ごちそうさまでした」
リベリオの作ってくれた夕飯を全て平らげて、食べ終わった食器を運ぶ。
「いつもありがとな」
私がテーブルの片付けをしていると彼はいつもお礼を言ってくれる。とても美味しい料理を作ってくれて、お礼を言いたいのはこっちなのに。
「いえ、これくらいはさせてください」
「ほら、口開けてみ」
両手に食器を持っていたせいで受けとることができず、そのまま苺を口に入れてもらう。甘い匂いがふわっと広がり、口がさっぱりする。
「ん、美味しいです!」
「余りだからみんなには内緒な」
わりとごつめのリベリオから、"内緒"なんて可愛い言葉がでてくるとは思ってなかった。人は見かけによらないというけれど、本当にその通りだと実感する。
「何が内緒だって?レイ」
背後でエマがニコニコとしていた。これはおそらく一部始終を見ていたパターンのやつ。バレてるやつ。
「内緒は内緒なんです。ね、リベリオ」
「ま、そういうことだ」
「二人ともつれないな、これでも僕は客人だというのに」
まったく、こういうときだけ客人ぶっちゃって。エマは都合がいいのはもちろんだけど、都合をこっそりねじ曲げて悪い都合を良い都合に変えるタイプだと思う。穏やかに微笑みながら強行突破する。
「それより、エマ。今日はもう遅いけど泊まってくのか?」
「そうだね。久しぶりに来たしせっかくならお邪魔していくよ」
「お仕事とかは大丈夫なんですか?」
突然エマがきょとんとした顔をする。俗にいうあざといという顔。
「それはどっちの?」
「あぁ…舞台の方」
むしろ裏の仕事のことを聞けるなら聞いておきたいところだが、おそらく何かを教えてくれることはないだろう。しかもリベリオの前なら尚更だ。
「そっちね、舞台の方はちょうど合間の時期でね。稽古が始まるのは一週間後だから大丈夫だよ」
「次はどんな役をやるんだ?」
リベリオは皿洗いを始める。
「そうだね、ちょーっとバイオレンスな役かな。僕としてはあまりやらない役柄だから今から楽しみだよ」
バイオレンスな役、と聞いて今日の書斎で脅された台詞を思い出した。だとしたらあれはほんとに台詞だったのかもしれないと思った。
「私はそろそろ部屋に行きますね、おやすみなさい」
「おやすみレイ」
「ああ、おやすみ。また明日な」
エマはまだ少しリベリオと話をするようだった。
自室に戻ってベッドに横たわる。最近はご飯を食べ終わったあと、こうしてベッドに横になるとたまに寝落ちしてしまうことがある。そして、寝落ちしないときはぐるぐるといろいろなことを考えている。
この前の初任務のその後、自分のこれからのこと、それから私がここに転生してきたこと。考えてもキリがないことばかりだけど、考えずにはいられないことばかりだ。考えれば考えるほど深みにハマってもんもんとしてくる。
「…お風呂入ろ」
そういうときはまずお風呂。それから中庭にでて夜風にあたる。それで考えなくなるかといわれるとそう上手くはいかないけれど、ぽかぽかした身体で夜空と建ち並ぶ建物を見ていると私の存在ごと小さなものに思えてくる。応急措置的なものだけど、今はそれでいい。
お風呂をでてから中庭を覗くと先客がいた。気づかれないように部屋に戻ろうとすると、先に声をかけられてしまった。
「ねぇあんた気づかれないと思ったの?僕だって一応マフィアなんだ、人の気配くらいわかる」
「す、すみません…」
「別に怒ってない。で、何しに来たの?」
まさか質問されるとは思っていなくて、変な声が出そうになったところを寸で耐えた。
「えっと…夜風にあたりに」
「ふーんそう。何で僕を見て逃げたの?」
…取り調べかな?
「いや、あの…私がいたら邪魔になるかなぁと思いまして…」
目の前の彼は手に持っていたペットボトルの水を飲んでいる。
「………邪魔じゃない」
「え?」
「別にここにいてもいいって言ってるの」
優しいことを言っているのにこちらを見てくれないせいで、真意がわからなくなる。
ウッドデッキに座っている彼の背中はなんだか小さく見えた。
「じゃあ隣、座りますね」
小さく座る彼の横に腰を下ろす。それでもまだこちらを見てはくれなかった。
座ってから手に持っている水を飲むだけでしばらく何も話さなかった。でも、なぜだか気まずいとは感じなかった。
中庭のある暮らしって豪邸って感じしますよね




