とある秘密
ちょっとだけ重いかも
「昔イトロスの歴史について学ぶ必要があって。そのときに使ったんだけど、要は歴史書みたいなやつだよ」
分厚い表紙を開いて、パラパラとページをめくる。本を見る彼は懐かしむような柔らかい表情をしていた。
「王宮に出入りする任務があったからね。過去の王様の名前から王女の名前、側近の名前まで全部叩き込んだ」
「うわぁ…」
私も学生の頃、日本史で縄文時代から現在にかけての歴史を勉強させられたが、土器の名前も古墳の形も何も役に立った記憶がない。覚えていたって何かの役に立つかと言われると否だ。彼らもイトロスの歴史について勉強することは必須条件でありながら、不必要要素でありそうだ。
「あの頃はしんどかったなぁ…」
受験生みたいな感想だ。
「おかげで王宮の庭師になれた。勿論、別の任務があったから庭師こそ副業みたいなもんだったけれど」
「別の任務って…」
「王女と元愛人との間にできた子供の暗殺だよ」
考えうる最悪の答えが返ってきた。たしかに王宮側からすれば、王女の元愛人との間に子供がいたとなると国家レベルのスキャンダルになりうる大問題だ。
「なるほど…」
「これは公にはされていないことだけれど」
口元に人差し指を立ててしーっとジェスチャーを取り、ウインクをする。この流れ作業が完璧すぎてもはや心地よさすら感じそう(感じない)
「そのときの子供がコステロだよ」
「ふーんそれで今こうやっ…………………え?!」
そのときの子供がコステロ?!てことはコステロは母方とはいえ、王族の血が流れてるってこと?
「まぁ嫁ぐ前にできた子だから王族の血は混ざってないけどね」
「いや、だとしても…ってコステロはそれを知ってるんですか?」
少し目を反らすようにして本に目を戻す。
「知らないと思うよ、僕からは言ったこともないし」
「いいんですか?コステロに秘密を隠したままで」
目を伏せたまま、ゆっくりと答えた。
「良くないですよ。そうでもしてでも大人には守るべきものがあるんだ、覚えといてねレイ」
「はい…」
きっと私にはどうにもできない彼なりの理由が、あるんだと思うし、それを尊重してあげたい。でもそれで誰かが傷つくのであればその代わりに誰かが犠牲になるのはそれは絶対にしたくはない。もしかしたらエマはそんな狭間にいるのかもしれない。
「…少し昔話をしていいかい?」
「はい」
───
「コステロと初めて出会ったのは、彼が庭に転がっているのを見つけたときだね」
「転がってるって…」
依頼主から写真を手に入れていたおかげで、子どもの顔はすぐに覚えられたらしい。
「もうすぐ餓死するんじゃないかってぐらい痩せ細っていて、今にも死にそうな顔をしていたよ」
もちろん彼の顔は公表されていたわけではなかったから、周りの同業者は侵入者だと騒ぎ散らかしていた。でもこんな痩せて餓えている子どもにできることなんて何もないことは本人だってわかってる。
「あのときはまさかこんなに早く見つけられるとは思っていなかった。任務を早く終えられると、そう思った。しかもこんなに薄汚れた子なら戸籍とかもいじらなくて大丈夫そうだなって」
「あれ、お父さんと暮らしてたんじゃ…」
父親である元愛人はおそらくどこか遠くへ行ったんだろうと答えてくれた。そりゃ、後々の王女になる娘との間に実は第一子が生まれてました、なんて逃げたくもなる。
「まずは彼を僕の寝床へ連れ帰った。勿論一介の庭師が変なことしてるなんて見つかったらすぐ首切られるだろうから、すぐ王宮を出ることを決めたんだ」
元から子どもを探すために考えていたやつがなくなるだけだし、なんなら暗殺対象は見つけられたのでもう庭師の仕事はいらなくなった。
さっさと殺して別の任務をしようと思った矢先、コステロが足元にしがみついてきたらしい。
この年齢から色々教え込んだら立派な1人前になるかなとか、自分の後継者になってくれるんじゃないかなとか。でも期待するのはやめた。期待すればするほど後から戻ってくるものの理想が膨らんでいく。
「王宮からでてからはなんとなく想像してる通りだよ」
当時所属してたとこには偽のご遺体を用意して任務が完了したことを伝えた。
そうして、暗殺計画は人知れず終息を迎えることとなった。
「これが一連の流れかな、僕とコステロが初めて会った日」
遅くなりました




