潜入調査・深層
続きます
「キミさ、意外と度胸あるんだね。もっと怯えてるだけかと思ってたよ」
「やらないといけない状況に置かれたら、なんとかするタイプなんです」
もう半分やけくそになっているのは事実だけど、どうせやるなら思い切った方が自分のためだしみんなのためにもなるだろうということにしておく。
たくさんの人でごった返している隙間を縫って、奥にあるバーカウンターへ向かう。
すれ違う人たちはどこか疲れているような顔つきだった。
「…あれ?」
あの人どこかで…
「ん、どした?カクテル注文しちゃっていい?」
「あ、うん」
カウンターに並んで座り、バーテンダーに例の飲み物を注文する。
「オリーブフィズを」
「...かしこまりました」
透明なドリンクと一緒にカードキーが1枚渡される。
ルチアがドリンクを一気に飲み干す。カードを持ってカウンターの奥にある扉にキーをかざす。ピッと小さな解錠音がなる。ドアノブを捻り薄暗い中へと進む。分厚いカーテンを避けて中へ入ると、そこはさっきまでいたクラブとは全く違った雰囲気だった。
「うわぁ、思ってたよりひどいね」
「帰りたいです」
「そういうこと言わない」
クラブよりは静かだが、ここにいる人たちの佇まいは普通のものとはかけ離れていた。ほぼ全裸と言っていいほどの踊り子や女を複数人侍らせてる男、こっちが目を塞ぎたくなるくらいドロドロのキスをしているカップル。元からなんとなく覚悟はしていたが、聞いていた何倍も倫理観の欠片もない空間だった。
ほんとに帰りたい。クラブよりもより濃い甘い匂いで充満していた。ここにいるだけで吐き気がしそうだ。
「ねぇそこの君、ボスに挨拶に行きたいんだけどどこにいるか知ってる?」
「あら、お兄さんいい顔してるじゃない。今夜私とどう?」
「ボスのとこ教えてくれたら相手してあげる」
五秒前に会った女と躊躇なくキスをする姿を目の当たりにして、どん引いてしまった。初手で夜のお誘いをするこの女もどうかと思うが、これに違和感もなく適応するこいつもこいつだと思う。ほんと最悪な男だな…
遠巻きに眺めているとウェイターに声をかけられる。この場で唯一理性を保っていそうなのは数人のウェイターくらいだった。
「こちら本日のドリンクです」
「ありがとう、いただくわ」
淡いピンク色の飲み物が入ったグラスを受け取り、一口飲んでみる。あまりお酒に成通していないからブランドとかアルコール度数とか一切わからないけど(というか、前の世界の知識が役に立つのかどうかすらわからない)、わりとさっぱりしていて美味しくいただけた。
「お待たせ、ボスはさらに奥の部屋にいるらしいよ。…っていつもらったの?それ」
「あんたがそこの女性と三回目のキスをしたときくらいかな」
「なーに、嫉妬してるの?フィーナちゃん」
ご都合の良い解釈だこと。
「うるさい、早く行きましょう」
「いや、キミが大丈夫ならもう少し待った方が良さそうだよ。ボスが来たのはついさっきらしいから、酔いが回ってから行った方が好都合だ」
「…そう。じゃあ三十分後くらいに」
そうじゃないとこの空気に耐えられなくなりそうだった。前の世界じゃ考えられない光景だと改めて思う。
目の前の景色をぼーっと眺めていると、後ろから誰かに呼ばれた。
「素敵なドレスですね、向こうで少しお話しませんか?」
「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいんですけど、また次の機会でもいいですか?今日は彼と一緒なので…」
ルチアのことを小さく指さしながら小声で話す。
「そうですか…じゃあ連絡先だけいただいても?」
「ええ」
「あ、グラスお預かりしてますね」
彼は自然な仕草で私の持っていたグラスを持ってくれた。渡された紙にさらさらと適当な番号を連ねていく。ここにいる人にしては礼儀正しくて優しそうな人だけど、さすがに私の素性を明かすわけにもいかない。申し訳ないけど、偽の番号を渡すしかなさそうだ。
「はい、いつでも連絡してくださいね」
「ありがとうございます。ではまた後程お会いしましょう」
丁寧にお辞儀をして優しそうな男性は去っていった。だいぶ奥の方へ進んでいったけど、すぐに人混みに紛れて見えなくなった。
それからはできるだけ影を薄くして端の方で目立たないようにしていた。反対にルチアはいろんな女とキスをしながら会場内を歩き回っていた。ほんとに信じられない。
二十分くらい経った頃。グラスに残っていたカクテルをくいっと飲み干し、ルチアと合流をした。
少しだけ酔いが回ってきているなと感じた。
レイからのルチアの好感度だださがり回です(言い方)




