過去の事件
のんびりしていて少し好きです
初めて見た大きな傷に何もいえずにいると、向こうから色々と話をしてくれた。
「少し長くなるけどいい?」
「背中流しますね」
「うん、ありがと」
タオルをよく泡立てて彼の背中を洗う。
「だいぶ前の話なんだけど、僕には兄貴がいてね。兄貴もレオーネにいて一緒に仕事をしてて、けっこう二人で仕事を引き受けることも多かったんだ。あ、背中ありがと、シャワーするね」
「わかりました」
ラウルと距離をとる。
「いてて…あぁそれで、何年か前にも二人で潜入調査してたんだけど、途中でそれが敵方にバレちゃってさ。ほら、僕眼帯してるでしょ?そのときに片目潰されちゃって」
何か事情があるんだろうなとは思っていたけれど、マフィアの現実を見せられたような気がして鳥肌がたった。ラウルも見た目は若そうだしたぶん私より少し年上くらいだと思う。何年前の話かはわからないけど、若い青年にも容赦なく傷をつけるこの世界に恐怖を覚えた。
「ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだけど。それでそのときから兄貴とは会えてなくて」
「え、どうして…」
「逃走経路はもともと確保していたんだけど、兄貴はより安全な方を譲ってくれてね。別行動したとき用の落ち合う場所には現れなくてそのまま…」
シャワーを止めてズボンを捲った。
「足湯くらいしようかな」
「…じゃあ私も」
並んで湯船の縁に腰かける。私とそんなに身長が変わらないラウルは今はなんだか小さく見えた。
「正直のところ生きてるかどうかもわかんないんだけどさ、たまに落ち合う予定だった場所を訪れたりしてるんだ。まだ受け入れられてないというか、割りきれていないというか…はは、弱いな僕は」
湯気で少し湿った長い前髪を横に流す。こちら側から見ると前髪と眼帯で何も表情が見えない。
「たまには弱くたっていいんですよ、強い人間なんていません」
「あはは、君にも兄貴を会わせてやりたいよ」
初めてちゃんとしたマフィア世界の話を聞いた気がする。やっぱり異世界は異世界だった。誰かを失うということがこんなに身近に起こるとは思っていなかった。というより、考えていなかった。
しっかりとラウルの方を見る。
「ラウルはちゃんとここに帰ってきてくださいね。私、待ってるので」
「ああ、君をいつまでも待たせるわけにはいかないからね。ちゃんと毎回戻ってくるよ」
「血も極力流さないこと。怪我もしない!無茶もしない!!」
釘を刺して刺して刺しまくっている私を見て、彼は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに吹き出した。笑いごとじゃないのに!
「善処するよ」
「その言い方はしないやつ…!」
そんなこんなでお風呂場を後にした。
「おやすみなさい、ラウル」
「おやすみ、お嬢」
悪くない空気感だと思っている(信じたい)




