4:《使用人とメイドの出会い―後編》
「全く……どうすんだよ、これ……」
青羽をイヤミたっぷりの視線で一瞥し、廊下に無惨にもぶちまけられた生活用品を眺める。
「い、いやね?一旦荷物整理しようとして、とりあえず関係無いものはまとめておいたんだけど……」
「ならなぜ部屋の入口にまとめる!?出れないし入れないじゃんか!」
「……う〜。だってぇ……」
「二宮様。今は片付けてしまう方が……」
「ん?……あぁ、そうだな。そうするか。えっと……」
「立花 陽果です。今日から久美様のお世話に付くことになります。二宮様と同じ、使用人と思ってくれれば」
名前を聞く前に名乗られてしまった。
俺は割れたコップの破片を指で注意深く拾いながら、どう呼べばいいか考える。
「じゃあ……陽果さん、でいいかな。うん、そう呼ぼう。あと、様付けは止めてくれ。何だか堅苦しくて落ち着かない」
「え?いや、しかし……」
「『同じ』使用人なんだろ?なら、様付けはおかしいじゃんか」
言いながら、破片をごみ箱に捨てる。
なかなかに鋭い破片は、気を抜くとすぐに肌を傷付けそうだ。
「……では、和斗さん、でよろしいでしょうか?」
「い、いきなり名前か」
「和斗さんも、私を名前で呼ぶのでしょう?なら、これで対等です」
そう言って、陽果さんは笑顔で俺を見た。
そんな顔されたら、認めるしかないじゃないか。
そんなことを思いながらも、俺は素直に首を縦に振っていた。
「ほら、青羽も手伝え」
「あ、うん」
傍に突っ立っている青羽に半ば命令のように言う。
青羽は、素直に陽果さんの近くにしゃがんで物を拾いはじめた。
「あ」
と、何かを思い付いたのか、青羽が突然声を上げた。
何だ、とそちらに視線を向ける。
「二宮君と陽果は、対等なんだよね?」
「……まぁ、いきなり来た俺と陽果さんを対等にしたら、陽果さんの立場がないけどな」
俺の言葉に、一瞬だけ片付ける手が止まる陽果さん。
……やはり、少し思うところはあったらしい。
「じゃあじゃあ、二宮君も私に敬語使わないとダメじゃない?」
「はっ?」
今度は俺が固まる番だった。
それは、と反論しようとしたが、どうにも反論する要素が見当たらない。
というより、まず俺は何故当然のようにタメ口で話しているのだろう?
青羽はともかく、陽果さんにタメ口はまずいんじゃないか?
「……陽果さん。すいませんでした」
「……いえ、気にしていませんから」
絶対に気にしてただろ。
まっすぐな嘘は裏返したら真実になるんだ。
「じゃあ、二宮君はこれから敬語で過ごすこと!主人命令だからね?」
「……ハイ」
ここで初めて、俺は使用人の立場に立ったのかもしれない。
……敬語かぁ。