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2:《使用人生活》

「…………」


起き上がって、ボリボリと頭を掻く。

手元にある携帯を開き、時間を確認。うん、いつも通りの六時半起床。

頷きながら、俺はベッドから足を下ろす。どうでもいいが、この表現はいるのだろうか。ベッドから腹や頭を下ろす、なんていう表現をしてしまったら、なんだか身体がパーツごとに分かれているような気がしないでもない。

ヒタリ、と足の裏がフローリングの床に着く。


「…………ん?」


そこで違和感。

俺の部屋は、畳の上に絨毯を敷いていたはずじゃなかったろうか?

念のため、もう片足も着けてみる。やはり、ひんやりとしたフローリングが返事をしてきた。

目をこすって、頭を振って。そうしてやっと、俺は自分のおかれている状況を思い出す。


「……あぁ、そっか……そうだったな……」


開かれた目は、やけに広いフローリングの部屋を映し出していた。

立ち上がり、身体を伸ばす。

俺の頭の中では、昨日のことが自動的に巻き戻し再生させられていた。










「でっけぇ……」


青羽宅を目の前にして、俺は思わずそう呟いていた。

階段を登り、玄関にたどり着く。どうやら一階は車庫や物置らしい。この時点で元我が家とはスケールが違うことを理解した俺だった。





「おおぅ……」

「ようこそ、私の家へ」


青羽が俺の前で、自慢げに両手を広げていた。

確かに、これは自慢されても納得するしかない。

三階建ての一軒家、玄関だけで俺の部屋はすでに負けている。いや、勝負する方がおかしいのか。

廊下もピカピカのタイル張りで、どちらかといえばホテルのような雰囲気をかもしだしていた。


「早くおいでよ、二宮君!君の部屋はこっちだよ!……何変な歩き方してるのさ」

「あ、あぁ。なんだか靴下で歩くのが申し訳ないような気がして……」


出来ることなら買ってきたばかりの清潔な靴かスリッパが欲しいところだ。

こうまで廊下が綺麗だと素足では駄目な気がしてならない。もし駄目だと言われたら、俺は普通に膝立ちで行動するだろう。


青羽に案内されるまま、ひとつの部屋の前にたどり着く。


「ここが……?」


俺がそう聞くと、青羽は笑顔で頷いた。

何故そんなに笑顔なのか聞きたくなったが、目の前にある部屋に対しての興味が勝った。

ドアノブを捻り、押す。


…………開かない。


「……引き戸だよ?」

「…………わ、わかってる」


顔が熱くなるのを感じ、青羽が隣でくすくす笑っているのを無視して、俺は勢いよく扉を開けた。


そして、その瞬間、恥ずかしい気持ちはどこかに飛んでいってしまった。


「ここ、マジで俺の……」

「うん!」


元気一杯に返事をされ、俺は恐る恐る中に入る。青羽に背中を押されながら、と言えば、どれだけおどおどしていたかわかるだろう。


「どう?気に入った?」

「…………」


青羽の言葉に、俺は返事が出来ない。

この部屋は、部屋というよりも。


「ホテルじゃん」


言ってみればあっさり言葉に出来た。

その言葉を聞いて、青羽は、フフン、と自慢げになるのだった。



















「にしても……」


およそ三分間というお手軽な記憶上映会を終え、俺は現実に戻ってきた。

ベッドに座り、その布団を触ってみる。羽毛でフカフカのモフモフだ。

その感触が心地好く、いつまでも触っていたくなる。






「二宮君?入るわね」

「!!」


突然響くノックの音。

俺は羽毛布団に埋もれるのを止め、ごく自然な体勢を装った。

青羽のお母さんが、なんだかエレガントな感じで部屋に入ってきた。


「あら……。フフッ、よく眠れたかしら?」

「あ、はは。それはもう」


どうやら、布団の乱れ具合からして察されたみたいだった。

しかし、羽毛布団と戯れる現場を見られなかっただけ良かった。あんな姿見られたら布団を破いて羽根とともに飛び立ちたくなってしまう。


「じゃあ、今日から久美のこと、よろしく頼むわね」

「あ、はい。……え?」

「あら、久美から聞いていないかしら?私、今日から海外にいかなければならないのよ。その間の久美の『使用人』を募集していたのだけれど……」


頬に手を当て、なんともしとやかに衝撃事実を告げる青羽母。

と、そこにけたたましい携帯の着信音が響いた。


「あ、すいません」

「いいえ。どうぞ?」

「あ、メールなんで別に……」


静かにしようとしてくれた青羽母に遠慮しながら、俺は新着メールを開く。

我が家族からのメールの内容は、こんなものだった。


――〔頑張れ!!使用人生活!!〕――


「ふっ…………」

「ふ?」

「ふざけんなあぁーーー!!!!」


俺が迷惑を省みずに叫ぶ横で、青羽母は「あらあら」とあくまでもおしとやかに対応していた。



こうして、俺の使用人生活はスタートを告げた。

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