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水の大地  作者: NA0
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2027年(令和9年)初夏――――――【神奈川県 横浜市神奈川区 神大寺NEWイワフネハウス 】


(大月満視点)


 地球から帰還した久しぶりの休日は、自宅の居間で寛ぐのが一番。同じ思い(だといいなぁ)の大月家一同もソファやテレビの前で思い思いに過ごしている。


 ちょっと瑠奈。地球の放射能汚染を解決する化学反応式を思いついたからと言ってココで実験しないで欲しい。テーブルにお菓子やジュースがあるのだから。


 とりあえず瑠奈よ、梅シロップソーダが会心の出来だから飲んでみよう?


 瑠奈に梅シロップソーダを飲ませて意識を逸らした後は、のんびりテレビの特別旅行番組を視る。今回は茨城県特集らしいぞ。

 有給休暇で聖地巡礼に勤しんだ風景が画面に映し出される。懐かしい。そうだ!海鮮丼を食べに大洗行こう。なんちゃって。


 俺の膝の上では、美衣子と結が膝枕を満喫しながらうたた寝をしている。


 梅シロップソーダを堪能した瑠奈は、キッチンへ行って妻のひかりとフルーツゼリー作りに勤しんでいる。

 フルーツはひかりの祖父である仁志野さんから頂いたサクランボと庭に成ったビワを使っている。


 特別旅行番組の合間には単独スポンサーのCMが流れていたがナレーションは無く、ただただ天空に浮かぶ湖と小島から見た大赤斑周辺を見下ろした色とりどりの雲海が水平線まで延々と流れてゆく。


 地球と異なった異星の景色はある意味、旅行番組以上のインパクトを視聴者に与えるのではないだろうか?


 この景色は自家用宇宙船か高高度を飛ぶ飛行機でない限り、なかなか見られないだろうな。


 最後に、テロップで『今ならドーナツ一袋で新天地へご案内!』とベタな宣伝文句で締めくくられている。


 んんんん?今までの絶景で感じた感動が台無しだ。


 なんだこの宣伝?清々しいまでの怪しさっぷり満載じゃないか。


「ドーナツ一袋で新天地!?ないないないわー!」

自家製梅シロップソーダをちびりと飲みながら叫んでしまう。


「何がないわーですか?」「世の中ない事づくしっス!」

フルーツゼリーの仕込みを終えたひかりと瑠奈がソファーの両隣に座る。

 瑠奈は多分適当に言っているだけだろうな。


「いやぁ、ひかりさん。この怪しいCM視てくださいよ。ドーナツ一袋で新天地だって。有り得ないでしょう?」

「うーん。でも風景は合成にしては凄く良くできているし、この前にチューブワーム長の所で試食会をした時もあんな感じの浮島を見かけた様な気が……」


 俺の説明に頷きつつも、意外とあるかもみたいな反応のひかりさんにちょっとショックを受ける。


 価値観の違いから来る夫婦の危機かも知れん。此処は大らかに行こう。


「ジュピタリアンだったらドーナツ一袋でやりそうな気がするっス!」

断言する瑠奈。


 まぁ、ジュピタリアンを知る我が家一同なら納得の推測だ。


「お父さんは常識に囚われすぎているわ」「試食一口で、地球から木星へ都市二つと自衛隊1個師団を転移させたジュピタリアンを舐めたらダメよ」


 いつの間にか目を覚ました美衣子と結がそのままの姿勢で指摘する。

 マルス・アカデミーが誇る超量子コンピュータシステム自律型AIの手厳しいお言葉だが、俺の事を良く知る娘達だから此処は感謝しよう。


 だが少しは虚しい抵抗を試みよう。


「ええっ?私って常識人代表だと思っていたのに……」


 しーん……


 言った後に居間が沈黙。実に気まずい。


「まあまあ、そんな事より今はゆーっくりとお休みしましょう。最近はあちらこちら飛び回ってずっと働きづめだったしねぇアナタ」

ひかりさんが肩をほぐす仕草をしながらコテンと俺の肩に頭を預けながら今に居る皆を宥める。


 やはり夫婦の危機は我が家には無縁でした。

 ひかりさんは私の女神さまだ。


 こら、美衣子と結は死んだ魚の目をしながら砂糖を口から吐き出した顔をしない!

 自律型AIがそんな顔しちゃいけません。


 瑠奈のキョトンとした顔はまぁ……そのうちこういうの分かるから。


「そうだな。この休日を噛みしめようかな……ふわぁ」

ひかりに賛同した皆が眠気を覚え始めたタイミングでテーブルに置いていた携帯電話が振動する。


「んん?こんなタイミングで誰だろう?」

ひかりにもたれかかりながら携帯電話の画面を見ると、春日洋一からだった。


 久し振りだな後輩くんから連絡とは。まぁ、このご時世出し仕方ない。


「……残念だけど、多分お仕事かな」


 ボソッと呟いた俺は天井を仰いだ後、アイスティーを飲んで目を覚ますと出掛ける支度を始めるのだった。


 俺の動きに合わせて皆も支度を始める。


 だから瑠奈、深夜アニメの見逃し配信は帰ってきてからだぞ?それとさっきの実験道具も片付けるように。


          ☨          ☨          ☨


――――――【東京都千代田永田町 首相官邸 応接室】


「せっかくのお休み中にすいません、先輩」


 応接室で待っていた大月家一行おれのかぞくに声を掛けたのは総合商社角紅時代の後輩である春日洋一だった。


 美衣子達三姉妹は挨拶もそこそこにお茶請けに出された栗羊羹に夢中だった。

 お行儀が悪くてすいません。ちゃんとお小遣いあげているんですけどね?


「とんでもない。日本で一番忙しいと言われる春日官房長官の呼び出しならダッシュで駆け付けますよ」

ゴマすり気味におどけて答える俺。


 お得意様には頭が上がりませんぜ、へへっ。


 後輩だった春日は角紅退職後、親族の地元政治家地盤を継いで政界入りを果たすと、大月家とも関係の深い自由維新党総裁である岩崎政宗の秘書を務めていた。

 

 岩崎さんが救国暫定臨時政権首相に指名された事で、春日は裏方仕事に奔走した流れで官房長官に納まっている。


「それでお話とは?」

俺は単刀直入に訊く。


「先輩、”新天地”または”水の大地”って言葉を聴いた事はありますか?」

「さっき家で旅番組の合間に新天地へドーナツ一袋で行けるとCMやっていたな……」

春日に訊かれて答える。


「それです!その新天地の調査をお願いしたいのです」

ご名答とばかりに依頼を出す春日。


「新天地って、本当に存在するのですか?」

半信半疑な俺。


「存在します。3日前、ユニオンシティを捜索中だった空自の戦闘機が大気圏中層域で浮遊する湖と島を発見、其処には1台の打ち捨てられた乗用車があり、乗用車には家族連れのご遺体が――――――」


 なんだなんだ?きな臭くなってきたぞ。ここは状況整理といこう。


「ちょっと待った!浮遊する湖と島は分かったが、何故其処に車があるんだ?」

春日の説明を遮って質問する。


「不明です。

 空自が発見した後、陸自の特殊機動団が遺体を収容する際に水の大地を調査しましたが、飛行場やヘリポート、航空機の不時着跡など見つかりませんでした。

 ですが、遺体の身元から確かに日本国民だと判明しています。元財務次官とその妻子でした」

春日が状況を説明する。


「じゃあ、地球人類技術ではないという事か……マルス・アカデミーとか木星原住知的生命体ジュピタリアンか」


 身近な存在で地球人類を割と気軽に転移させてしまえるからな。


「衛星軌道上の探査船『おとひめ』を通じてマルス・アカデミー・木星再生支援船団のリア隊長に照会しましたが、当該空域で活動していないと回答があり、琴乃羽美鶴氏を通じてジュピタリアンを取りまとめるチューブワーム長にも尋ねましたが、『地球人類ヲ死二追イヤル事ナド絶対シナイ!』と強く否定されました」

肩を竦めて応える春日。


 違うのか、う~む。


 後はクローン人間都市で眠る黄星三姉妹達きぼしシスターズか。


 彼女達の素性について実は判明していないんだよなぁ。あの後直ぐにクローン人間勢力と真世界大戦シャドウ・ワールド・ウォーが勃発したからなぁ。


 まあ話が大きく成りそうだから国主導で進めるしかないだろう。


「浮遊する水の大地の調査ですか……それこそJAXAを通じて『おとひめ』が調査すべき事案では?おとひめが搭載しているアダムスキー型連絡艇で行けば直ぐに辿り着くでしょう?」

俺は言ってみる。


「その通りですが、今は人手が足りないんですよ。

 まず、地球人類にとって観測データが圧倒的に不足している木星大赤斑地上の”広大な海”へ転移した日本列島と周辺の安全確認を含めた調査は官民合同で始めたばかり。

 調査は時間が掛かるでしょう。なにせ大赤斑は地球3個分の広さですから……。

 次に同じ大赤斑へ転移した確認は取れましたが、未だ現在位置が特定出来ない月面都市ユニオンシティの捜索、ジャンヌ首相と連絡コンタクトが取れたばかりのユーロピア共和国首都『ニューガリア』、地球から転移した人類統合都市『バンデンバーグ』と『氷城ハルピン』との安全な連絡航空路調査、そして水の大地と言われるような浮遊島嶼が200か所余りあります」


 春日は両手の指を使って説明していたが遂に足りなくなってお手上げとゼスチャーする。


 そんなにやることあるの!?

 そりゃ手が足りんわな。

 さて、ミツル商事社長としてどうしようかな。未踏の地で調査するのだから稼がせてもらいましょう。


「勿論、地球から戻ったばかりの所の先輩方にお願いするわけですから報酬は手厚くしようと考え――――――『その話乗った!』『燃えるわ』『脳が震えるっス!』」

春日の話を途中で遮って了承してしまう美衣子達三姉妹。


 瑠奈はちょっとお医者さんに行こうな。脳は危ないよ。


 君達さっきまで茶菓子の栗羊羹をモグモグ黙って食べていただけだよね? 


 激しく突っ込みたかったが、ひかりさんは微笑ましく三姉妹を見ていたので諦める。


「分かりました。それでは準備出来次第向かうのでディアナ号の飛行許可と武器使用許可もお願いします」


「ありがとうございます先輩。

 水の大地を調査したデータは後程、暗号化してミツル商事へ送りますね。気を付けて行って来て下さいね」


 こうして俺達大月家は木星におけるミツル商事の初仕事に取り掛かるのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m


【このお話の登場人物】

・大月満=ミツル商事社長。

・大月ひかり=満の妻。ミツル商事副社長。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター 七七七 様です。


・大月 美衣子=マルス・アカデミー・日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 結=マルス・アカデミー・尖山基地管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・大月 瑠奈=マルス・アカデミー・地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

挿絵(By みてみん)

*イラストは絵師 里音様です。


・春日 洋一=自由維新党青年部長。参議院議員。元ミツル商事社員。救国暫定臨時政権の内閣官房長官となる。

挿絵(By みてみん)

*イラストはイラストレーター さち 様です。

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