虹の輪の世界 そして、残響
ばら子さんは、たしかカタールからやってきた。じつは、カタールという国名でなにも思い浮かばないことはとても残念だった。というより、申し訳なかった。みんなは、日本のことをとてもしっているのに。
ばら子、彼女の提案で、これから、夕食会でお互いの国名は、語ることなく、話そうということになった。
ばらこさんはバラが大好きだった。最初は、響香と話した架空の人物、何出茂薔薇子にかさねて、彼女をバラ子さんとよんだ。
何出茂薔薇子は、人生をバラに捧げ、朝から晩まで、薔薇のことを思って生きた。子どもの頃は、前の席の戸川一が名前を書き、十ある問題をすべて終わったときにさえ、まだ、何出茂薔薇子は名前をかいていた。
それでも、ばらのことが大人になっても大好きで、彼女の庭にはバラ園かというぐらい薔薇が咲き、当然朝から晩まで、薔薇の世話に明け暮れる。バラが雨に濡れるといっては傘を差しだし、風が吹くといえば毛布をあてがい、車庫にいれるべき車は外に出しバラの肥料やら、腐葉土を入れ、日々研究にたえない。
尊敬するべき人は、ナポレオンの皇帝、じぇせふゅーゆ。
彼女の唯一の欠点というか、困った点は、ガーデナーはみな自分のようにするものだと、どこかおもっていることだけで、「寒いのに、どうして、ばらをほっとくの?」という彼女の問いにする「いや、人間寒いから。」の意味がわからない。
ただ、努力の上に立つ彼女の庭の美しさは、無言で、その偉大さをおしえてくれる。彼女のバラの惑星にはいったものは、みなバラのしもべとなっていく。
あの、架空の人物、何出茂薔薇子も、尊敬してるが、また、違う尊さをバラ子にかんじた。バラ子は、バラをそだてたというより、薔薇そのものに、そだてられた聡明な人だった。バラ子は、薔薇へ注がれた数々の人生までをいつくしんでいた。
そんな、ばら子さんはとても聡明な人で、彼女が議長を務めると会議はスムーズに進んだ。
「さて、命名は、伸子がしてくれたわ。わたしは、バラ子。それでいいはね。トレーナー。あなた、日本語はどれくらいできるの?」
「いっつ、パーフェクト」
「パーフェクト、英語じゃない?」
「完璧さ。」
「じゃー、会議は日本語ですすめましょう?いいわね。」
伸子。最後の30分は、議事録みて、変な日本語ないか確認して。翻訳アプリはフルに使いましょう。それなら、みんな大丈夫よね。」「おけ。了解」トムとジェリーこたえた。トレーナーも首をすくめながらも、「まあ。期待してるよ。」といった。「ギターは?」と、きのう、素敵のギターを奏でた彼にもきいた。
「君のいうとうりにぼくはするさー♪」と節をつけてかえしてきた。
夕食会の後、主役はギターだった。彼も日本語が堪能で、「いとしのエリー」をよく歌ってくれた。昼間の会議で嫌なムードになっても、この歌を聞けば翌朝はまたさわやかな気持ちに戻れる。やはり、歌の出だしが良いのだろう。
なくしたこともある。泣かせたこともある。でも、寄り添う気持ちがあればいい。
ギターが歌う、福山雅治さんの「道しるべ」では、7人全員が涙を流した。私たちが仲良くなるのに、それほど時間はかからなかった。
「道しるべ」のうたに出てくる「あなたの手」は、みなそれぞれに違う手をおもいうかべる。
伸子は、また、長沼のハーベストで、コロッケ食べる響香の手をおもいだした。もしかして、「残響」にこの曲はいっているのかしら?スマホで見ると、
『残響』収録曲一覧(通常盤)
群青 ~ultramarine~
化身
明日の☆SHOW
ながれ星
幸福論
18 ~eighteen~
最愛
想 -new love new world-
phantom
survivor
今夜、君を抱いて
旅人
東京にもあったんだ
道標
ラスト道標(道しるべ)
やっぱりとおもった。
まさに福山雅治ファン層のど真ん中にいる年代の響香。
それなのに——あの世代の青春の象徴、「ちー兄ちゃん」(※注:「ひとつ屋根の下」のチイ兄ちゃん)を知らない人がいるんだな……と、その話を聞きながら思った。
オリコン年間チャート一位だった、NHK『おかあさんといっしょ』の「だんご三兄弟」のリズムに日本中が包まれていたあの頃。
あの、誰もが口ずさんだ「桜坂」さえも、「誰が歌ってるの?」というまま過ぎていった娘とアンパンマンとの時間。
北海道にもあったんだ。
そんな時代を、ものを見つめ、明日を見ようとしていた——響香。
ときおり「大丈夫かな?」と心配しつつも、中学生の娘を「ひとりっ子っぽく」育てたくはない。と、
見つめ、殻を破っていく高校生になった娘に、あえて少し距離をとって、できるだけ遠くからエールを送らなければとしてた、母としての響香。
そして——
その娘からもらった、CDの話。
そう、あのとき。コロッケを食べてた。
(GACKTと福山雅治の区別つかない人いるの?)と少しおもっていたけど、コロッケをフォークにさしながら、むすめからもらった、CDのはなしをする響香の姿をおもいだした。「坂本龍馬やっていたひとなんだって、私、音楽番組みないからわからなくて。 高校の学生のカラオケ、、、、っていっても、すごいのよ、ドラマ仕立てになっていて、、、ママ、みんなが、泣いた舞台「みる?」っていうから、みたのよね。その高校生のうたう曲が福山雅治の「最愛」だったの。長年つれそった老夫婦が連れ合いをなくす、ドラマだった。」「「こんなに感動することなかった。」といったら、卒業式の前夜、娘が、くれてさ、その曲はいってるCD。毎日、ききまくっているのよ。」
あの、宝物をかたる響香もわすれない。
あのあとの沈んだ顔もわすれられない。
「もう、つらすごて、TV
みられない。」あれは、2011年3月11日を2週間ぐらいすぎたことのことだった。
彼女は「残響」(2009年 福山雅治)を心の処方箋だともいった。