ういろうは、どうでもよかった
ダビデは、ようちゃんと一緒にAとBを誘い、ウイロウを買いに行くことになった。
道すがら、四家道へ寄ることにしたが、ふとした拍子に小道へと迷い込んでしまう。そこで見つけたのは、古びた井戸だった。じつは、伸子は、きのうも、この井戸を見つけ、ふしぎにおもったのだ。「夢でも、みてるのかしら?」そんな感覚にとらわれた。
「道、間違ってるんじゃない?」
ようちゃんが不安げに言う。
しかし、足取りもだれよりもたしかっだった、ダビデは胸を張り、自信たっぷりに答えた。
「心配無用。武士の端くれとして、自らの道を見極めてきたのだ。」
その言葉に、ようちゃんはふと笑みを浮かべる。
「なんでそんなに武士っぽいの?やっぱり、龍馬ファン?もしかして、本当に侍になりたいの?」
そして、ようちゃんは、
「我ら尾張藩は、今こそ大義に従い、徳川家のために戦うことを選ぶ!幕府が滅びし後、新たな時代を築くため、命を賭けよう!」腕組みをして、即興の小芝居へ、誘い込む。
ようちゃんの演技力はたいしたものだった。それにもまして、ダビデの龍馬ぷっりは様になっていた。
「徳川のために戦う言うがやけんど、その先に何があるぜよ?幕府がなくなっても、この国は続くがじゃき。おんしらの剣は、未来を切り拓くためにあるがじゃろう?」
「そうじゃなあ。ほら、ウイロウ姫は、どげんとするばい?」ようちゃんは、尾張藩から薩摩に転じて女性軍にふってきた。
AとBも芝居に乗ってきた。
Aは涙を浮かべながら切なげに言う。
「行かぬでおくれ。あなたは、ウイロウの許嫁。たとえ、お家が決めたこととはいえ、わたしはずっとその前から、お慕い申し上げておりました。」
Bは苦しげに首を振る。
「ウイロウとは、……行ってはならぬ。もう徳川は……」
AはBの手をぎゅっと握りしめる。
「そう。時代は、つねにかわるもの。時の人になって、捨てる命などありませぬ。それがいつものおなごのおもうところ。ならば、かわらぬ、ウイロウのもとにまいりましょう。」
女性陣は真顔で、ウイロウとダビテをむすびつけたいようだった。
そんななか、ダビデは改めて伸子の方を振り向き、真剣な表情で言った。
「伸子殿、実は拙者……お前と共に道を歩みたいと、ずっと思っておった。」
思わぬ展開に、冷静に考えなきゃと、伸子は、頭をめぐらす。
(これは、もしや、ロマンス詐欺。)
伸子は、あとずさりした。
AとB
「いきましょう。ウイロウのもとへ。徳川は、もう、、、、あきらめるしかないわ。伸子さん、わたしたちも、いっしょにいくから、心配することはないわ。」
(みんな、グルかもしれない。)伸子のこころに警報がなった。第一、はじめての、一人旅。外国にきたのも同然。大音量の心の警報。
「せっしゃは、世界の喜びを分かち合い、平穏無事な人々に本当の幸せを届けることができると思います。その心が私の中に自然と芽生えてきたのです。」
「どうか、その方法を教えていただけませんか?」とダビデはつづけた。
「伸子殿、実はこの井戸が今の形になるまでの経緯を知りたいのです。そして、まだ水道が整っていない町も多く、そこで安全な井戸もないところがあるのです。こんな状態では許されません。今さら何を恐れることがあるでしょうか?江戸には、いえ、大阪には、仲間がまっています。一緒にこの問いをあきらかにしてほしのです。」
「それは、もちろん興味は、あるわ。だけれども、、、、、。」
水道にも、井戸にも、何ら興味のないようちゃんは、
「それならば、落研の経験をいかして、ぼくがですね、、と咳払いして、口上をはじめた。拙者親方と申すは、お立合いのうちに、
御存じのお方もござりましょうが、
お江戸を発って二十里上方、相州小田原、
一子相伝なる外郎売りでござる!」
AとBが顔を見合わせ、驚きながらも乗ってくる。
「さてこの薬、第一の奇妙には、
舌のまわることが銭独楽、
そらそら、舌がまわってきたわ、
回ってくるわ、あわや喉、
さたらな舌にかぎり、
なめらかに、ぬるぬると……!」
ようちゃんは、さらに、勢いを増して、
「生麦生米生卵!」
「瓜売りが瓜売りに来て、瓜売り残し、売り残し!」
伸子は、それをきいて、こんな口上まで、いう詐欺は、いないだろうと、改めて、詐欺ではないと結論つげて、ウイロウを一緒にかいにいった。
ウイロウの味にうそはなかった。そして、ダビデともじっくり話した。彼の話にも、うそはないようだった。名刺をもらった。北広島の事務所にもどったら、上司に相談してみようと思った。