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【旧稿】台所シリーズ 第2部 台所は世界をかえる(長旅編)  作者: 朧月


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See you again 千歳

セスナ?ジェット?


羽田に向かう高速道路は次々と分岐点をとおる。回路のような道は、空へと向かうように走る。前に座るダビデの顔。そして、隣に座る彼女の横顔。

「ジェット、軌道を外れたら、日本中の、ブーイングよ。」

「そんなに、大きくないさ。」

2人は、飛行機の話をしているかと、おもったが、セスナ、ジェットと、お互いをよびあってるのだと、伸子は、わかってしまった。

「セスナ、つぎは、どこに行くのか?」

「ジェットには、無理なとこ。」


伸子は、きのうの、ダビデのカラオケをおもいだした。

前に座る二人は、風まかせの紙飛行機でもない。

エンジンとブレーキのバランスを失った飛行体。

成人して、30年誰よりも空高くと自ら誇る最新鋭のジェット機を ただのプロペラ機に変えてしまった。サードラブ?

そんなこと思った。


日本に飛び立つのは、成田だとばかり思っていたが、千歳だと、当日の朝、聞かされた。この長い旅が、本当に始まってしまった。はじめての国際便。わん。つー。すりー。まずは、北海道、千歳へ。


 ダビデの彼女は、搭乗口で、「私は、先に」と、出発し、同じ飛行機には、乗らなかった。

 see you again

といって、お菓子の青い紙袋を渡してくれた。

see you againその言葉だけが、こだました。


ポケモンジェット。


羽田から、千歳に向かう飛行機は、たまたま、エアドウのポケモンジェットだった。白地に、黄色にかわいいりすみたいなキャラクター。「なんて、名前?」孫の凛の顔を思い浮かべ、答えるいきいきとした表情を想像した。ごぼうスープをいれてもらった、キャラクターのカップも、凛にみせてやりたいともおもった。キャビンアテンダントの美しい笑顔に、似合う笑顔をかえしたくて、空になったカップを差し出した。「おいしかったです。」


地図と同じ、北海道の海岸線が見える。大地にまだ、雪が少し残っている。それでも、何の作物なのか、緑に薄く塗られているような大地もあって、白いキャンパスに春色がまさに塗られているようにかんじる。目の前の冊子が、今乗っている機体の全体像をおしえてくれる。たしかに、見下ろす地上は、何度も車を走らせている大地なのだが、このポケモンジェットをみたことはない。青い空にこの黄色の機体がとんでる姿は、このかわいいポケモンが、菜の花畑から種をまくようで、かわいいことだろう。

ポケモンの話を孫の凛と話してた時、横にいた、未希、加奈の顔をおもいだしながら、心の中で地上に手を振った。

「だだいま。いってきます。」

シートベルト直用のサインが、きえた。スマホのボタンをつけた。荷物を取ろうと皆、たちだした。せめて、「今、千歳よ。」と連絡入れようとおもったが、人の列ができ始めて、やめた。

 

新千歳空港。 


千歳空港。それは、伸子の長女、加奈が、毎日、空港。かれこれ 10年以上になる。この空港で、飛行機の離着陸の安全を担っている。毎日、200便近い飛行機が飛び交う中、約30便ぐらいの飛行機が離着陸している。思い返せば、コロナ禍は、新千歳空港も非常におおきな試練のときであった。国際線は一時ほとんど運休状態になり、観光客の姿も消え、国内線も、外出自粛や県をまたぐ移動制限で大幅に減少した。一時期は、1日あたりの発着便数が100便を切ることもあった。静まり返った、空港の話を何度も聞かされた。それは、ついこの前の話だったと気がするのが、それが、思い間違えなのか、春の空港を歩く人々の足取りの数々は、明るさに満ちていた。マスクをしている人ももちろんいるのだが、しないのを当然として、歩く人もいた。

大きな窓は、これからできようとするラピダスの場所をさしている。エスコンフィールドの完成も見ずに、出発だったのに、

町が変わっていく姿に「浦島太郎になるかも。」と、なげいてみた。

 異国人の皆がその話はなんだと、興味ふかくいうので、

「むかし、むかし、たすけたかめに、つれられて、  竜宮城にいったならば、、、、、。」

と話するはめになった。

「竜宮城は、、、・それは日本?  」なんて話にもなった。

ダビデは、浦島太郎の話は知っているようで、少し離れて、笑みをこらえているようだった。

プロペラ機が、腕組みして、ジェット機にもどろうとしているように見えた。


飛行機の乗りつぎの時間は思いのほかすくなかった。伸子の長女は、この日、休みだと、以前連絡してきたのをおもいだした。ただ、スマホをとりだし、アドレス帳をあけて、ひととおりみて、しばらく飛行機の離着陸の姿を見て、再び、虹の輪の仲間の輪に、加わった。

空港内で、真摯に働く姿を、きっと、娘の同僚である彼ら、彼女らにかさねてみた。部屋に干されているあの制服がなんとも、りりしく思え、娘が誇らしく思った。

 何度も、スマホをとりだして、娘にラインをしようとおもうのだが、今日は、やたら、ジェリーが、後ろを振り向いてはなしかけてくる。

「ねえねええ、伸子

ジェット機が、セスナ機に恋をしたら、どうすると思う・?」

と、唐突な問いをしてくる。

きょうは、ジェリーの声もちがう。

「風邪でもひいたの?」

「きのう、歌いすぎちゃったかな?」

(きのう、ジェリーあなたは、うたわなかったじゃないの?)

「ねえねええ、伸子

ジェット機が、セスナ機に恋をしたら、どうすると思う?」

ジェリーは、いつもと違う感じの声をまるで、楽しむかのように、繰り返す。

「えっつ?どういう意味?」

「僕だったら、乗客全員おろして、セスナ機をおうね。伸子は、」

このジェリー、きょうは、人懐っこい子犬のようだ。

「私 ジェット機でも、セスナ機でもないもの せいぜい 軽自動車だわ。ダイハツの」

「軽自動車ね。」

「あっ、でもいいの。いつも彼、助手席にのせているから。 桑田さん。スピーカーだけは、いいのにしたの。」

「やっぱり、伸子はセンスいいね。」

ジェリーは前を向いて、スマホをいじり始めた。

娘から前日にもらったラインスタンプの下に添える言葉を考えていたら、ジェリーがまた振り返る。


「ね、伸子、どっちがいいと思う? こっちと、こっち。」

「そうね。」

一緒にスマホを覗き込み、あれこれ考える。ようやく決まって、ふたりとも前を向いた。

……と思ったら、

「あ、でも、車庫証明とかいるんだっけ?」

また聞いてくる。

「軽自動車なら、いらないんじゃない?」

すると、ジェリーは本当にうれしそうな顔をした。

やれやれ。

そう思ったときには、もう時間が過ぎていた。


ダビデは、少し距離をおいて、すわっていた。

視線の先をさがした。彼女のおいた青い紙袋を横に、窓の外の飛行機をみていた。

これから乗ろうとしているジェット機がすぐそこにみえていたが、視線はそれをこして、小さな飛行機がいままさに飛び立つのじっと見ていた。



シマエナガのスタンプ。


「ほんと、娘たちの既読マークって、ホノルルなみの時差よね。」

そんなママ友との会話をふと思い出す。


娘たちの既読マーク、いったいどこの国の時間でともってるのかしら。

そう思いながら、スタンプをひとつだけ送った。


── しまえながの「行ってきます」


すると、まもなく返ってきたのは、

「きをつけていってきてね。おかあさん。」の文字と、

夫と娘ふたり、そして凛の笑顔の写真。


長い列に並びながら、そっともうひとつ、

ありがとうのスタンプを押した。



初めて乗る国際線。

 

ダビデの彼女が手渡してくれたお菓子は、白い恋人。北海道、代表お土産というのに、今まで食べた記憶がない。レトロなタッチの手描き風イラストが温かみを感じさせる。クラシカルな字体も、まるで詩集みたいな雰囲気だ。

しばらく、手にしたまま、日本を立つ飛行機の中から窓に目をやった。

飛行機に、荷物が運び込まれ、その作業の行うひとの正確な動き。そして、彼らは、飛行機が動き出すとき、みな、飛行機に頭を下げた。かれらの、動きを最後まで、見なければと思うと、呼吸するのを忘れた。かれらは、最後まで見送った。その日は晴天だったが、千歳の一年をおもう。こんな、晴天のほうがむしろ少ないかもしれない。ふっきさらしの雪の中でも、ああして、飛行機をおくる。「ひどい風だった。」「しとしと雨が降った。」「きょうは、結局とばなかった。」娘の天気の話10年がよみがえる。

シートベルトのサインが消え、ようやく、白い恋人のお菓子のふうをきった。


「白い恋人たち」というフランス映画のタイトルにヒントを得て、「雪が舞う日に“白い恋人”が降ってきたね」という社員の一言から名づけられたのかも。サックとクッキーを食べたかと思うと、まろやかでやさしい甘さのホワイトチョコレートの味がひろがる。バラ子が、これは、クッキーでもホワイトチョコレートでもないわね。白い恋人という名のお菓子ね。

See you

Again が、 こだまする。


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