表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/30

26話 スキルやないと説明つかんで、あの存在感の無さは

 それからすぐにソフィアさんが戻ってきて、ソフィアさんとロッソさんの持つ情報の照らし合わせが始まった。しかし二人の話す内容が私の頭に入ることは一切無かった。当然だ。言い方は悪いが、会社を挙げての窃盗に加担してくれと言われたのだから。


 途端にお茶に口を付ける回数が多くなる。飲めど飲めど、口の中が乾くのだ。


「じゃあ……そういうことで、よろしくお願いします。何か協力できることがあれば、何なりとお申し付けください。ギルド自体は当然アムレ贔屓ですので、私の家にまで書簡を飛ばして頂けたらと思います」

「……そうですね、でも結果的にアムレにもこの件は伝わることになるかと」

「そ、そうなんですか?」

「ソフィアさんに先にこちらに話を伝えて頂きたかったのは、コラジョがアムレに対して有利に話を進めたかったからです。アムレの非人道的なやり方も、この件をきっかけに諌めるつもりです」

「でもギルドにアムレが不利になるようなことをしたことがバレたら、私たちのパーティーは……」

「解散になるようなことはありません。コラジョ主導のギルドを設立しますので、活動の責任はこちらで取ります」


 ロッソさんはしっかりと目線を逸らすことなく、ソフィアさんの目を見てはっきりと言う。瞳が揺れたのは、ソフィアさんの方であった。


 それから二課でソフィアさんを見送り、ロッソさんの待つ会議室に戻った。一応、二課宛の客だ。丁寧に見送らせて頂いた。


「ええんかロッソ、あんなこと言うて」

「ん?どんなことかな?」

「……コラジョ直営のギルド創設の話や、ずっと前に頓挫しとるやろその話は」


 会議室に戻るなり、ルカさんは怪訝そうな顔でロッソさんに問う。ロッソさんはどこ吹く風な様子でお茶を啜る。


「ルカは直営ギルド創設が頓挫した理由を知ってるかい?」

「……うちはその頃は二課に飛ばされてたら詳しいことは知らんけど、予算とかそこら変とちゃうん?」

「建前はそうだね。でも実の所、社内闘争の余波を受けたんだ。役員のウィッチが承認を押さなかった。直営ギルド創設の話を持ち出したのは、次の社長と名高い社長の息子だったからね。功績を積ませたくなかったんだろう」

「ふうん、何事にも色々な思惑が働いているもんだね」


 まるで他人事のようにファルさんが呟く。いつの間にか手にはいつものハイボール入り水筒が抱えられており、何があろうと己のペースを乱すつもりはないらしい。


「ていうかさあ、ヴェントに精霊の薬を撒いて空気汚染を止めるのはいいけど、そもそもコラジョだけでヴェントに辿り着けるのお?」

「まあ無理だろうね。でもそれはアムレも同じだ。アムレだって、ラファさんがいなきゃヴェントには辿り着けない。……だから言ったろう?アムレに対してコラジョが有利に話を進めるんだって」


 ペタロさんの疑問にロッソさんが答える。それを聞いたノーチェさんが「あーあー、そういうことかよ」と頭を掻いた。


「ロッソお前、ノヴァの件を片付けることでアムレの件も社内闘争の件もまとめて丸め込もうとしてるな?」

「はは、上手く行ったらだけどね」

「どういうことお?」

「先に空気汚染を解決する精霊の薬を手に入れ、恐らくノヴァについて嗅ぎ回り始めているアムレに対して事情と薬を保持していることを説明し、ヴェントに向かうための共同開発を持ち掛ける。薬と情報を持ってる時点でこちらが優位に立てるし、この件が公になったらほとんどコラジョの手柄として世間に知らされるだろうね」

「そ、しかもラファの録音したアムレの会話。これを迷宮省に持っていって行政指導を入れてもらうことで、アムレの地位は更に落ちる」

「そっかあ、アムレの地位が落ちれば魔法至上主義の勢いも落ちるから、アムレの傘下に入ることを目論んでいる社内のウィッチ派も大人しくなるってことかあ」


 一石二鳥、なんてものじゃない。ロッソさんはそこまで考えていたらしい。


「ていうか、ロッソは現社長派だったの?」

「僕達の仕事はダンジョン攻略に役立つ武器を開発して売り、勇者産業を発達させることだ。派閥争いなんかにそれを邪魔されたくないんでね」


 ルカさんの言う通り、仕事のことになるとロッソさんは有能らしい。先程ルカさんを子猫ちゃん呼ばわりしてデレデレしていた人物と、顎に手を当てて淡々と話す思慮深い人物が同一だとは思えなかった。ルカさんもどこかこのヒトが同僚であったことを誇らしげに思うような、そんな表情をしている。


「なんて言いつつ、ルカがウィッチ派が台頭することを望むなら僕は全てを裏切ってでも暗躍させてもらうけどね!ルカの望みあるところに僕あり!!」

「……ちょっと見直したうちがアホやった」

「その呆れた顔!どんな表情でもルカの魅力は霞むことないなあ」

「うざいきもいくっつくな!」


 ロッソさんがルカさんに縋るように纏わり付く。それをルカさんが容赦なくげしげしと蹴り付ける。しかしそれでもロッソさんは恍惚の表情だ。なんというメンタリティ。


 とはいえ、とはいえだ。確かにそんなことが実現したらこれ以上無い話だ。実現させるための工程を考えたら、そう脳天気にはいられない。


 自慢ではないが、ロッソさんから言い渡されてからおおよそ一時間、足の震えが止まらない。私に任された役目、大役すぎるやしないか。


「ろ、ロッソさん……本当に私が精霊の森に……?」

「それ以外今のとこ方法が思い付かなくてね。手荒な真似はしたくないし、何せ相手は精霊だから」


 私が恐る恐る言うと、ロッソさんはルカさんに蹴られたままこちらを向く。声は穏やかだが、ルカさんに蹴られたことによってセットされた髪は乱れている。そんな情けない姿で話す内容じゃない。


 精霊。それは種の中で最も神類に近しい種族だ。排他的で攻撃的。他種族を嫌い、基本的に森から出てくることはない。ロッソさんの言っていたように他種族に対する社会性が無く、独自の文化と文明を築いていると言われている。


 精霊なんて見たこともない。基本的にテリトリーにさえ入らなければ害は無いが、入った途端物凄い勢いで襲いかかり追い出そうとすると聞く。そんな精霊の森に入る。考えるだけで体が震える。


「精霊は目は良いが、その分他の察知能力は低い。ニコロから聞いたところだと、君のスキルは存在感を消せるのだろう?この上ない適役だと思ったんだが……」

「す、スキルって決まってないです……診断も受けてなくてただ影が薄いだけかも……」

「いや流石にスキルだろ、あれは」

「スキルやないと説明つかんで、あの存在感の無さは」

「そうだよ、ほんとに見えないんだから」

「ポポちゃん、存在感の無さに関しては自信持っていいよ!」

「う、うう、嬉しくない……」


 項垂れる私の頭をノーチェさんがわしわしと撫でる。何の慰めにもならない。


 するとロッソさんが少し何か考える様子で「ふむ」と私を見る。


「未診断なら受けてみればいいじゃないか。自分の知らない活用法も分かったりするらしいよ、あれ」

「え、ええ……」

「むしろ珍しくない?ヒトでスキルらしき予兆があったらこぞって診断に行くものだろ?」


 ロッソさんが不思議そうに首を傾げる。確かに、その通りだ。ヒトにとってスキルは特別で、ある意味人生を左右するものでもある上、制御しないと誰かを危険に晒す場合もある。スキルの研究も進み、スキルの発生や制御に関する相談や治療を担う専門医も珍しくない今、どんな物でも少しでもスキルの予兆があれば、即診断に行くものだ。


「わ、私がこんな性格と見た目だから……本当に影が薄いと思ってたので……二課に来るまでスキルだなんて思ったこともなかったんです」

「あたしが最初に言ったんだぜ!スキルの第一発見者!」


 何故かノーチェさんが胸を張るのを私は横目に見る。


「ほな行ってみたらええな、明日休みやし明日にでも行きや」

「ええ……でもこれがスキルじゃなくて、ただ影が薄いだけだったら私立ち直れないですよ……」

「……君、それが嫌で行ってなかったんだね」


 ロッソさんが気の毒そうな呆れたような、何とも言えない顔で私を見る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ