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18話 ダンジョンは面白い

「ダンジョン!ダンジョン!」


 右手を上下に振りながらミアちゃんはニコニコしており上機嫌だ。馬車の不安定な揺れに揺られながら、私たちは第一ダンジョン、プリーモに向かっている。


「この馬、良い毛並みだね」

「おうよ、相棒だからな」


 ファルさんの言葉に馬の手綱を引く獣人が笑う。見たところ狸男だろうか。この世界で絶対的な交通網である馬車の御者は基本的に獣人が勤めている。単純に意思の疎通が可能故に信頼関係を築きやすいのだ。動物の体の調子がよく分かるからという理由で、酪農業界も獣人が多い。


 町から少し離れただけで風景は一気に自然豊かなものに変わる。町では煉瓦で舗装されていた川も、少し離れると何の手入れもされていない。


「はー、良い天気やなあ」

「ダンジョン探索日和だな」

「もう建前もクソもないねえ」


 ペタロさんが呆れたように持参したクッキーを頬張る。


「ペタロ、ミアにもクッキー寄越せですわ」

「だめだよお、これは大人しか食べられないお菓子なのお」

「なんで!」

「子供がこれ食べると、お腹の中で消化されなくてクッキーから芽が出て、それがにょきにょき成長して、口から木が生えてきちゃうんだよお」

「……こわい」


 抑揚のない声でペタロさんが言い、ミアちゃんは大人しくなる。しょうもない嘘だ。余程クッキーを取られたくないらしい。「カスの嘘ついて怖がらせんなや」とルカさんがため息をついた。


「お、見えてきたんじゃないか?」


 そんなやり取りをしているとノーチェさんが窓から身を乗り出した。ノーチェさんの向いた方向を見ると、それはそれは大きな塔がそびえ立っている。一晩にして建物にして約十階ほどの建造物が打ち立てられたのだ。当時はとんでもない衝撃だっただろう。


 塔の壁には沿うように蔓が生えており、塔の周りには町中にしては不自然な程に木々が生い茂っている。観光客が道を歩けるよう、人為的に舗装が為されている。


「うわあ、私学校の課外学習以来だよお」

「私も、地元民は逆に来ないよね」


 ペタロさんとファルさんが顔を見合わせながらそう話す。攻略済みで尚且つモンスター掃討済みのダンジョンは、ダンジョン生物の養殖か、または観光地として機能している。このプリーモは十三年ほど前にモンスターの掃討が完了し、世界初のダンジョンの観光地として名高い。


 観光地としてのダンジョンは害の無いダンジョン生物だけが暮らしており、専門のガイドの元で探索可能となっている。そのため、ペタロさんの言うように学生の頃に課外学習で来たことある者も多い。


「ほい、着いたよ」


 御者の狸男が手綱を引いて馬を止める。ノーチェさんが六人分の代金を払い、馬車を降りる。


「わあっ……!」


 ミアちゃんが口角をこれ以上ないくらい上げて、丸い目をきらきらと輝かせる。たまらんと言わんばかりに足踏みをして、その喜びを持て余しているようだ。


 流石第一ダンジョンということで観光客が多い。周りには観光客向けに飲食や土産などの出店なんかも出ている。私たちはダンジョンの前まで来ると、小さなログハウスの小窓からチケットを購入するために列に並ぶ。ダンジョン内を探索するには入館料、入園料的なものを払う必要があるのだ。


「えっと、子供一枚、大人五枚__」

「あっ、私大丈夫です」

「え?」

「年パス……あるので……」


 係員に購入枚数を告げるノーチェさんの言葉を遮って、鞄から木で出来た手形を差し出す。「ああ、じゃあ子供一枚、大人四枚ね」と係員がその分のチケットをノーチェさんに渡す。


「……ダンジョンって年パスとかあるんや」

「近場の観光ダンジョンなら年パス持ってるんですよね……よく来るしあまり高くないので」

「ダンジョンオタクだなあ、タンポポ」


 ファルさんにそう言われ、「へへ……」と眼鏡を掛け直す。仕事終わりにいつでもダンジョンに寄れるよう、通勤用の鞄に年間パスポートを入れておいて良かった。


「早く中入りてえですわ!ねえ!」

「おーおー分かったから、引っ張んなって」


 ミアちゃんが鼻息荒くノーチェさんの腕を引く。係員の案内に従ってダンジョン内部に入る。「転換でフォンテ強くなるんで十秒息止めてくださーい、そしてそのまま歩いてくださーい」と案内される。


 六人揃って息を大きく吐いて、吸って、息を止める。目の前が黄金の靄でいっぱいになる。ダンジョンに入ってしまえば問題無いのだが、入るタイミングの転換でフォンテが異様に強くなるのだ。


 私たちは息を止めたまま靄の中を歩く。しばらく歩いていると、靄がだんだんと払われていくのが分かる。そして気が付いた時には、ダンジョンの中にいるのだ。


 足首に草木が触れる。辺りを見回すと、緑に囲まれた空洞の中にいた。目に入る草木全てが、ダンジョン外では見ないものばかりだ。どこからか水の流れる音もする。壁の側面は岩に覆われており、所々白く発光している。その光の当たり方によって色の変わる、ダンジョン生物の魔蝶が何匹も頭上を舞っている。直径三十センチほどあるので、蝶が舞うごとに目に入る光の色が違う。


 そういえば、プリーモに来たのは一ヶ月ぶりくらいかもしれない。私は大きく息を吸い込んだ。鼻孔を草木の青い匂いがくすぐる。


「ダンジョンだあ……」


 やはりダンジョンは良い。異世界転生してこっちの世界にやってきたが、ダンジョン内部こそが本当の異世界だ。


「タンポポ!これ!これ何?!でか猫!」

「え、あ、ダンジョン生物の魔猫ですね。基本的にダンジョン内の生物はダンジョン外より大きいので……にしても太ってますね」


 ミアちゃんがまず指を指したのは、ダンジョン外で言えば牛程の大きさのある猫だ。でっぷりとした体を丸め、眠そうな目をしながら私たちをじっと見ている。


 ルカさんが「あれやない?」と目を向ける。


「売店で魔猫のエサ売ってんねん、ええ商売やわ」

「前来た時そんなの無かったんですけど……」

「観光客向けって感じだねえ」


 ダンジョン内は観光客で溢れている。ダンジョン特有の自然体系、生物体系を守るためにある程度の入場制限をかけてはいるようだが、ああいった売店の類を見るとここ最近は商売っ気が大きくなっているようだ。


「うちはタランタシオ様の祠があるからたまに来んねんけど、なんか少し雰囲気変わったか?」

「あ、そっかリザードマンの祖が……」


 様々な種族が住むこの世界では、種族によってその種族の祖である存在を信仰する傾向がある。元より、このダンジョンのあった場所にはリザードマンの祖であるタランシオの祠があった。種族の祖の祠がある場所にダンジョンが打ち立つのは珍しくないが、そのどれもが難関ダンジョンに指定されている。


 祠に参ることができないと信仰の強い者からは早急な攻略を熱望されており、ダンジョン近くに臨時の祠を打ち立てられたりもしている。ちなみに、祖の祠が元のダンジョンで攻略がされているのはここ、プリーモだけである。


「ミア知ってますわ!この先でドラゴンが見れるって……!」

「運が良ければやけどね」


 「それは分かってますわ!」とミアちゃんがルカさんに向かって頬を膨らませる。


 観光ダンジョンはその内部全てを解放されているわけではない。この奥に、湖を挟んで祖の祠がある。その祠を守る神獣がいるのだ。この神獣と祖が契約を交わしたことで種族が生まれたとされている。


 祖は祠で眠り、神獣は近親での交配を繰り返し、代替わりで祠を護っている。普段は祠の更に奥、ダンジョンの最奥部にいるのだがたまに姿を見せてくれる。その姿はとても神秘的で美しいとされ、観光客はこれを目的に来る者が多い。


「じゃあ湖目指して進んでいく?」

「そうだねえ。うわあ、このラズベリー大きい!」

「持って帰って植えたりするのはダメですの?これ」

「ダンジョン外の生態系壊す恐れがあるのでダメですね」

「ちぇ」


 つまらなそうにミアちゃんは光る石を蹴る。ちらちらと淡い光のようなものが四方に散る。


「食べられそうな果物があっても食べない方がいいです。ダンジョン生物は市場に回る前にフォンテを抜く工程があるので、フォンテに耐性のない種族がそのまま食べるとフォンテに当てられちゃいます」

「へえ、そうなんだ」

「あと光ってる石は内部にフォンテが入ってるってことなので、こうやって蹴ると……」

「わあっ、キラキラしてるー!」

「さっきミアちゃん蹴ってた時もなってましたよ」

「全然見てなかった!」


 ミアちゃんは私が蹴った石を見て、はしゃぎながら光る石をどんどん蹴りながら歩く。蹴るたびに出る花火のような光は綺麗だ。ペタロさんやファルさんも物珍しいのか石を蹴っている。


「あっ、石も良いんですけど!あれあれ!魔兎!」

「ん?大きさはあまり普通と変わんねえな」

「そう思うでしょう?」


 普通より少し大きい程度の兎と並走して歩く。私が「ふふふ」と笑ったところで、魔兎は足の筋肉を瞬間的に膨張させ、大きく飛んだ。大きく大きく。それはもう大きく。気が付いた時には三十メートル程先にいる魔兎にミアちゃんは口をあんぐりと開けて驚いている。


「す、すごい!すごい飛びましたわ!」

「魔兎の足の筋肉はすごいんです!食べるにしても相当美味しいらしいですよ」

「普通の動物がダンジョン内で育つだけでこんな違うんやなあ」


 ミアちゃんは大はしゃぎ、大人の面々も目を丸くしてる。それを見て私は何故か心が浮足立つのを感じる。


 そう、ダンジョンは面白い。ダンジョンは興味深い。ミアちゃんを見ていると幼い頃の自分を思い出す。勉強はできたもんじゃなかったが、ダンジョンのことならいくらでも覚えることができた。


 そんな私を見てノーチェさんが小さく笑う。


「タンポポ、お前ダンジョンのことになると途端に嬉しそうだな」

「えっ、あ、すみません、つい……」

「いーんだよ、そんなに舌回ってんの初めて見たぜ」

「ラファさんとダンジョン談義してた時もすごかったよお、ポポちゃん」

「あー、いや、へへ、お恥ずかしい……」


 照れ臭くて眼鏡を掛け直す。極めつけの、ミアちゃんの「話たくさん聞けて嬉しいですわ!」という言葉にこれ以上なく頬が緩んでしまう。


 そうこうしていると、奥の湖に繋がる洞窟が見えてくる。ここまで来たらミアちゃんに神獣であるドラゴンを見てもらいたい。

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