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命の炎が爆ぜるとき

作者: 紫月

今日、じいちゃんに会うために地元に帰ってきた。じいちゃんの命はあと1週間らしい。

じいちゃんは最初に余命を宣告されてから、随分と長く生きた。私はその月日の間にじいちゃんが死ぬということを理解しようとしたけれど、変わり果てた姿を受け止める準備はできていなかった。

たくさん話しかけても、もうほとんど反応はない。その目には何も写さず、吐息だけが聞こえる。初めて命の炎が消えかけてると感じた。

私は病室でずっと私の話をし続けた。じいちゃんが楽しい気持ちになるように少し盛った私の自慢話を。で も自慢話も尽きてしまい、ただ見つめることしかできなくなった。

最後にじいちゃんへいつものように「帰るね」と言ったらそれまで動くことのなかったじいちゃんの右手が私に伸びた。じいちゃんのその瞳は光を宿し、昔のままの視線で私を捕らえる。最後の別れの握手だとわかった。指先はもう冷たくて大きなその手に力は感じられなかったけれど、じいちゃんの命の炎が爆ぜていると感じた。なのに!私は怖くて辛くて泣けてきてすぐその手を離してしまった。

じいちゃんと私だけの思い出が脳内を駆け巡る。2人で東京に旅行に行ったこととか、地元の古びた商店街で2人で飲んだこと。私の高校の通学路が警備員のじいちゃんの仕事場になり、登校中の私に手を振ってくれたこと。徒歩3分の塾に車で送ってくれたこと。私がいらないからじいちゃんにあげたストラップをとても大切にしていてくれたこと。じいちゃんはたぶんもう忘れてしまっている思い出が私の中にはあってそれは喜ばしいのだろうけど今はそれが悲しくて耐えられなかった。

もう私は病室にいられなかった。ボロボロと大粒の涙をこぼしながら雑に目をこすって早足で病院を後にした。

本当はあの手を離したくはなかったけれど、溢れる感情を受け止められなくて、反抗期の子供の頃のように、じいちゃんに背を向けた。

でもきっとじいちゃんはそんな私を許してくれる。そう思えるほどに私は愛されていたと自覚している。

じいちゃんの命の炎が爆ぜた熱が移り、私の命の炎はより太く熱く燃えた。私は思い出と共に生きていく。

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