65話 再燃
僕は、ファイアくんとハゴコロくんの戦いの様子を、最初から見直していた。
最初はランファくんと戦っていて……そこにファイアくんが乱入してきて、そしてランファくんが吹き飛んで……かなり濃密な戦いだったようで。
「……と、まぁ、こんな感じで俺は決勝に進んだ訳だ。次はリオ・エリオード、貴様の戦いを見せてくれ」
そう僕に尋ねるハゴコロくんの声を無視して、僕はファイアくんの現在の様子をシャボンに映して眺めていた。
ファイアくんは意気消沈した様子で洞窟の中を歩いていた。
洞窟の中は戦いの余波で壊滅状態になっており、ファイアくんは何度も岩の破片などにつまづいては転んでいた。
ファイアくんは、歯を噛み締めて、今にも零れ出そうとする涙を堪えている様子だった。
……僕にもわかる。僕も、魔法が使えるようになる前は、何度も何度も、そういう気分になったことがあるから。
知り合ってまだ浅い程度の付き合いでしかないけれど、それでも、いつも元気いっぱいなファイアくんの、しおらしい様子を見ていると……僕まで何だか意気消沈していくようだ。
「おい、リオ・エリオード。貴様の戦いも見せろと言っている。俺は見せてやったんだ、貴様も見せるのが筋だろう。義理を通せ義理を」
そう何度もイラついた様子で話しかけてくるハゴコロくんを、僕は再度スルーして、ファイアくんの様子を見守り続けた。
一応言い訳すると、僕がハゴコロ君を無視し続けているのは、別にハゴコロくんに悪意がある訳ではなく……ファイアくんへの心配が勝っているからで……。
……大丈夫かな、ファイアくん。
……決勝で、会えるかな……?
△▼△▼△▼
戦いの影響でぐちゃぐちゃに散らかった洞窟の中を、俺は延々と歩いていた。
全身が痛ぇ……ハゴコロにやられたダメージが響いてやがる……骨折れてねぇよな……?
靴の先に岩の破片がぶつかり、転がっていく。
俺はそれをぼーっと眺めながら、さっきまでの戦いを思い返した。
「……ランファもハゴコロも、強かったなぁ。……俺ばっかダメージ食らってた気ぃするや」
俺の中に流れる血が、熱くなった……そんな気がした。
ああ、そうだ……俺……悔しいんだな……。強い奴と戦って……差ぁ見せつけられて……血が滾るほど悔しいんだ……。
と、その時。俺の目の前に、一人の男が現れた。黒い髪を自信満々に長く伸ばした、表情が少し鼻に突く奴だった。
「なんだなんだァ? 洞窟の方が騒がしいから、何があるかと思えば……ボロボロのキミ一人かァ? やれやれ、とんだ無駄足だったみたいだ。せめて憂さ晴らしに、キミをいたぶらせてもらおうっ!」
そう長々と垂れ流すと、その男は手の平に描いた魔法陣を俺に向けながら走り寄ってきた。
俺は、迫るそいつの手の平を魔法陣ごと掴み、思い切り力を込めた。
「アイタタタタタタタタ!?」
俺の握力で手を握り潰されたそいつは、間抜けな悲鳴を上げて悶絶していた。
その悲鳴を気にせず俺は、独り言のように、呟いた。
「なぁ、知ってるか……上には上がいるらしい」
「イタタタタタタタタタ!?」
「俺ァ、バカだけど、それでも……そんなことわかってるつもりでいた。……でも、本当の意味じゃわかってなかったんだ」
「イタイタイタイタイタ!?」
「思ってたよりも、俺より上の奴ってのはめちゃくちゃいるらしいな」
「イタイッテイタイッテ!?」
「つまり、まぁ……俺がお前に何が言いてぇかと言うとだな」
「お願いだからもう離して――」
そこで俺は思い切り頭を、上体ごと後ろに反らし――そして、目の前の、手を握り潰されて涙目の男の頭に思い切りぶつけた――頭突きだ。
「――今俺クソ落ち込んでんだから空気読めやァァァッ!」
「アガピーーーーーッ!?」
たった一発の頭突きだったが、打ち所が悪かったらしい。男はとんちきりんな悲鳴を上げて、気を失ってその場に崩れ落ちた。
俺はその場に男を放っておき、鼻息を荒くしてその洞窟を後にした。
「がぁ〜〜〜っ、マジで悔しい……次は絶対負けねーかんなコンチキショーがァ〜〜〜〜〜!」
……ふぅ。叫ぶとだいぶスッキリした。
気がつくと洞窟の中からはとっくに出ていたようで、明るい日差しが俺を暖かく包み込んだ。
「っし! んじゃ、またイチからメダル探すか!」
俺は決勝進出決めて、どっかで見てるんだろうリオとハゴコロに、……とりあえずどこから見てんのかわかんねーから、空に向けて指を指して、吠えるように叫んだ。
「見てろよテメェら! 絶対俺も決勝行くからよォ!」
センセンフコク……って言うんだっけか、こういうの。
俺はとりあえずそれを決めて、走り出した。
気がつくと、全身の痛みもすっかり引いている。
大丈夫、俺はまだやれる。
俺は強く強く、地面を蹴って走り出した。
△▼△▼△▼
リオとハゴコロは、シャボンの映像からこちらに指を指して宣戦布告をしたファイアに、思わず苦笑した。
「はは……ホント、元気だね、ファイアくん」
「五月蝿いだけだろう……」
ハゴコロの容赦ない冷たい物言いに、更に苦笑を重ねるリオ。
と、その時。リオの背後から、あっ、と声が上がる――ゴルドのものだ。
「シルバ!」
ゴルドの見ていたシャボンに映っていたのは、ゴルドの双子の弟であるシルバが柄の長い大きな両手斧を構えているシーン。
そして、そのシルバと対面しているのは――
「……ランファくん!?」
ゴルドの後ろで、リオの驚く声が響く。
彼の言う通り、シルバの前で刀を構えていたのは――刀を構えたランファだった。
「ほぉ。刀と斧かぁ。面白そーだね」
メグミが呑気にそう言ったのを、無言で首肯するウルティオル。
ここでまた一つ、戦いの幕が上がる。
△▼△▼△▼
見渡す限り一面の緑広がる草原の真ん中で。
シルバは自らの魔力で創造した斧を構えながら、ランファに質問をした。
「今ここで、俺とお前が戦う理由がわからない。俺はメダルを持っていないし、この場にもメダルは無い! 今ここで俺とお前が戦う理由は無いはずだ!」
そう。シルバは、メダルを探して歩いていた。そこに突如現れたランファの、その並々ならぬ殺気に、戦闘態勢を取らざるを得なかった、というだけである。
シルバのその問いかけに、ランファは首を傾げた。
「あん? メダル? ……ああ、決勝に進む条件ってヤツ、聞いてなかったなァ。そういやさっき、エリオードや陰キャ忍者が決勝進出とかアナウンス流れてたなァ。メダルを……どうすんだ?」
「何だ、聞いてなかったのか? メダルを破壊するんだ」
「なるほど。メダルは計何枚だ」
「八枚だな」
「今、決勝進出決めてんのは……エリオードと、陰キャ忍者と――」
「俺の兄貴もだ」
そこまで聞くと、ランファは改めて手に持った刀――水魔法で作った、刀身に浮かぶ波紋が美しい、湾曲した長い刀・彗龍星羅流を構え、残虐さを滲ませるような笑みを浮かべた。
「残りは五枚。なら、ここでメダルを狙う頭数を減らしておく……っつーのは、戦う理由になるんじゃねェか?」
「……これ以上の問答は、時間の無駄みたいだな!」
そして二人は、互いに魔導で全身を強化し、戦闘態勢を取った。魔力がはち切れんばかりにそれぞれの全身を巡り、並々ならぬオーラとなって、辺りに生い茂る芝や草花を揺らした。
と、その時、突然目の前に――ランファの前には白い馬が、シルバの前には黒い馬が現れた。それと同時に、二人の頭上にアナウンスが響く。
『ハバキリ・イオリ、決勝進出! 残りは四枚――半分切ったからね。ここらで一度テコ入れだ! 各地に乗り物や回復薬やら、色々なアイテムをランダムに配置したから、好きに使うといい!』
そのアナウンスを聞き、二人は視線を合わせ、同時に笑った。
「なるほど。この二頭の馬もテコ入れってことだな」
シルバのその言葉に、ランファは頷いた。
そして――二人は同時に馬に飛び乗り、跨った。
そして同時に二人は馬の横腹を蹴り、馬を平行に走らせた。
蹄が地面を蹴る音、馬の嘶きや荒い呼吸の音が響く中、長い水色の長髪を風になびかせながら、シルバは同じく馬に揺られるランファに問いかける。
「お前のことは話に聞いてた。同じ一年の中でも、頭が良くて魔法も上手いってな! そんな優等生が、価値の低い戦いを何故するんだ!?」
「ハッ、成績が良い奴は常に合理的な選択しなきゃいけねェのか!? 俺は俺の意思のまま、やりたいようにやる――それだけだァ!」
そう返しながら、ランファはシルバへと馬を寄せ、そして水魔法の刀で馬上から斬りかかった。それを担いでいた斧の腹で受けたシルバは、そのままランファを睨み返す。
「なるほど、良いのは成績だけか! 性格や頭は悪いようだな!?」
「言ってろ雑魚ロング!」
「雑魚ロング!?」
シルバの長髪に雑魚の枕詞を付けただけの雑な仇名だが、彼は一瞬狼狽えた。その隙にランファはシルバの馬を蹴飛ばし、体勢を立て直す。
突然蹴飛ばされたことで興奮し、暴走しかける馬を何とか落ち着かせながら、シルバはランファに舌打ちをした。
「チッ……仕方がない、付き合ってやるよ優等生!」
「安心しろ、長い時間は取らせねェ。すぐ終わらせてやるよ雑魚ロング!」
再び、二人の持つ刀と斧が、高い金属音を奏でながら衝突した。




