63話 即席コンビ結成
「……先に割られちったね。メダル」
ぺたりと大橋の上に座り込み、スピアはポツリとミィシャに話しかけた。
ミィシャもまた、俯いたまま、悔しさにまぶたを強く閉じて、応えた。
「……凄かった、ですね。ウルトラマリンくん……」
「ホント……マジムカつく……あーしらでアイツのこと、鬼畜スマイル金髪ヤローって呼ぼっか」
「長いです」
「ツッコミの時はバッサリ即答するのねミィちゃん」
たはははは、と笑うスピア。
しかしその表情には、見せつけられた実力差に折れそうな内心や悔しさが滲み出ていた。
ちなみに、ルール的には、この夢世界で死亡するまで、あるいはメダルが八枚全て砕かれるまでは、負け扱いにはならない。
まだ、彼女達に決勝進出のチャンスは残されてはいる……のだが。
「……ヤベー……勝ち上がれる気がしねー……」
スピアは、前髪をくしゃくしゃに掻き乱しながら、そう呟いた。
見せつけられた実力差に、スピアの心はへし折れかけていたのだ。
そんな彼女に、ミィシャは。
「……手を、組みませんか」
そう言って、スピアに手を差し出した。
それは、今までの、引っ込み思案で人との対話を大の苦手とするミィシャからでは考えられない行為だった。
事実、ミィシャが差し出した手は小刻みにプルプルと震えており、彼女が勇気を振り絞り、意を決して手を差し出したことは、手を差し出されたスピアにも十二分に伝わっていた。
ミィシャはたどたどしく続けた。
「一人じゃ無理でも……二人でなら、一枚くらいは、メダル、割れる、かも……しれませんし」
「……それ、仮に割れる状況になったとしてさー……どっちが割るの?」
「……えっと、それは……、あのぅ……」
しどろもどろになるミィシャを見て、スピアは思わず吹き出した。
「っ、アハハハハ! ごめん、ごめんねミィちゃん! 意地悪言った!」
「……うぅ。ひどぃ、です」
「ごーめんって! そんな睨まないでよってか、睨み方かわいいな!」
涙目で、上目遣い気味にプルプルと震えながら、顔を真っ赤にして睨むミィシャに、スピアは指をわなわなと震わせて笑う。
そしてスピアは、舌を出して、ピアスを見せながら、サディスティックな笑みを見せた。
「ってかさ……さっき約束したじゃんね? おっぱい揉ませてって……」
「……私、答えてないですよ!?」
「じゃ、手を組む取引、飲むからさ……。ね!」
「ね! ……じゃないですけど!?」
「まーま、まーま! ね! ね!」
「勢いだけでゴリ押そうとしても無駄――」
ここから先は、すったもんだの中身の無い応酬が続くため、割愛する。
結果だけ記すとすれば、ミィシャとスピアは、一時的に手を組むことに合意した、ということである。
「うっし! それじゃ、仲良くお互い協力しましょ、ミィ〜ちゃんっ!」
「……もぅ、お嫁に行けません……」
「そんなら貰ってやんよ、あーしが!」
顔を真っ赤にしながら胸元を押さえてうずくまるミィシャに、スピアは快活に笑いながら彼女の黒髪を撫でた。
こうして、即席のコンビは誕生したのである。
△▼△▼△▼
メグミやウルティオル、そして決勝進出者であるリオがいる空間――言うなれば“勝者待合空間”とでも呼ぼうか。
その空間に、赤いメダルを破壊したゴルドもまた、転送されてきていた。
「……おや?」
ゴルドはその勝者待合空間の様子を見て、開口一番、疑問を口にした。
「いつの間にやら、リオ・エリオードくん以外にもう一人?」
そう呟く彼の視線の先には、胡座をかいて桃の実に皮ごと齧りつく、忍者のような出で立ちの――ツチノヒ・ハゴコロの存在があった。
ハゴコロは、果汁で汚れた口元をウルティオルに渡されたハンカチで拭うと、ゴルドに無表情に視線を向けた。
「貴様は……ゴルド・ウルトラマリンか。ここにいる、ということは、貴様も決勝進出したということか」
「……ってことは、キミもか。ツチノヒ・ハゴコロくん」
ゴルドがそう返すと、ハゴコロはわかりやすく表情を不快感に歪めた。
「名前で呼べ。ツチノヒという家名は好かん」
「そっか……わかったよ、ハゴコロくん」
ゴルドが伏し目がちに申し訳なさそうにしながらそう言うと、ハゴコロは顔を無表情に戻して頷いた。
そして、桃の実をゴルドに投げ渡し、自分は再び桃の実に齧り付いた。そのまま頬張った桃の実を咀嚼し、飲み込み、ゴルドに視線を向けた。
「ああ。貴様も疲れただろう、桃を食うといい。学園長殿の粋な計らいによるものだ、ちゃんと学園長殿に礼を言うんだぞ」
義理は通さんとな、とやや説教がちに言うハゴコロ。
ゴルドは彼に頷くと、ウルティオルの方を向いて頭を下げた。
「……ありがとうございます、ウルティオル学園長」
「いーのいーの。どうせ夢の産物、ここでいくら食おうが現実の肉体に何も関係ないんだから」
ウルティオルはヒラヒラと手を振り、ゴルドの下げた頭を上げさせた。
と、その時。ふと脳裏に過ぎった、と言わんばかりに、ゴルドは疑問を口にした。
「何故、僕やハゴコロくんがメダルを割った時にアナウンスが無かったんだろう? エリオードくんの時はあったよね?」
それを聞いたリオは「確かに」と相槌を打ちつつ、ゴルドに「僕も名前で呼んでよ」と微笑みかけた。
ゴルドもまた、リオと視線を交わし、微笑みを返す。
そこにウルティオルが、これまた気怠さを隠さない声色で、ゴルドの質問に答えた。
「あー。キミ達、決着のタイミングがほとんど同時だったからね。めんどくさいし、二人ともここに来てから纏めてアナウンスしよっかなーって思っただけだよ」
そこまで言うと、ウルティオルは魔法陣の刻まれた拡声器を取り出し、その拡声器でハゴコロとゴルドが決勝進出を決めたことをアナウンスした。
そのアナウンスは、今も天空列島で戦う学生達の頭上を抜け、彼ら彼女らを大いに焦らせる。
残るメダルは五枚、もうすぐ半分を切ろうとしており、その事実は、焦りを覚えるには充分だった。
「あのさ、ハゴコロくん」
戦いの様子を眺めながら、リオはふと、ハゴコロの方を向いて声をかけた。
ハゴコロはシャボンから目を離し、リオの目を真っ直ぐ見返して応えた。
「なんだ、リオ・エリオード」
「僕、ゴルドくんの戦いの方を見てたから、キミの戦いを見てないんだけど……どんな戦いだったの?」
リオのその質問に、ハゴコロはさらりと答えた。
「ああ……俺はファイア・ヒートフレアと戦っていた」
「ファイアくんと!?」
自分から仕掛けた話とはいえ、不意に友人の名前が上がり、声を上ずらせるリオ。
そんな彼の様子が気に入ったのか、ハゴコロはくっくっと笑い声を出しながら、ニィッと唇の端を吊り上げた。
それはさながら、昔舞台で見た英雄譚の、魔王のようだ――リオは過去の思い出を想起し、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「ああ……せっかくだ、語ってやろう。俺は今、勝利の愉悦と桃の美味さで機嫌が良い」
ハゴコロが大仰な態度でそう言った、その時。不意にウルティオルの横槍が入る。
「あ、別にそんな話す語るしなくても、シャボンに録画機能とか付いてるからそれで見れるよー」
ウルティオルがパチンと指を鳴らすと、リオ達の目の前のシャボンに映る映像が、先程まで繰り広げられていたハゴコロとファイアの戦いに変わった。
それと同時に、リオとハゴコロの間に、若干気まずい沈黙が流れる。
先程の大仰な態度はどこに行ったのか、伏し目がちにいつもと変わらぬローテンションなトーンで、ハゴコロはリオにシャボンの映像を指した。
「……だそうだ、リオ・エリオード。この映像を見るといい」
「……うん。なんか、ごめんね」
「何故、謝る……」
気まずさに目を逸らし続ける二人。
それを傍から見ていたメグミは、爆笑を堪えるのに精一杯といった様子で、座りながら足をバタバタとさせた。
ちなみに、既にメグミからリオへのマッサージは終わっている。
「それじゃあ、ファイアくんがどうやってハゴコロくんに負けたのか……見せてもらうね」
リオはそう言って、意識を映像に切り替えた。
その、リオの瞬時の意識の切り替えを目の当たりにしたハゴコロは、内心でリオを賞賛する。
(この意識の切り替えの早さ……実戦向きだな。リオ・エリオードの評価を改める必要がある)
こうして、視点は一度時間を遡り――ランファが洞窟から吹き飛ばされた後。
ハゴコロとファイアが残る、洞窟の内部へと移り変わる。




