62話 即席の連携
「んじゃっ、行こっかミィちゃん!」
スピアはそう言うと、手の平をゴルドに向けて、魔法を使った。
「【炎魔法――サラマンドラ・ゲート】!」
突如として、赤い扉がゴルドの前に現れた。
その扉は、ギギギと音を立てて開く。
そして、重厚な動作と共に開け放たれた扉の奥から、蛇のようにうねり進む高速の炎が四本、ゴルドへと襲い掛かった。
「ふぅん……」
ゴルドはその炎を、風を付与した斧を振るうことで気流を操作し、一歩も動くことなく対処した。
だが、その炎の奥で、更に黒い先の尖った槍のようなものが、ゴルドを貫かんと伸び進む。
「【鋼鉄魔法――尖影】!」
ミィシャの魔法だ。先の尖った槍のような影を伸ばして、相手の肉体を貫く彼女の魔法は、脅威的なスピードでゴルドを襲う。
「なるほど」
ゴルドは一言、そう呟くと、その場で身を翻し、宙返りをして尖影を避ける。だが尖影は、まるで触手のようにうねり、進む進路を変え、ゴルドに再び襲いかかった。再三襲い来るそれを、ゴルドは両手の斧を重ね合わせ、刃の部分で尖影を受け止める。
と、そこに更に追撃をしようと、スピアはミィシャの影から伸びる尖影の上を走ってゴルドの頭上を飛び越し、彼の頭上から魔法を降らせた。
「脳天ガラ空きィッ♪ 【土魔法――ノーム・ゲート】!」
魔法でできた黄色の扉の中から、土砂が雪崩のように溢れ出し、ゴルドを上から圧し潰そうと降ってくる。
ゴルドはそれを魔法を使って防御しようにも、彼の魔法の行使に必要な斧は二本とも尖影の防御に使っている。
ミィシャも魔力を注げるだけ尖影に注いでいるため、威力は絶大――両方の斧を使わなければ、ゴルドは尖影を受け止め切れず、跳ね飛ばされるか貫かれるかのどちらかだ。
(……即席の連携にしては上手すぎるね!?)
ゴルドは、内心でそう突っ込みたい本心を押し殺す。
そのまま彼は現状打破の方法を、スピアの土魔法が自分を圧し潰すよりも先に、という刹那の時間制限付きで、あれこれと考え始めた。
余りにも短い時間……その中で、彼の出した答えは――
(――いいさ。飲まれてやるよ、この土砂崩れに)
――魔法の直撃を食らうことだった。
土煙立ち込める朦々の中、彼は全身を魔導で強化し、土砂の中に埋まった。
だが、ここまでは彼の計算通り。
(これであの尖った影はどうにかなった)
そう。ゴルドは、あえて土砂に飲み込まれることで、尖影を防御しなくても良い状況に――つまり、両手の斧を自由に使える状態に持っていったのだ。
現在、尖影もまたゴルドと同じように土砂に埋もれ、推進力を失っていた。
魔法を自在に使えるのなら……後は、己の身に降り積もった土砂を退かすのみ。
(見た所、この土砂自体には、何も魔力が施されていたりはしていないようだ。なら、多少雑でも構わないね)
土砂の中でそう考えを募らせるゴルド。
その一方で、ミィシャとスピアは。
「うっし、これであの青髪ヤローはしばらくの間、土の中! その内にとりあえずメダル回収して、逃げちゃおう。あーしとミィちゃん、どっちが決勝進むか、逃げた先で決めよっか」
「そ、そぅ、ですね……そっ、そう、しましょう」
今後の方針を決めた所であった。
未だにスピアの、いわゆるギャルのような派手な見た目に怯えるミィシャは、目を伏せながら、言葉をどもらせながら、スピアの提案に賛同した。
だが、そんなよそよそしいミィシャの態度に、スピアは唇を尖らせて、そして彼女の肩に腕を回した。
「んなビビんなって〜! 傷ついちゃうぞ、あーし!」
「うひゃっひぃっ!?」
突然肩を組まれたことで、素っ頓狂な声を上げるミィシャ。
そのままガクブルと震え出す彼女に、スピアはグイグイと距離を詰めながら、曇りのない笑顔で話しかけ続ける。
「つかさ、ミィちゃん、おっぱいでっかいよね! いつも何食ってんの?」
「あひゃひぃ……」
「後で揉んでもいー?」
「あひゃひぃ……」
「それはおけなのかだめなのか、どっちよ」
「あ、あひゃひぃ……」
自分とはかけ離れた人種である……スピアのことをそう判断したミィシャは、ただただ怯えるのみで、答えにならない声を発し続けるのみ。
とても、先程息のあった連携を行ったとは思えないギクシャクぶりであった。
「むー……仲良くなりたいんだけどなー……」
スピアがそう、唇を尖らせながら赤いメダルを取りに行こうとした……その時。
突然巻き起こった竜巻が、ゴルドを生き埋めにしていた土砂を全て巻き上げ、橋の外へ吹き飛ばした。
背で竜巻による突風を受けたミィシャとスピアの二人は、わざわざ振り返らずとも、それが意味することを理解した――ゴルドに脱出されたということだ、と。
ミィシャはまだ手に持ったままである影の大鎌を握り締め、スピアは背に全神経を集中させ、両者はそれぞれ竜巻の中にいるであろうゴルドを警戒した。
(背中から来た瞬間に、この鎌を振り抜く。カウンターで斬り捨てる!)
(あーしはミィちゃんより前にいるから、振り返った時にミィちゃんがどう動くかを確認して次の行動を決める。大丈夫……さっき連携してわかった、あーしとミィちゃんは結構息が合う!)
それぞれが背後に全神経を集中させ、真冬の寒天の空気のように張り詰めた緊張感の中で、思惑を交差させる中……ゴルドは――土砂と共に大橋の外に吹き飛ばされていた。
もちろんそれは、ゴルドのうっかりミスではないし、第三者が魔法で吹き飛ばしたという横槍でもない。ゴルドの作戦である。
ゴルドはミィシャとスピアの視界と警戒の埒外から、両手に持った斧を振り、まるでカワセミが獲物の魚を獲る時のように加速した。
そしてそのままスピアの真横を高速で通り抜け、そのままの勢いで赤いメダルを割り砕いた。
「「……え?」」
呆けた顔をするミィシャとスピアは、背後に集中した時の体勢のまま、目の前であっという間に砕かれてしまった赤いメダルと、それを持って薄く笑うゴルドを見て、ようやく状況を飲み込んだ。
((……これって、私達の……負け……?))
敗北を実感し……それでもなお呆ける二人に、ゴルドは溜息を吐き、そして優しく説き聞かせた。
それは、教師が生徒を教えるが如く。先輩が後輩にアドバイスするが如く。
彼の口調は優しかったが、それは彼女達に格の違いを見せつけるのに、充分すぎる効果を発揮した。
「最初に言ったはずだよ。僕は、少しなら浮ける……って」
そのゴルドの言葉に、ミィシャとスピアは同時に、つい先程ゴルド自身が言っていた言葉を思い出した。
――「今の魔法は、斧に付与した風の魔力で、僕に有利な気流を作り出す魔法だ。僕を落とそうとしても無駄だよ――少しなら浮けるからさ」――
そして、ミィシャはぺたりとその場にへたり込み。
スピアは力無く敗北感に滲む顔で笑った。
「あー……そゆことね……土砂ごと自分も吹き飛ばして……あーし達の警戒の範囲外から、気流を操るその斧で、飛んできた……って訳……」
「その通り。別に、無理にキミ達を殺す必要は無かった。メダルさえ割ればいいんだから……。じゃあ、僕は先に行くから……また会えたらいいね」
ゴルドは優しい笑みを崩さずに、ミィシャとスピアに手を振った。
既に彼の身体は、割れたメダルから漏れ出た赤い煙に巻かれ、宙を浮いている。そのまま彼も、リオやウルティオルのいる空間に招かれるのだ。
――決着。ゴルド・ウルトラマリンVSミィシャ・シーモンス&スピア・ガーテゲート――勝者、ゴルド・ウルトラマリン。




