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60話 赤色のメダル

 いやー……負けちった、負けちった。

 流石リオちん。最近魔法が使えるようになったばっかりなのに……もう、こんなに使いこなしてるなんて。

 ……本当に凄いや。

 うちは、リオちんに殴られて地獄の苦しみを訴えるお腹や、リオちんに撃ち抜かれて血をダバダバ流す右手に顔をしかめながら、立ち上がった。

 リオちんは、身の回りを橙色の光の粒子に取り囲まれていた。

 やがて、その光は、リオちんを連れ去るかのようにふわふわと浮き始める。

 どうやら、この粒子、リオちんの割ったメダルの破片から出ているようだ。決勝進出を決めた人は、こうしてメダルから出てきた粒子によって、ふわふわ浮かんでどこかに行くんだろう。

 うちは、浮かぶリオちんを仰ぎながら話しかけた。

 負け惜しみなんかじゃない……心の底からの、自分に勝った友達への……心からの賛美だ。


「あの体勢で……あの無理な体勢で……左足も奪ったのに……よく、うちの手ぇ撃って、メダルも撃てたよね……凄いよリオちん」

「……練習、しましたから。どんな体勢でも狙い通りの場所を撃ち抜けるように……」

「……そっか。リオちん、頑張り屋さんだもんね」


 あー……くそー……悔しいなぁー……。

 うちは敗北を、喉の奥から込み上げる血の味と一緒に噛み締めながら、リオちんに最後にお願いをした。


「待ってリオちん……。もう魔力なくて戦えないし、……何よりも、今すぐげろげろ吐きたいくらい、リオちんに殴られたお腹がやばいから……最後に責任取って、撃ち殺してくれない?」


 そう。もう既にうちは、色々と限界だったのだ。魔力は尽きたから戦えないし、何よりもリオちんに殴られたお腹がもう凄まじいことになっている。多分何本か骨は折れてるし、破片は内臓に刺さってると思う。

 とにかく今すぐ、血の混じった胃液げぼをげろげろ吐きたい気分なのだ。

 リオちんは、それを聞いて凄まじく申し訳なさそうな顔をして、そして苦笑した。


「わかりました。けないでくださいね」


 リオちんの指先が、うちを照準に定めた。

 ……模擬戦とはいえ、死ぬの初めてなんだよね。ちょっと怖くなってきた。


「……やっぱ待ってリオちん、カウントダウンしよ、三、二――」


 そんなうちの懇願は聞き入れて貰えず。うちの頭は、カウントダウン残り二秒の所で、リオちんによって撃ち抜かれたのでした……。

 遠のく意識の中……頭を撃ち抜かれたので、それは刹那だったけど。その刹那の中で、今回の戦いについて、色々なことを考えた。

 ……あーぁ。次があるなら、次は絶対返り討ちにしてやっからな……リオちん……!



 △▼△▼△▼



 僕は橙色の光の粒子に取り込まれ、ふわふわと宙を浮きながら、今回の模擬戦のステージである天空列島全体を見渡していた。

 この橙色の光の粒子、治癒魔法のような効能もあるみたいで……今回の戦いで傷ついた身体が、治っていくのを感じる。左足も、完全に動かせるようになっていた。

 ……各地で、結構壮絶な戦いが行われているのが、遠目からでも見てわかる。

 一部、特大の雷が落ちたみたいに、地形が変わってる所あるし。まさか、ランファくんじゃないよね……?

 僕がそう考えてゾッとしていると、突然どこからともなくコールが響いた。


『リオ・エリオード、決勝進出決定! リオ・エリオード、決勝進出決定!』


 うわぁ……こんな大々的に発表されるんだ……。

 僕が目立ってしまったことによる羞恥心を感じていると、突然横から声をかけられた。


「お疲れ~!」


 ――って、僕、天空に浮いてるのに……!?

 肩を跳ねさせながら横を見ると、そこには、学園長とメグミさんがいた。ふわふわと浮く雲の上に腰を下ろして、桃の実を切り分けたものをつまんでいた。

 この雲も学園長の魔法によるものだろう。普通なら雲に乗れる訳ないしね。


「……なんだ。メグミさん達か。ビックリした」


 僕がそう肩を撫で下ろすと、メグミさんは唇を尖らせてブーブーと文句を言う。


「なんだよー! リオくん、夢の中でも魔力の自己回復できないってエンチョーセンセから聞いたから、来てやったんだぞぉ!」

「あ、そうなんですか。それは助かります……ありがとうございま――ア゛ッ゛」


 僕がお礼を言いかけた、その時。全身をビキリと激痛が走った。そして、指先一つ動かせなくなり……。

 そんな僕の様子を見ていた学園長が、桃の実をフォークに刺し、口の中に運びながら言った。


「おや。特殊魔導の反動が来たかな?」


 ……そう。僕の特殊魔導アイアン・ガンマンは、使用後、全身が鋼鉄のように凝り固まってしまうのである。

 ネミコさんとの戦いで、アドレナリンが出ていたのか……遅れて反動が来た。

 僕は涙目でメグミさんの方を、首も動かせないので、眼球だけを動かして、視線で訴えた。


「そんな雨に濡れた子犬みたいな目ェしなくても、ちゃんとほぐしたげるから安心しなさい」


 メグミさんは僕の方を見て笑った。

 やがて、僕も橙色の光の粒子に連れられて、メグミさん達の乗る雲の上に到着した。


「そんじゃ、早速やるから横になってー……ってもうなってるか」


 メグミさんは指を伸ばしてパキパキと音を鳴らしながら、僕の方に近づき、背中を摩り、そして、うへーと苦笑した。


「相変わらず硬いねぇ。腕が鳴るってもんだ」

「度々すみません……」


 僕がメグミさんに誤っていると、目の前にシャボン玉のようなものがふよふよと漂ってきた。そのシャボン玉の中には、何か映像が映し出されており……って、これ、天空列島で今行われている戦いの様子?

 学園長が、横になる僕の横に座り込み、切り分けた桃を口に運びながら聞いてきた。


「観たいだろう? 他に誰が勝ち上がるか」

「……ありがとうございます」


 僕がお礼を言うと、学園長はニッコリと笑った。

 早速僕はシャボン玉を覗き見る。

 と、学園長が桃の実を僕に差し出しながら、話しかけてきた。


「食べるかい。夢の中の産物だから、現実には何の影響も与えないけど」


 僕は、唾を飲み込みながら答えた。


「夢の中とはいえ、普通に戦って喉乾いてるので……いただきます」


 そこで僕は気づいた。全身ガッチガチに凝り固まってるから、指一本動かせない……つまり。自分で桃を食べることすら出来ない。

 と、学園長はそれに気づいたのか、フォークで桃の実を刺して、僕の口元に運んだ。


「全身ガチガチで動かせないだろう。特別にこの、世界最強の魔法使いが、あーん、してあげるよ」

「えっ、そんな恐れ多い――むぐっ」


 突然のその提案に、僕はつい、断ろうとして……その文句を口にした際に、無理やり桃の実を口内に押し込まれてしまった。甘い果肉が下の上に乗り、噛むとじゅわっとジューシーな果汁が口いっぱいに広がった。


「どうだい」

「……おいしい、です」

「ならよかった」


 学園長はニコニコ笑いながら、手の平を僕に見せた。

 そこには、小さな虹色の光が、一枚のメダルのサイズになって浮かんでいた。

 それに僕が意図を汲み取れず、怪訝な表情をしていると、学園長は虹色のメダルを指さして、説明を始めた。


「リオくんは橙色のメダルを砕いたから……トーナメントは一回戦目からだね。メダルの色、虹の色に対応させてるんだ」


 ……ああ。そういうことか。

 つまり……


「……ってことは、僕の次の相手は、赤色のメダルを砕いた人ってことですか」


 僕は自分の中で浮かんだ説が合っているか確認するべく、学園長に聞いた。

 予想通り、学園長は頷いた。


「そういうこと。流石、飲み込みが早い」

「……でも、虹って全部で七色じゃ?」


 僕がその疑問を口にすると、学園長はあっけらかんとして笑った。


「あっはっは。そうなんだよねぇ。まぁだから、八枚目は適当に白色にした」

「適当ですね……」


 すると、僕の目の前に浮いていたシャボン玉の中の映像が映り変わった。

 そこには、台座の上に置かれた赤色のメダルが……。


「気になるだろう? 次のキミの相手が誰なのか」

「……はい」


 僕は頷いて、シャボン玉をまじまじと覗き見た。

 そこに、映し出されていたのは――



 △▼△▼△▼



 ここは、天空列島の、島と島を繋ぐ大きな橋の上。

 白い石で作られた大橋の上、その中央には、赤色のメダルが置かれた台座がある。

 そして、そのメダルを取り囲むようにして、五人の学生が対峙していた。

 彼らは偶然、同じタイミングで、この赤色のメダルを発見したのだ。

 そして、その内の一人が――ミィシャだった。

 ミィシャは、はわわわわと狼狽えながらも、眼前の赤色のメダルを見据えて、今にも泣き出しそうな瞳の奥で闘志の炎を燃やしていた。


(リオくんが、決勝進出って、聞いたから……! だから……私だって、頑張るんです!)


 ミィシャは太陽の方向を確認していた。

 ここは、天空列島……その舞台が故に、雲は少なく、常に陽が照っている。そのせいで、ミィシャのイメージシンボルである影は、必然的に少なくなる。


(別に影が無くても、どうにかなるにはなりますけど……その場合は魔力で一から影作らなきゃならないから、魔力消費が多くなっちゃう)


 つまり、この天空列島の大橋の上という舞台は、ミィシャにとって、不利な環境下だ。少なくとも、全力で本調子を発揮できる環境ではない。

 睨み合いだけの膠着状態が続く中、沈黙を切り裂いた男がいた。

 常に優しい笑みを顔に貼り付けたその優男は、青色の髪を揺らしながら、両手に持った斧を振りかざし、横にいた男子学生に斬りかかったのだ。


「どぅわぁっ!?」


 その男子学生は、咄嗟に後ろに跳んで回避するが、無理な体勢で跳んだためにそのままバランスを崩して倒れてしまう。

 そこを更に、優男は斧で追撃した。そこから先は、記すまでもない。

 パックリと、その男子学生の頭を片手斧で割ったその男は、頬についた返り血を手の甲で拭いながら、他の学生達を見渡して、笑みを崩さずに言った。


「黙って見合ってるだけじゃ、何も進みやしないよ。戦うか逃げるか、ちゃっちゃと決めちゃおう?」


 その男の名は、ゴルド・ウルトラマリン。

 合宿二日目の際に、シフレやハルカと共に課題に挑んだ、実は内心、女子が大の苦手な男であった。

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