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57話 リオVSネミコ

 僕の心は、今、闘志で熱く燃え上がっている。

 魔力の温存とか、そんなことばかり考えていたけど……違う。そうじゃない。

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 ネミコさんを倒せなかったのなら、その時はその時に考えればいい。

 今はただ、とにかく――目の前の強敵ネミコさんを倒すことだけ考えればいいッ!


「【雷魔法――サンダー・バレット】!」


 僕はネミコさんに指を向け、その先から雷光弾を撃った。

 ネミコさんはそれを腕に装備した鎧蟻よろいありで受け……ようとして、何かに気づいたような表情を浮かべ、ギリギリの所でそれを避ける。

 しかし、無理な体勢で避けてしまったため、そこに隙が生じた。

 その隙を突いて、僕はネミコさんに接近し、鋼鉄銃人アイアン・ガンマンによって強化・硬化された右足で彼女に蹴りを放つ。体勢の崩れているネミコさんはそれを真っ向から受け止めるしかなく、鎧蟻よろいありを装備した両腕で僕の蹴りから身を守った――しかし、今、僕の右足は鋼鉄化している。鋼鉄化した足から放たれる蹴りは、文字通り鉄柱が飛んできたようなものである。それを、鎧があるとはいえ、不充分な体勢のまま、真っ向から受け止めれば……。


「ッ、ぐあッ!?」


 当然、ただじゃすまない。ネミコさんは大きく後方へ吹き飛んだ。そのまま彼女は地面を転がり、石柱に背をぶつけて、ようやく止まった。

 へたり込むようにお尻から崩れ落ちたネミコさんは、軽く咳き込み、顔を苦痛の形に歪めた。


「くぅっ……いったぁ……まだ腕ジンジンしてるや」


 そして、苦笑しながら立ち上がり、そう言った。

 僕は冷静にネミコさんの今の状態を観察する。

 確かにダメージは与えた。しかし、鎧蟻よろいありに加えて、自身の腕を魔導で強化していたのだろう。骨折などの重傷は与えられなかったようだ。

 でも、あの一撃の衝撃は確実に彼女の身体に響いているはず。

 ネミコさんは、唇を尖らせて、僕にブーブーと文句を言った。


「まさかリオちんが雷魔法まで使えるとは思わなかったよ! 雷魔法じゃ、鎧蟻よろいありで受け止めてもそのまま感電しちゃうから、変な避け方するしかなかった!」


 そう。僕が彼女への攻撃手段に雷魔法を選択した理由は、今ネミコさんが説明した通りだ。

 雷魔法であれば、鎧蟻よろいありで受け止めようと、ネミコさんの身体に感電によるダメージを与えられる。

 ネミコさんがそれに気づいたとしても、咄嗟の判断では避ける以外の選択肢は思いつかないだろう。彼女の僕の攻撃に対する防御手段を狭めることができるのだ。

 僕は彼女の愚痴に返答した。


「まぁ、僕、勉強だけはできますからね。結構色んな魔法陣を暗記してます」

「全く……ホント、反則だよねぇっ、その頭脳アタマ!」


 そう言うと同時にネミコさんは手を叩き、そして僕の周囲を取り囲むように、魔法陣が三つ宙に描かれた。サイズとしては直径がペン一本分くらいの、小さなものだ。


「【攻撃魔法――悪食蟻あくじきあり】」


 ネミコさんが魔法を発動させた。

 魔法陣が稼働し、中央部からわさわさと白い粒みたいなものが湧き出てくる。

 まさか、これって――

 僕が何かを察すると同時に、ネミコさんの口から答え合わせが始まった。


「もちろん、蟻だよ。一匹一匹がとても小さな蟻。シロアリからヒントを得た……なぁんでも食べちゃう、うちのとっておき」


 ――その小さな蟻の大群は、僕に向かって飛んできた。

 まるで自由にうねり襲い来る白い蛇のようなそれに対し、僕は咄嗟に全身を鋼鉄銃人アイアン・ガンマンで鋼鉄化させて身を守る……が。

 その小さな蟻は、僕の腕に纏わりついて、細かな一匹一匹が牙をガジガジと突き立ててきた。


「――クウッ!?」


 僕は右腕に走る鋭い痛みに戦慄した。

 嘘だろ……鋼鉄化してるんだぞ!?

 蟻の牙は、鋼鉄化したはずの僕の腕に穴を空け、肉を抉ってくる。僕はたまらず右腕に付いた蟻を左手で払おうとするが、こんな小さな蟻だと、払おうとしても、逆に払った手に付いて、被害範囲を広げてしまうだけだった。

 くっ……このままじゃ、両腕がボロボロになって使い物にならなくなるし……何より、生きたまま肉をジクジク食い千切られていくの、めちゃくちゃ痛いし精神的にも凄い負担だ!


「隙アリだよ、リオちん」


 そして、いつの間にか近づいて来ていたネミコさんが、手の平から僕に一匹の蟻を差し出して――


「【毒魔法――毒蟻】」


 ――溶解液を噴霧した。


「くっ……グああアああアアアっ!?」


 反射的に目をつむったことで、溶解液が目に入って失明する……なんて最悪は回避できた、けど。顔や身体に付着した溶解液は、着実に鋼鉄化した僕の身体を溶かし、激痛を走らせた。

 その隙を突いて、ネミコさんは僕の腹部を、両腕の鎧蟻で殴りつけてきた。

 僕はその打撃に押されるようになってしまい、尻餅をついた。


「……エグい魔法ばっかり使いますね」

「褒め言葉として受け取るね。ありがと、リオちん」


 倒れてしまった僕は、顔に付着した溶解液を拭いながら、痛みを紛らわせようと軽口を言った。

 だけど、今僕の感じている苦しみや痛みは、言葉の節々から滲み出てしまっている。

 僕の言葉を褒め言葉として受け取ったネミコさんは、微笑みながら、先程召喚して待機させていた巨人蟻をこちらに歩ませた。


「この子は大きいから、たとえ鋼鉄化していたとしても……リオちんの身体を一撃で噛み千切れる。だから、これ以上苦しみたくないんなら、抵抗せずに楽にしてね」

「……はは。冗談を……!」


 僕は歯を食い縛り、魔導を足に集中させ、巨人蟻に向かって跳んだ。

 そして、蟻の眉間を狙って、両手を合わせて、両の親指と人差し指と中指だけを真っ直ぐ突き出した。


「【鋼鉄魔法――アイアン・ライフル】!」


 僕の撃った鈍色の魔力のライフル弾は、的確に巨人蟻の眉間を穿ち、頭部を貫通した。頭部を穿たれた巨人蟻は、その場に伏せるように倒れた。

 さっき僕は、巨人蟻に僕が太刀打ちできる魔法は無い、って言ったけど……威力じゃなくて、貫通力なら。そう思って、一か八か、針のように尖らせた鋼鉄の弾丸を、高速回転するライフルのイメージで撃ち出してみたけど……上手くいったようでよかった。


「……流石だね、リオちんッ!」


 一撃で僕に巨人蟻を倒されたネミコさんは、驚愕に目を見開き、そして、悔しそうに笑って、跳躍から着地した僕に向かってくる。

 彼女は手の平に描いた魔法陣から、蟻を三匹召喚した。


「【攻撃魔法――弾蟻たまあり】」


 彼女の召喚した蟻は、臀部から弾丸を放ち、僕を攻め立てる――更に。


「【鋼鉄魔法――武装蟻ぶそうあり】!」


 一体の蟻が召喚された。それは、人間のように二足歩行で歩く、ちょうど僕と同じくらいの身長の蟻。二足歩行によって使わなくなった四本の脚には、それぞれ刀が装備されていて――


「ッ、四刀流の蟻ぃ!?」

「どうよリオちん、すごいでしょ! びっくりしたでしょ!」


 ネミコさんは笑顔でそう言った。

 しかし、その顔はかなり疲労で引き攣っている。

 なるほど。どうやら、あの武装蟻という魔法……巨人蟻と同じで、かなり魔力を使う魔法らしい。恐らくあの蟻は、ちょっとした知能を持ち合わせているのだろう。その知能を構築するのに、かなり魔力を使っている。


「自律行動する戦闘人形を召還する魔法……って所か」


 僕はそう独り言のように武装蟻について分析し、真っ先にその蟻を倒そうとした。

 しかし、その僕の行動を阻む存在があった――先程ネミコさんが召喚していた、弾蟻だ。弾蟻は的確な場所に弾丸を放ち、僕を邪魔している。

 攻めようと踏み込んだ先の地面に弾丸が撃ち込まれたり……僕の攻撃の邪魔が的確に行われている。


「……でも、的確すぎるな。多分、弾蟻には知能は無い……ネミコさんの操作で動く」


 その的確さから、僕はそう推理した。

 的確な場所に撃てるだけの知能を魔力で構築するのは、かなりの魔力を使う。ネミコさんは既に、武装蟻にかなりの魔力のリソースを割いている。今の彼女に、更に三匹分の知能を構築する実力は無いはずだ。

 だから、弾蟻は潰してもそこまで意味が無い。ネミコさんの操作で動く訳だから、魔力を充填されたら弾を撃つ、くらいのプログラムしか為されていないだろう。リモートコントロールできる固定砲台のようなものだ。

 だが、武装蟻の処理にそんなに時間はかけていられない。僕には懸念点が二つある。


「……鋼鉄銃人アイアン・ガンマンがいつまで保つか……。それと、さっきかけられた溶解液と悪食蟻が、まだ……僕の身体を蝕んでる」


 鋼鉄銃人アイアン・ガンマンの反動――全身の凝りがいつ起こるか。

 溶解液と悪食蟻は、未だ僕の身体を溶かし、食い破ろうとしている。

 この二つの懸念点が、僕を心底焦らせる。

 つまり、今僕が僕に求められているのは、短期決戦。速攻で武装蟻を倒し、ネミコさんをも倒す。

 いやはや、コレは……!


「……キッツいですね! ネミコさん! 泣きそうです!」

「その割には、楽しそーじゃんリオちん!」

「そりゃそうですよ! ずっと魔法を使えなかった僕が、こんな真っ向から魔法で戦えてるなんて……嬉しくない訳がない! ありがとうございます、ネミコさん!」

「どういたしまして! うちもさ、なんか楽しくなってきたよ! もうさ、うち、全力で行くから――全力で来てよ、リオちんッ!」


 ネミコさんもまた、心の底から楽しそうに、そう言って獰猛に笑った。

 全身に流れる魔力が、疲労が、痛みが、脳内物質が、火照りが――今、僕とネミコさんの体内を巡る全ての刺激が、この戦いに酔い痴れさせる。

 ああ……もう、いいや。ここで全部出し切ってしまおう。

 たとえそれで、負けたとしても。ネミコさんとこれだけ張り合えたんだ……悔いはあっても、残らない!

 ドクドクと高鳴る、尋常ではない鼓動の中……僕は確かに充足感を感じていた。

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