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56話 キミに勝ちたい、ただそれだけ

「リオちん、つーかまーえたっ♪」


 そう言ってネミコさんは、舌を出して笑った。その顔は、子供がイタズラをした時のような、あどけない笑顔だった。

 僕は、ネミコさんの土魔法・蟻渦によって沈んでいく足を引き抜こうとするが、これが中々抜けない。むしろ、藻掻けば藻掻くほど沈んでいくようだ。

 これは、正攻法では無理だ。

 そう判断した僕は、足を抜くことをとりあえずは諦め、ネミコさんに魔力の弾丸を数発、牽制代わりに放った。

 ネミコさんは弾丸をくるりと踊るように回転して避け、挑発するかのように笑みをこぼす。


「おっと! 全くリオちん、油断も隙もない」

「ネミコさんもね」


 僕はそう言って苦笑を返した。

 今、僕が一番嫌なことは、このままネミコさんに身動きのできないまま、殺されること。

 そして、もう一つの嫌なことが――


「……ねぇ、リオちん」


 ……ネミコさんは、台座に飾られた橙色のメダルを指さして、不自然な無表情を顔に表して、言った。


「……これ、うち……壊していーい?」

「……あー……やっぱ、そうなりますよね」


 もう一つの嫌なことが――このまま、ネミコさんにメダルを破壊されてしまうことだ。

 このままメダルを破壊されれば、ネミコさんは決勝に進出。僕はこのまま模擬戦を続けることができるが……ネミコさんが魔法を解除してくれなければ、身動きの取れないまま。

 仮に、ネミコさんが勝ち際に魔法を解除してくれたとしても……そんなの、惨めで仕方がない……!


「……このまま破壊して終わり、なんて……つまんなくないですか?」

「……うちは勝ちたい。けど、リオちんのこと、いくら模擬戦、夢の中とはいえ、殺したくはない……。なら、うちにとっては、これが最善策なんだよねぇ」


 ダメだ。僕のすがるような軽口も、意味無く流されてしまう。

 ネミコさんは台座の方へ歩きながら、続けた。


「うちの土魔法の蟻渦はね。抗えば抗うほど、沈んでく。でもね、抗わなかったとしても……結局は沈んでく。結構、うちの自慢の魔法なんだ」

「……知ってますよ。あの時……コウモリの魔人に、使ってたじゃないですか。凄い魔法だなって、あの時から思ってます」

「覚えてくれてたんだ。嬉しいな」


 そのやり取りの間にも、ネミコさんは歩みを止めずにメダルへと進んでいく。

 足を止めずに台座の方へ歩くネミコさんに、僕は指先を向け、彼女の足を撃った。


「うわっと!?」


 ネミコさんはそれを何とかかわすが、その時に一瞬だけよろめいた。

 ……この、ほんの一瞬を――好機にできるかは僕次第ッ!


「【風魔法――ハリケーン・バズーカ】!」


 僕は風の大砲を前方へ――台座へと向けて、撃ち放った。

 僕と台座の直線距離上にいたネミコさんは、暴風の荒れ狂う大砲に、腕に備えた鎧蟻だけでは防御は不可能だと考え、横っ飛びに逃げ――ようとして、踏みとどまった。

 何故なら――風の大砲の進む先には、台座がある。その上には当然、メダルがある。

 この戦いの勝利条件は、倒す倒された、殺す殺された、ではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 極論、相手に対して手も足も出ず、五体不満足にされたとしても、メダルさえ破壊出来れば……相手に一切の傷を負わせられなくても、勝ちになる。


「ッ、あーもう! リオちん、悪知恵ばっか働くんだからッ!」


 ネミコさんは舌打ちをすると、特大の魔法陣を描き、特大の蟻を生み出した。


「【攻撃魔法――巨人蟻きょじんあり】!」


 生み出された蟻は、まるでキングサイズのベッドのように大きかった。

 その蟻が、僕の風の大砲の進む先に立ちはだかる。

 そして、その黒い額で風の大砲を真っ向から受け止めた。


「昆虫の外骨格は、とてつもなく硬いんだよ! ……って、リオちんなら知ってるか!」


 ネミコさんのその解説を証明するかのように、風の大砲と拮抗する巨人蟻。その六本の脚で神殿の石造りの床を破砕しながらも、踏ん張り、そして耐え切った。

 風の大砲は霧散し、その場には巨大な蟻が一匹、勝者のごとく陽光に照らされていた。

 これで確かに、僕のメダルを破壊する企みは防がれた……が。


「どうしましたネミコさん……()()()()()()()()

「……うるさいよ、いじわる」


 ネミコさんはかなり疲弊した様子で、巨人蟻の横に立っていた。


「やっぱり、それだけ大きくて頑丈な蟻を生み出す魔法……魔力消費も尋常じゃなさそうですね」


 僕のその言葉に、ネミコさんは一瞬だけ言葉に詰まり、そして……冷静さを取り戻して、言い返してきた。


「そ? 魔力の消費を一番怖がってるのは……()()()()()()()?」

「……まぁそうですけど」


 僕は素直にそれを認めた。

 まぁ、だって、事実だし。今更それを取り繕う意味は無い。

 僕は彼女の言う通り、魔力の消費が怖い。

 何故なら……この場には、メグミさんがいない。

 僕は、メグミさんがいなけれぱ魔力の回復ができない体質なのだ。普通だったら、休憩すれば多少は自然回復するんだけど……。


「そう。リオちんは、魔力を自己回復できない……だから、他の人よりも魔力を無駄遣いできない。仮に、うちにメダルを砕かれたら、次の戦いに使える魔力は残っていないかもしれない。だからリオちんは……今、このメダルを砕いて、とっとと勝負を決めたい。どぉ、合ってる?」


 ネミコさんのその言葉に、僕は苦笑しながら頷いた。


「……全部合ってます」

「素直に認めるね」

「僕は素直ないい子ですよ?」

「うそつけ!」


 僕の吐いたその言葉に、笑いながら突っ込むネミコさん。

 そのまま彼女は、巨人蟻の陰に隠れた。

 ……多分、台座に……メダルに向かってるんだ。

 僕が魔法で弾丸を撃っても、巨人蟻に阻まれて、ネミコさんには当たらない。僕のバズーカをも耐えるくらいには強靭な蟻だ。僕の魔法で、他にこの巨人蟻をこの距離で一撃で仕留められるだけの魔法は、今はまだ無い。

 図らずとも、ネミコさんは僕が茶々を入れられない状況を作り出してしまったのだ……巨人蟻の召喚という手によって。

 どうする……足を切断するか?

 ……バズーカやライフルの魔法で、渦に飲み込まれている右足を吹き飛ばせば、脱出にそこまで時間はかからないだろう。でも、足を一本失った状態で、ネミコさんと戦えるだろうか?

 ……彼女もまた、強かで優秀な魔法使いだし、四肢の一部が欠損した状態では勝てないと思う。

 ならどうする、どうすればいい……?


「……っ」


 その時、僕の脳裏に一つ、賭けに近いが、足をダメにせずとも現状から復帰できる策が浮かんだ。

 脱出は多分、確実にできる。賭けに近い部分は……足が無事かどうか。

 もう駄目だ。考えている時間は無い。ネミコさんはこうしている間にも、メダルを破壊しようと歩みを止めずに進んでいる。


「――ッ、一か、八かだっ!」


 僕は意を決して、蟻渦に――自分の足元に攻撃魔法アタック・バズーカを撃ち放った。



 △▼△▼△▼



 ……あっれれ〜。おっかしいなぁ。

 うち……リオちんを蟻渦に引っ掛けたよね?

 なら、どうして……目の前にリオちんがいるのかなぁ?

 蟻渦にリオちんをハメたうちは、そのままリオちんを放っておいて、メダルを砕くために、メダルの飾られた台座へと向かっていた。そしたら、うちの進む道中に、突然蟻渦に呑まれているはずのリオちんが降ってきたのだ。

 まぁ、答えは一つか……()()()()()()()()()。ただそれだけ。

 なら、リオちんに聞くべきは『どうして?』じゃない。『どうやって?』だ。


「……どうやって、抜け出したのかな。しかも、()()()()()()()()()()()()()。あの魔法、うちの自信作で……結構今ショック受けちゃってるんだけど」


 うちは、「イタタ……」と降ってきた後の着地に失敗し、身体を地面に強打したリオちんに、そう質問した。

 自分でも驚く程、素直にその質問は零れ出た。

 ……もしかしたら、内心、リオちんは蟻渦から脱出するんだろうなって、無意識の内に予感していたのかもしれない。

 リオちんは立ち上がりながら、うちの質問に頷いた。


「はい。砂粒よりも小さな蟻を大量に生み出し、地中を渦状に移動させることで、地面を砕き流砂のようにする……素晴らしい魔法だと思います」

「褒めてくれてありがと。嬉しいよ。……そのまま引っかかったままでいてくれた方が嬉しかったけど」


 そう口を尖らせながら言ったうちの言葉に、リオちんもまた、ハハハと苦笑して、自分の右足を指し示した。


「右足だけに特殊魔導・鋼鉄銃人アイアン・ガンマンを使って、鉄のように頑丈にしました。それから、蟻渦をバズーカの魔法で吹き飛ばしました」

「……なるほど。足を頑丈にしちゃえば、高威力の魔法で蟻渦を吹き飛ばしちゃえば抜け出せるもんね」

「まぁ、足元に撃った反動で僕の身体は宙を舞うことになりましたが」

「それで、巨人蟻も飛び越して、うちの目の前に降ってきたんだ」


 うちは納得すると、大きく溜息を吐いた。

 そして、うちを真っ直ぐ見据えるリオちんの目線が痛くて、伏し目がちにして呟いた。


「シフレちんの親友の手前……リオちん殺すの、抵抗あるなぁ~……」


 うちがそう苦笑交じりに呟くと、リオちんはにっこり笑って、うちにピストルの形にした指を突き付けた。


「大丈夫です。僕がネミコさんを殺しますから」

「……少しは情とか無いのかな?」

「勝ちたい欲求の方が強いです」


 そのリオちんの答えに、うちの心の何かがストンと落ち去って、すうっと胸が軽くなる気持ちがした。

 そうだよね。迷ってる場合じゃないよね。うん……よし。

 うちはリオちんの目を真っ直ぐ見返して、声を大きく張り上げた。


「……そうだね。うちも、キミに勝ちたい。そうだよね……そうだよ! 迷う必要なんてなかったんだこれっぽっちもッ! うちだって勝ちたいんだから! 泣きも情も手加減も文句も何もかも、一切合切かなぐり捨てて……この勝負! キミを殺して、うちが勝つ!」


 まだ、模擬戦とはいえ、友達を殺すのに抵抗感が無くなった訳じゃないけど。

 でも、もう……うちは大丈夫。それ以上に、勝ちたいって思えてる。

 リオちん。もし殺しちゃったら、後で謝るね。

 だから……今だけは。死ぬ気は無いけど殺す気で、キミに全霊をぶつけるね。

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