表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/75

54話 広がる戦火は絶えることを知らず

「ッ、るぁぁッ!」

「鬱陶しィんだよ虫の息ィ!」

「……!」


 三人の洞窟での死闘は続く。

 一番ダメージを負いながら、体力魔力共に消耗しながらも、持ち前の気合いで食らいつくファイア。

 そんなファイアを煩わしく思いつつ、先程ハゴコロを感電させていた雷の双刀『咬鳴かみなり黄刃きば』を回収し、それを振るうランファ。

 身軽に器用に攻撃をいなしながら、好機を待ち続けるハゴコロ。

 炎の拳が、雷の刃が、風の鎧が、交差し、衝突し、混じり合う。

 洞窟の中はまるで、荒れ狂う嵐の中心にあるかのようだった。


「【雷魔法――剣舞――麒麟万雷落きりんばんらいおとし】!」


 ランファが頭上で双刀を交差させると、そこから大きな雷が天へと昇る。その雷は洞窟の天井を砕き、天空列島の外へ打ち上がった。そして、天に昇った雷は空中で分裂――幾千幾万もの小さな雷となって、辺り一面に豪雨のように降り注いだ。


「ぐあっ!?」

「ギャッ!?」

「ドわぁ!?」


 洞窟の真上――天空列島の丘の上で戦っていた他の学生達にも、その雷は当たった。小さな雷であるため、一撃一撃は致命傷たりえないが、それが幾本も降ってくるのだ。たまったものではない。

 更に、それだけではない。幾千幾万もの雷は、天空列島そのものを砕き――その地下にある洞窟を揺らし、天井部から瓦礫が降り始めた。

 そう、ランファの狙いは――


「テメェら全員生き埋めだァ!」


 ――天空列島ごと砕くことで、その瓦礫で洞窟を埋め立てること。ランファ自身は雷魔法による超スピードで、生き埋めになる前に洞窟から退避すれば良い。そう考えた末の作戦だった。

 だが、ハゴコロはそれを即座に見抜いていた。そして――


「ふん。この雷……ランファ・ミドゥーファ。貴様がその二本の刀を頭上で交差させている間しか、落とすことは出来ない……違うか?」


 ――ランファの麒麟万雷落きりんばんらいおとしの弱点をも、見抜いてしまった。

 ハゴコロは魔力で手裏剣を形作り、柔く光るそれを放り投げた。


「ならば、貴様を叩けばいいだけの話だなッ!」

「しゃらくせェんだよ陰キャ忍者ァ!」


 図星を突かれたランファは、怒りを隠せない形相でその手裏剣を避けるも、その拍子に双刀の交差を解いてしまう。結果、空中で雷は魔力の粒となって霧散した。

 そして、その隙にハゴコロはランファの懐へと入り込んだ。クナイ型の魔力塊を両手に、ランファの身体を斬りつける。だが、ランファは雷の双刀でそれを防御した。


「今のを止めるか」

「イキッてんじゃねェよ陰キャ忍者ァ……!」


 金属音が洞窟内に鳴り響く。

 雷の閃きと魔力の輝きが、衝突する度に激しく爆ぜ、散り、舞う。

 それは傍から見る分には、何とも美しい乱舞のようだ。

 この間に挟まることは無粋であると思わせるほど――


「二人で楽しんでんなよ、俺も混ぜろっ!」


 ――そこに無粋ファイアは混ざり込む。

 崩れた洞窟の天井の瓦礫の裏から、炎の煌めきを、二人の閃きと輝きの横から衝突させる。

 その乱舞のごとき戦いから漏れ出す光は、雷の青、魔力の白、炎の赤が混じり合い、まるで花火のようになった。


「――ぶっ飛べ!」


 激闘の乱舞の中、ファイアは一歩踏み出し、ランファとハゴコロに己の両の掌底を向けた。


「【炎魔法――ガルネイトストリーム・ツインヴァージョン】!」


 ファイアの両の掌から放たれた炎の螺旋は、渦を巻きながらランファとハゴコロに向かっていく。

 その炎の渦に対し、ハゴコロは。


「【竜巻降ろし・咆哮ほうこう】!」


 自らが全身に纏う竜巻の鎧の全てを胸の前に収束させ、風の螺旋として放った。

 炎の螺旋と風の螺旋はハゴコロの正面で衝突し、相殺し合う。

 一方、ランファは。


「ッ!」


 ――為す術なく、炎の螺旋が直撃。

 咄嗟の判断で雷の双刀の刀身で受け止めたため、直接的なダメージは無いものの、炎の勢いを殺すことは出来ず、ランファの身体は浮き、後方へと吹き飛んだ。


「ッ、畜生ォがァッ!」


 戦いの最中ですれ違った位置関係。それは、ランファにとって幸か不幸か――洞窟の壁面に衝突する訳でもなく、真っ直ぐに洞窟の出口へと吹き飛んでいく。

 ランファは炎の螺旋を受け止めるために両腕が塞がっている中、足を地面に突き立て踏ん張ろうとした。だが、その抵抗は、炎に吹き飛ばされるがままにかかとで地面を削っていくのみで、焼け石に水であった。


(ッ、足だけじゃ踏ん張る力が足りねェ! けど、両手も両刀も、大馬鹿野郎の魔法を受け止めるのに使っちまってるッ!)


 ――為す術、無しかよ。

 ランファがそう悟った頃には、ランファの身体は洞窟の外に出ていた。それと同時にランファは刀に魔力を込めて雷を爆ぜさせ、その反動で炎の螺旋の前から脱出。そのまま土の上を転がり、大の字になって横になった。


「ハァ、ハァッ……」


 大の字になって土の上に横になったランファに、眩しい太陽の光が降り注ぐ。その降り注ぐ日光の眩しさに、ランファは目を細めるしかなかった。


「ッ……クソがッ!」


 土を殴りつけるも、ただただ土塊や雑草が飛び散るのみ。

 その飛び散った雑草などにも苛立ち、舌打ちをしたランファ。

 彼はそのまま急いで立ち上がり、洞窟の中へ戻ろうとする、が――。


「隙ありィッ!」


 ――ランファの背後から、学生の一人が急襲する。

 咄嗟の前転でその急襲を回避したランファは、再び舌打ちした。


「テメェみてェな雑魚、相手してる場合じゃねェんだよ……!」


 そこにいたのは、ランファとは違うクラスの男子学生だった。銀色の短い髪を陽光に照らし、それが若干眩しい。

 銀髪の男子学生は、銀髪を掻き上げながら、ランファを挑発するように反論した。


「はぁ? 俺を雑魚だと罵るか? ここだけの話、俺はこれでも、リスドラルークの入試の魔法テストで上位二〇番以内に――」


 ドスッ――自慢話をしていた彼の胸に、突如、ランファの雷の双刀が突き刺さった。


「……あふぇっ?」

「……上位二〇番。大したことねェ雑魚が俺の邪魔してんじゃねェぞ……!」


 ランファがそう吐き捨てて双刀を引き抜くと、引き抜かれた傷跡から血潮が噴水のように噴き出て――そして、銀髪の男子学生の身体は霧散した。

 しかし、一難去ってまた一難、とはよく言ったものである。一人殺して脱落させたランファを、更に五人の学生が取り囲んだ。


「おやおや、これはこれはランファ・ミドゥーファさん。同級生の中でも特段の優等生サマじゃあないですかーっ!」

「確かに頭も良くて魔法も上手くてイケメンで……ムカつく要素しかねぇけどよ」

「一人対五人なら、どうなんだろーね?」


 現れたその五人組に、ランファは苛立ちを隠せずに、殺気を放つ。

 そのまま彼は、怒りで震えた声を出した。


「どいつもこいつも……俺の邪魔ばかりしやがる……」


 そんなランファの怒りによる震え声を、恐れを成したと解釈した黒髪の女子が、舌を出して下衆な笑顔を浮かべ、ランファを挑発した。


「ハイー? 何も聞こえませーん? 多勢にビビって小声しか出せなくなっちゃいましたかぁ?」

「キャッハッハッハッ、それウケる! まじウケ――」


 五人組の中の一人、桃色の髪をした女子が、黒髪に賛同してランファを指さしてケラケラと笑った――かと思うと、その次には、桃髪の彼女の首は胴体から離れ、宙を舞って飛んでいた。


「【雷魔法――剣舞――麒麟一角閃きりんいっかくせん】」


 雷光のごとき速度で駆け抜けたランファがそう言うと同時に、生首がゴトリと大地に落ちる。そして、桃色の女子は生首も胴体も残らず霧散した――脱落だ。

 雷速のスピードで五人の内の一人を斬り殺したランファは、何が起きたのか未だに飲み込めない彼らの背後で、苛立ちを隠せない表情で言った。


「これで残り四人。俺を相手に多勢に無勢がしてェなら、この一〇倍は連れてこい」

「ッ……クソがァ! 殺るぞォ、皆ァ!」

「「「応ッ!」」」


 ランファ挑発に乗せられ、彼らは一斉にランファへと魔法陣を描きながら飛び掛かった。

 その光景をぼんやり眺めながら、ランファは憂鬱な溜息を吐いた。

 ランファにとって、これはただの作業だ。強者が弱者を蹂躙することは、戦いとは呼ばない。

 だからランファは憂鬱だった。

 ふと、ランファの脳裏に、己の憎き敵――リオの姿が想起される。


(……エリオード。テメェは今、どこで誰と戦ってる……?)


 リオは、ランファに生まれて初めて“敗北感”を味合わせた男だ。

 だからこそ、ランファは、リオに固執し、虐め……リオが自分自身の才能に気づく前に。周りがリオの才能に気づく前に。リオを排除しようとした。

 その思惑も、メグミの存在によってリオの魔力が目覚め、失敗に終わった今――ランファの心にある思いは一つ。


(リオ・エリオード。テメェは俺が潰す。どんな手を使ってでも、叩き潰してやるッ!)


 ……最初から、真っ向から戦っていれば良かったのだ。仮にランファの思惑通りに、リオが才能を芽吹かせる前に学園を去ったとしても、きっとランファの心から敗北感が消えることは無かっただろう。

 しかしランファは間違えた。リオを排除しようと、空回りで見当違いな努力を続け、失敗した。

 彼自身、自分が間違っていることに心のどこかで気が付いていた。気が付いていながら、気が付いていないフリをして、また、間違った方向へと進もうとしていた――今もなお。

 そして、そんな彼の胸中を常に苛み続けている少年、リオは――



 △▼△▼△▼



「……多分、アレが、学園長の言ってたメダル……だよね」


 ――リオは、寂れた神殿の中の暖かな陽の射す庭園、その中央の台座に、光を反射し眩しく光る橙色のメダルを発見した。


「アレを破壊すれば、僕は決勝進出……って訳だけど」


 問題があった。

 リオは、その台座の近くに、見知った人影を認知していた。

 そしてそれは、向こうも同じであった。


「……()()()()()


 リオが、その人影の名前――ネミコの名前を呼ぶと。ネミコはピクリと肩を跳ねさせ、そして困ったように笑って振り返った。


「……リオちん。レディーファーストって言葉、知ってる?」


 眉をハの字に曲げながら、ネミコはリオにそう質問した。

 リオもまた、困ったように苦笑を返した。


「知ってますけど……。ネミコさんこそ、女は男の三歩下がるって習わし、知ってます?」

「時代錯誤だよ〜そんなの……」

「お互いにね?」


 そう言って、苦笑し合う二人。

 ……お互いに、戦いを避けようとしていた。見知った顔同士で死闘を演じることに、忌避感を抱いたのだ。

 しかしどうやら、互いに譲る気は無いらしい。


「……うち、リオちんと戦いたくないなぁ」

「……僕もですよ」

「なら、うちのことも、メダルのことも……見て見ぬフリして、どっか行ってよ」

「……それができないから、今こうして、ネミコさんとお話してるんでしょ?」


 そして、その言葉を皮切りに、二人は纏う空気を変えた――臨戦態勢へと入ったのだ。


「お互いにこのメダルを譲る気は無い……ってこと、だよねリオちん!」

「はい! ネミコさんを殺してでも! 僕は決勝に進みたいです!」


 ――ここでも、戦いの火蓋は切り落とされていた。

少しでも何か感じるものがありましたら、評価や感想などよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ