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52話 我慢比べ

「【雷魔法――創造――咬形かみなり黄刃きば】」


 ランファは、雷魔法で創造した二双一対の双刀を両手に構え、ハゴコロへと向かっていった。

 それに対して、ハゴコロは。


「【植物魔法――柳の構え】」


 前方に右手を差し出し、柳の葉のように力無くだらりと垂れる。

 それと同時に、洞窟の天井に描かれた黄緑色の魔法陣から、柳の葉が幾本も枝垂れ下がった。


「……わかっているだろうが、この柳の葉に触れることはお勧めしない」


 ハゴコロは切れ長の目を更に鋭くして、柳の葉の向こうで双刀を構えるランファを睨んだ。

 しかし、次の瞬間にはもう、ランファは右足を踏み込み、柳の葉の向こうのハゴコロを斬り殺さんと跳び出していた。

 だが、考え無しの猪突猛進という訳ではない。彼には彼なりの考えがあった。


(悩んでる内に何か仕込まれるかもしれねェ。この柳の葉はその仕込みのための時間稼ぎかもしれねェ。なら……相手が体勢を整える前に、斬ッちまう方が早ェ!)


 そう考えたランファは、魔力を足に込め、雷光のごとき速度でハゴコロへ走り寄った。


「【雷魔法――剣舞――麒麟一角閃きりんいっかくせん】!」


 青白く光る雷となって、ランファは最速で最短距離を真っ直ぐ一直線に駆けた。鬼火石の光よりも眩い光は洞窟全体を照らし上げ、ハゴコロの目をも眩ませた。


「隙アリなんだよッ、陰キャ忍者ァ!」


 ランファは全ての柳の葉を二双の刃で斬り落とし、ハゴコロの首へその刃を閃かす――だが。


「……触れるのはお勧めしない、そう言ったはずだが」


 ハゴコロがそう言って笑ったと同時に、ランファの身体はグイッと後ろへと引っ張られた。

 引っ張られたことによって、ハゴコロの首を斬らんとしていた刃も、その直前でピタリと動きを止めた。

 ランファは見た。彼の身体を引っ張ったものの正体――それは、斬り落とされた柳の葉の影から伸びる、幾本もの干からびた青白い腕。それはまるで魑魅魍魎が地獄へと引きずり込まんとするように、ランファの身体を、髪を、首を、腕を、足を掴み、引っ張っていた。


「ンだよこの、気持ち悪ィ腕は!?」


 引っ張られたランファの身体は、強い力で引っ張られたがために地面を離れて宙を浮き、そのまま地面に縫い付けられるように叩きつけられた。影から生えた腕が、ランファの全身の各所を、骨が軋む音が聞こえてくるような力で掴み、地面に固定してしまったのだ。

 ハゴコロはクナイ型の魔法弾を生成し、それを握り締めて、地に落ちたカナブンのように藻掻くランファへと歩み寄った。


「クソッ……離しやがれキモ腕共ッ!」


 そう喚くランファの身体の、すぐそこまで歩み寄ったハゴコロは、クナイの切っ先をランファに向けて、殺害のための予備姿勢を取った。そして――


「藻掻けども、藻掻けども。亡者の腕は貴様を掴んだまま離すことはない――貴様が死ぬまで、な」


 ――そう言うと、クナイをランファの喉元へ突き刺さんと、己の身体ごと前へ身体を倒した。

 絶体絶命だと思われたランファだったが――


「だったらよォ……こうすりゃ、いいんじゃねーのかァ!?」


 ランファは己の両手に握られた双刀に魔力を流し込んだ。

 いきなり大量の魔力を流し込まれた雷刀は、強い発光と共に、青白い火花を噴出した。その火花は刀身からあらゆる方向へと、ランファの全身にかかるようにして飛んだ――そして、その火花は、ランファの両腕を掴む亡者の腕に着火した。


「予想通りッ!」


 ランファは火花が燃え移った亡者の腕を見て、笑った。

 枯れ木の様に痩せ細ったその腕は、着火したことにより脆くなる。ランファは焼けて脆くなったそれを腕の力で無理やり引き剥がし、両腕の自由を取り戻すと、ハゴコロの全体重を込められたクナイを双刀で受け止めた。

 青白い火花が、二人の間で鮮やかに爆ぜる。


「何ッ……電撃が爆ぜた火花で、俺の魔法を焼いたと言うのか!?」


 ハゴコロの驚愕を隠せないその言葉に、ランファはニッと笑った。

 そして、火花が着火したことにより脆くなった、己の足を掴む腕を足の力だけで引き剥がすと、そのままハゴコロの腹部を自由になった足で蹴り飛ばした。

 ランファはむくりと起き上がると、右の刀を肩の上に乗せて、皮肉気にハゴコロの魔法を看破した。


「あの魔法、植物魔法だもんなァ。あの気持ち悪ィ腕も植物でできてるんじゃねェかと思ったが、正解だった」


 皮肉気に笑いながら己の魔法を看破されたハゴコロは、素直に驚嘆した。


「ほぉ……なるほど。流石はランファ・ミドゥーファだ。世界的にも権威高い貴族、ミドゥーファ家の末の子……四男として生まれ、魔法の成績は学年トップ。学業もリオ・エリオードに続いての二位……だったな? その評判がレッテルだけではないと、認めねばならん」


 そう褒めるハゴコロのその言葉に、ランファは青筋を立てて答えた。


「褒めんなよ……照れ隠しにブッ殺したくなっちまうだろォがッ!」

「……む? 照れ隠しの割には、照れよりも怒りが見えるが」

「黙れッ!」


 ハゴコロにそう指摘され、怒りを隠せないランファ。

 彼のこの怒りの主な原因は、ハゴコロの言葉――学業もリオ・エリオードに続いての二位……だったな?――に起因するものだ。

 要するに、ハゴコロは意図せずランファの逆鱗コンプレックスを指摘してしまったのである。

 ランファは再びハゴコロへと駆け寄った。雷刀を閃かし、ハゴコロの胸の辺りを横一文字に一閃しようとする……が。


「よもや、たった一つの魔法を看破しただけで俺に勝てると思ってはいまいな?」


 ハゴコロはそう言うや否や、ランファの頭上に青色の魔法陣を描き、魔法を行使した。


「【水魔法――滝壺落とし】」

「ッ、ガァッ!?」


 魔法陣から放たれたのは、滝の如き質量の水の塊。それがランファの身体を上から押し潰し、ランファは水流と地面にサンドイッチされるような形になってしまう。

 そこにハゴコロは、更に魔法を重ねた。


「【土魔法――泥枷地獄どろかせじごく】」


 その魔法によって、洞窟の地面が泥の層へと変わった。ランファの身体は、滝のような水に圧し潰され、泥の中に沈んでいく。

 彼は藻掻いて泥から脱出しようとする。

 しかし、藻掻けば藻掻くほど――両の手で泥を掻き出そうとしても、身体は泥の中に沈んでいくだけだった。

 ハゴコロは、泥によって身動きの取れなくなったランファを見下しながら告げた。


「貴様の負けだな。ランファ・ミドゥーファ」


 ランファは、何も言わない。ただ、俯いて黙りこくるのみ。

 ハゴコロは忍刀のような形の魔力塊を手に、ランファにトドメを刺さんと歩み寄る――その時。ハゴコロの心に、ある一つの違和感が浮かんだ。それは、己の編み出した魔力の忍刀から想起されたものだった。


(――ランファ・ミドゥーファ。貴様……()()()()()()()()()()()()()()()()()!?)


 その違和感に気づくと同時、ずっと俯いていたランファが顔を上げた。その目は爛々と光っており、歯を剥き出しにして笑う――まるで、狩る側の動物の形相。今に殺される敗北者の表情ではなかった。

 ハゴコロは洞窟の天井と自らの背後に、それぞれ一本ずつ、ランファの創造した雷の双刀が刺さっているのを視認した。


(ッ……俺が滝壺落としを使った、あの時! 滝の飛沫に紛れさせ、刀を投げていたのだ……この男は!)


 彼がそう気づいたその頃には、もう遅く。


「焦げちまえ! 【雷魔法――剣舞――麒麟雷電道きりんらいでんどう】!」


 泥の中に沈みながらも、ランファは獰猛な笑みを浮かべながら魔法を発動した。

 天井に刺さった刀とハゴコロの背後に刺さった刀が、それぞれ青白い光を放ち――そして、その間を雷が走り、道のように繋がった。その道の通る途中には、ハゴコロがいる。ならば当然、ハゴコロの全身を雷が穿つ形になる。


「ッ、ガアアアアアアアアアアッ!?」


 ハゴコロは全身を痙攣させ、通電による苦悶の悲鳴を上げた。

 そんな彼の姿を見て、ランファは泥沼に沈みながらも笑った。


「やっとその無表情が歪んでくれたなァ……!」


 ランファがそう嘲る最中、電気ショックによって身体を跳ねさせながらも、ハゴコロは冷静に状況を俯瞰していた。


(ぐっ……不味いな……基本的に家庭の都合でどんな拷問にも耐えられる訓練はさせられたが……電気は別……電気は強制的に筋肉を痙攣させる……慣れるまで、身動きが取れん……!)


 焦るハゴコロだったが……一方のランファも、内心の焦りを気取られないよう必死であった。


(チッ……この泥のせいで身動きが取れねェ……麒麟雷電道だけで奴を殺し切れるとも思えねェ、早く脱出しねェと……!)


 ――やがて、両者の考えは同じ所に帰結する。


(俺が泥枷地獄を解いた時、奴は必ず殺しに来る――)

(俺が麒麟雷電道を解いた時、奴は必ず殺しに来る――)


((――我慢比べって訳か、畜生!))


 二人の思惑が重なった時……洞窟の入口には、()()()()()()()()()()()()()


「……要するに、メダルを見つける宝探しゲームだろ? そういう宝ってのは、大抵こういう洞窟の奥にあるって決まってんだよ」


 来たる三人目――ファイア・ヒートフレアが、赤髪を掻き上げながら、二人が死闘繰り広げる洞窟の中へと足を踏み入れていた。

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