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51話 予選――天空列島バトルロイヤル

「皆が待ち望んだ三日目……つまり! トーナメント形式での模擬戦のスタートです!」


 強化合宿、最終日である三日目の朝。

 学園長は拍手をしながら、微笑を浮かべてそう言った。

 僕は心臓が高鳴るのを自覚した。

 ……今の自分の実力で、どこまで勝ち進められるんだろう?

 それは、自分の力に、自分の魔法に自信がついてきた今だからこそ感じられる、心のときめきだった。

 ちなみに、体調は万全だ。ちゃんとメグミさんのマッサージを受け、魔力だって十二分にほぐしてある。

 メグミさんに視線を向けると、メグミさんはウインクを一つ返してきた。多分激励のつもりだろう。

 学園長は着々と説明を始める。僕は聞き漏らしの無いように、注意深く話に耳を傾けた。


「トーナメント表は……ま、テキトーに作っといたから。今、この合宿には五〇……いや、一人無理やり引っ付いてきたから、五一人いるわけで」


 学園長がそう言った時、ファイアくんは何故か誇らし気に鼻の頭を指で擦っていた。

 別に褒められたわけじゃないと思うよ、ファイアくん。

 僕は苦笑を浮かべつつ、意識を学園長の話へと戻した。


「まず、第一回戦と称しまして、五一人で最後の八人になるまで、模擬戦してもらうよ。ただし、模擬戦とは言っても――()()()()()()()()()()()()()


 そう言うと学園長は指を鳴らした。

 すると、学園長の背後から御柱が鳴動と共に迫り上がった。


「【催眠魔法――ヒュプノス】」


 そして、その柱の中から光と共に、男神が現れた。

 その男神は手の平を僕達に向けると、息をホォと吐いた。

 すると、無数の魔法陣が僕達を取り囲んで……そのまま、魔法陣に取り囲まれた僕達は、ゆっくりと眠りへと誘われていった。



 △▼△▼△▼



 目を覚ますと、目の前には青空が広がっていた。所々に雲が浮かび、鳥が飛ぶ……飛んでいる鳥が、何だか近い気がする。鳥だけじゃなくて……雲も、太陽も……。

 起き上がって周りを見渡すと、他の学生達も辺りを見渡してキョロキョロしているのが見えた。

 ……その奥、背景がおかしい。青空がすぐ横にある……他に何も、森も建物も、山さえも見えない……。どこまでも青い空が続くのみ。

 そして、呼吸する度に肺に入る空気がやたらと冷たく、そして薄いことに気づいた。


『お目覚めかな、諸君』


 どこからか学園長の声が聞こえた。天高くから響くように聞こえてくる。

 この感じ……身に覚えがある。そう……あれは、ランファくんと魔法実技の時間に模擬戦をした時……!

 僕が確信を得たと同時に、学園長が説明を始めた。


『僕の魔法で『夢想夢中枕イン・ザ・ドリーム』と同じことをさせてもらった。つまり、そこは僕の見せてる夢の中だよ』

「やっぱり……」


 そう呟くと、言葉と共に吐き出された吐息が白くなって、宙に散っていった。

 ……気温が低い。さっきも思ったが、空気も薄い……。


『そこは、空中に浮かぶ島……『空中列島』とでも言おうかな。一〇個以上の、天空に浮かぶ小島。島によっては神殿とか建物が建ってたりもするね』


 周りを見渡すと、確かに……僕のいる島が一番高い所にあったためにさっきまでは見えなかったが、島の端まで近づいて下を覗き込むと、他にも沢山の小島が浮かんでいた。その中には、白い石で造られた、朽ちかけの建物もある。

 学園長の説明は、僕がそれを確認している間も続いていた。


『その空中列島には、全部で八枚のメダルを隠してある。それを見つけ、そして砕くことができた人は、トーナメント進出だ』


 ……五一人が、いきなり八人に絞られる訳だ。

 辺りを見渡すと、僕と同じ小島に転送されていた合宿参加者も皆、同じように表情を強ばらせ、緊張の面持ちで辺りを見渡していた。


『ちなみに、さっきも言った通り、ここは夢の中。だから、この世界で受けたダメージは現実には一切反映されない。だから、まぁ――遠慮せず、どんな手を使ってでも殺し合い、メダルを奪い合い、トーナメントへ進んでくれたまえ。以上! それでは、よーい、スタート!』


 ……そして、学園長の説明は終わった。

 あまりにもあっさりと告げられた、開始の合図。それに対して僕達は、まずは状況を飲み込めないまま、シン……と静まり返るのみで。

 そして、やがて、状況を飲み込み始めた者から、隣にいた学生に遠慮がちに攻撃魔法を放ち始め――その小突き合いが大きな戦火に成長するのに、そこまで時間はかからなかった。


「っ、うおおおおおおおおおおっ!」


 僕の背後からも、一人、男子学生が襲いかかってきた。

 拳……いや、何かもやがかったものが見える。拳に何か付与エンチャントしてるのかもしれない。

 僕がそれを前に跳んで避けると、着拳した部分の地面が大きく砕けた。

 彼は地面に突き刺さった己の拳を抜きながら、性格の悪そうな笑みを浮かべた。


「っ……ふぅ。お前、この前まで魔法が使えなかった、リオ・エリオードだろ? 俺は魔法使いとして出世した後、地元に戻り、地元を牛耳る将来設計をしていてな。ま、お前のような雑魚は、俺の将来のいしずえとなれ……ってことだ」


 ……なるほど。いきなり殺し合え、と言われて、皆はよく殺し合えるものだと思ったけど……そういうことか。

 どうしても叶えたい夢とか将来とか望みがある人は、すぐに状況に適応する。そうじゃない人は、そういう人達の餌食になる。

 天空から学園長の声が響いた。


『残り四〇人。まだ覚悟を決めきれていない人達は、いいカモだからとっとと覚悟決めちゃいな〜』


 ……学園長が戦闘開始を宣言してから、まだ五分も経っていないのに、もう一一人が脱落した――殺された。

 僕は地元を牛耳りたいらしい彼に向き直り、挑発をし返した。


「……いしずえになるのは、キミの方だよ」

「言ってくれるじゃねぇかよッ! 【攻撃魔法――砕拳クラッシュナックル】!」


 彼は拳を己の眼前に構え、ファイティングポーズをして僕に突っ込んできた。

 僕は両手で三角形を形作り、その三角形を銃口に見立て、魔法を放った。


「【炎魔法――フレイム・バズーカ】」


 馬鹿正直に僕に猛進してきた彼は、僕の放った特大の炎魔法を避けられず、自ら炎の中に飛び込んだ。そして、放った炎が消えると、そこには全身を焼かれて丸焦げになった彼の身体があった。


「牛耳れるといいね。いつか」


 僕は丸焦げになった彼にそう声をかけた。

 それと同時に、彼の身体は前方に投げ出されるように倒れ、そして動かなくなり……この夢の世界から消失した。

 油断しててくれて助かった。多分、僕がどんな魔法を使えるか、とか一切考えず、僕が魔力不全者であるということだけで舐めてかかってきたんだろう。

 そのおかげで、最低限の体力と魔力の消費で済んだ。

 これで残り……三九人。



 △▼△▼△▼



 ウルティオルが今回のトーナメントのルール説明を始める、数分前。

 ツチノヒ・ハゴコロが目を覚ますと、そこはどうやら洞窟のようだった。所々に青白く発光する、通称・鬼火石が光り、暗い洞窟をぼんやりと照らしていた。

 ハゴコロはゆっくりと立ち上がり、辺りを見渡し、そして――


「殺気がダダ漏れだ、ド阿呆」


 ――近くの鬼火石に、魔力で創ったクナイを投げ刺した。

 淡く白色に発光するクナイによって鬼火石は砕け、その後ろに隠れていた者の姿が露わになる。

 隠れていた者を視認したハゴコロは、その人物の名前を口にした。


「……確か、貴様は……ランファ・ミドゥーファ」

「……よォ」


 名前を呼ばれた男――ランファは、不敵に笑い、砕けた鬼火石の破片を踏みながらハゴコロへと近づいた。


「偶然だな。転移先が近くになるとは」


 ハゴコロは警戒心を最大まで高めながら、ランファを真っ直ぐ睨みつけ、言った。


「偶然か……そうだなァ。ところで」


 ランファは強引に話を切り替えた。ランファの横顔を照らす鬼火石の光が、僅かに揺らめいたようにハゴコロは錯覚した。

 僅かにも警戒心を解かない彼に、ランファは真っ直ぐ歩み寄り、なおも言葉を連ねた。


「テメェ、強いらしいな……?」

「……そうだな。貴様よりは強い自信がある」

「そりゃ随分な自信じゃねェか」

「事実を言ったまで」


 ……その場に第三者がいれば、泡を吹いて卒倒していたかもしれない。それほどまでのプレッシャーが、この洞窟の中に――否、二人の間に漂っていた。


「……どうせ、この夢の世界で殺し合え……ってことだろ? あの学園長の考えてることはよォ」

「だろうな。ならばどうする、ランファ・ミドゥーファ?」

「――考えてることは同じッ、だよなァ!」


 同時に、ランファの創造した刀と、ハゴコロのクナイ型の魔力塊が衝突した。交わる二つの刃は、白い魔力の火花を散らす。

 ――ウルティオルが試合の開始を宣言する、二分前。

 ランファとハゴコロは、このような経緯で、一足早く交戦を始めていたのだった。

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