表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/75

45話 仲良く喧嘩しな

 リオ、ランファ、ファイア、ミィシャの四人は、歩いていた崖から木に飛び移り、葉陰の中を進んでいた。浮遊するターゲット、水魔法のウンディーネを倒すためだ。


「慎重に、バレないように。正面から向かって行っても、水で押し流されるだけだ」


 リオのその提案により、四人は葉陰の中を進む手筈になった。

 四人は鬱蒼と茂る葉の海を、最低限の音を立てながら、慎重に掻き分け進む。


「まずはできるだけバレねェように近づく。誰かがバレたら、全員で一斉に奴に攻撃だ。奴が魔法を使う前にな」


 ランファの作戦により、攻撃のタイミングも決まった。

 四人は自分にも他三人にも気を配りつつ、目の前のターゲットへと着々と進んで行く。

 しかし、リオもランファもミィシャも、内心では薄々直感していた。それは……。


(どうせファイアくんがバレるでしょ)

(どうせ馬鹿ファイアがバレんだろ)

(どうせファイアくんがバレますよね……?)


 バレるのはファイアであろう、ということだ。

 この点において、三人の意見は口裏を合わせるまでもなく、同意見であった。

 だから三人は、ファイアの行動を特に注視していた。

 そして、その予想は的中する。ファイアは突然大きな葉擦れの音を立てながら飛び出すと、手の平に浮かべた赤色の魔法陣から渦を巻く灼熱の火炎を放出した。


「この位まで近づけばイケんだろ!? 【炎魔法――ガルネイトストリーム】!」


 その火炎はファイアの手の平から一直線に、ウンディーネへと伸びていく。そして、そのファイアの攻撃を契機に、三人も揃って飛び出し、魔法を行使した。


「【風魔法――ハリケーン・マグナム】!」

「【氷魔法――創造――雪帝隷奴ぜったいれいど】」

「【鋼鉄魔法――影牢かげろう】」


 最初にウンディーネを襲った魔法は、ミィシャの鋼鉄魔法――影牢かげろうだった。ウンディーネの影から黒く細い棒が幾本も射出され、ウンディーネの周りを囲い、黒い檻を形作った。


「私のイメージシンボルは『影』……森の中は木陰が沢山ですから、私なんかでも役に立てる……と思ぅんですけど……」


 自信なさげに萎れていくミィシャだったが、その魔法はかなり有益に働いていた。一瞬、ウンディーネは戸惑いを見せ、一瞬の隙が生まれたのだ。

 そしてそこを、ファイアの火炎の渦が襲う――更に。その火炎の渦の後押しをするように、リオの風のマグナム弾が火炎の渦の中に入り込み、渦の回転力を風と弾丸の回転力によって引き上げた。

 それはまるで、獲物を貫かんと爆進する、炎の槍のようだ。


「こりゃ合体魔法だなァ、リオ! 名付けて【ガルネイトグングニル】ってのはどうだ!?」

「いいんじゃない? どうでも」


 ファイアの無邪気な提案を雑に了承するリオ。

 そんな二人を背景に、ガルネイトグングニルはウンディーネを襲った。


『――ッ』


 ウンディーネはその薄氷のように白い顔を、確かに戦慄させた。

 そして、ミィシャの魔法によって作られた影の檻の隙間から両手を差し出し、手の平に描いた魔法陣から、極太の水流を発射し、ガルネイトグングニルを押し流そうと迎え撃つ。

 灼熱の火炎と膨大な水流が衝突し、水蒸気が発生する――そこに。


「悪ィなテメェらッ――アイツの首は俺の手柄だッ!」


 ランファが、濛濛もうもうと立ち込める水蒸気の中から、氷魔法の刀を振りかざして現れた。


「あっ、あの野郎!」


 ファイアは、自分達の魔法(ガルネイトグングニル)がランファの踏み台にされたことを知り、憤慨する。

 しかしランファは、もう遅い、と言わんばかりに不敵に笑い、刀に魔力を込めた。


「【氷魔法――剣舞――白澤氷牙はくたくひょうが】!」


 魔力が青白く光る刀身に収束し、刀身の周りを漂う水蒸気を、氷魔法の冷気によって凝結させる。そして、空気中の凝結した水分全てが、刀身へと集まり――凍結。鋭く巨大な氷の刃となる。


「死ねッ!」


 氷の刃は、ランファの怒号と共に振り抜かれた。スゥッと澄んだ流氷のような軌跡を描き、ウンディーネの首元を斬り裂いた――しかし。


『クッ、クゥッ』


 ウンディーネの首元に付けたはずの刃傷は、ボコボコと沸騰するかのように泡立ち、消えていった――自己回復能力だ。

 そのままウンディーネは腕の前で水の魔力を爆散させ、己の前のランファを弾き飛ばした。ランファは咄嗟に木の枝を掴み、自分が大きく戦場から離れることを阻止する。

 リオは、興味深げに顎に指を添えて、木陰に隠れながら、ウンディーネの自己回復の様子をまじまじと観察した。


「自己回復するのか……粘り強そうだね」


 そんなリオの言葉に、ランファは咄嗟に掴んだ木の枝に片腕でぶら下がりながら、うんざりしたような顔で唾を吐いた。


「けッ、ダリィ神サマだなァ……しつけェジメジメ女は嫌いだ」

「うっ……なんかそれ、私にも当てはまる気が……なんでもなぃです」


 ランファの不躾な言動に勝手に傷ついたミィシャは、涙目になりながらそう発言したかと思うと、ランファの鋭い眼光に臆し、途中で口をつぐんだ。

 回復を終えたウンディーネは、身体を液状化させて影の檻から抜け出した。そして、辺りを見渡し、自分を襲った敵であるリオ達に威嚇をする。青く長い髪を揺らめかせ、ぐらぐら煮られた熱湯のように、頭頂部から湯気を発した。


「随分お怒りじゃねェか」


 氷魔法の刀の峰で肩を叩きながら、いつの間にか枝の上によじ登っていたランファは皮肉気に笑った。

 そんな彼を見上げながら、彼よりも少し下の枝に掴まっていたファイアが疑問を呈した。


「けどよ、水魔法しか使えねぇんだろ。水が来るってわかってりゃ、怖がることァなくねぇか?」


 その疑問に、リオは瞬時に答えた。


「相手が水魔法しか使ってこないからって、油断はできないよ。熱湯だって水だから……熱による攻撃は充分可能だし。ランファくんの氷魔法の刀の冷気を利用されたら、水魔法が擬似的な氷魔法になっちゃうかも」

「……おいランファ。何で氷魔法の刀なんか使ったんだよ。利用されたら、大変じゃねぇかよ」


 リオの説明を受けたファイアは、その説明をオウム返しするかのように、ランファに半眼を向けて口を尖らせた。

 その、リオの受け売りでしかない文句に、ランファは舌打ちをして、足元の枝を思い切り踏みつけた。枝が揺れ、葉が落ち、下にいたファイアの顔に葉っぱや木屑がかかる。ファイアはぺっぺと口に入った屑を唾と共に吐き出した。

 その様子を見てほんの少しだけ満足したランファは、氷の刀の刃を撫でながら、その質問に答えた。


「アイツは水魔法で出来た魔力人形だ。身体を液状化させて物理攻撃をすり抜けてもおかしくねェ……事実、さっき檻を抜けた時にやってたろ。だが、この雪帝隷奴ぜったいれいどなら、液状化されても凍らせてブッタ斬れる」

「はァー……なっるほどぉ。そこまで考えての氷魔法か……頭良いなぁ」

「テメェが考え無し過ぎるんだよ。無能ウスノロ大馬鹿ドアホ野郎が」

「ア゛ァッ!?」


 馬鹿にされたファイアは怒るが、ランファは足元の枝を揺らし、葉っぱや木屑を落とすことで、ファイアの無力化に成功していた。ファイアは怒って上を向いた矢先から、舞い落ちる葉っぱで目を覆われ、口に入った木屑を吐き出す羽目になっていた。


『グッ……ググッ……』


 ウンディーネは、辺りを見渡し、声のする方、物音のする方を探っていた。そして、特に物音を立てている二人――ランファとファイアの、大体の位置を探り当てると、指先に水色の魔法陣を展開。水の弾丸を連続で射出した。その弾丸は鋭い速度で葉陰に刺さり――


「うおっ!」

「グゥッ!」


 ファイアは、野生の勘のようなもので危険を察知し、咄嗟に場所を移ることで水の弾丸を回避した。

 しかし、そういった勘を持ち合わせていないランファは。


「クソッ……足、ブチ抜かれたッ……」


 右の足首を撃ち抜かれていた。足の傷口から落ちた血液が、葉を更にパタタッ、と音を鳴らして揺らした。


「ランファくん、大丈夫……!?」


 リオは焦りを隠そうともせず、ランファの元へ向かう。

 しかしそれは、ランファにとっては屈辱もいい所だ。

 彼にとってリオは、宿敵だ。人生において初めて敗北感を与えられ、挫折感すら覚えた相手。今すぐにでも叩きのめしてやりたい相手。そんな男が、自分を心配して駆け寄ってくる……それは、彼にとって辛酸を舐めるような思いにさせられることだった。

 だからランファは、向かってくるリオに思いっきり怒りを表した。


「来んな寄んな馴れ合んな! 殺すぞテメェぶち殺すぞゴルァ!」

「えっ急に凄いキレてくる何この人……」

「なー! 急にキレてくんの意味わかんなくて怖ぇよなー!?」


 その彼の怒りにドン引きしながら足を止めたリオに、ファイアが同感の意を示しながら近寄った。

 ……つまり、今、リオ、ランファ、ファイアの三人は、ウンディーネにとっては同じ方角に固まっていることになる。

 と、そこにミィシャの注意が飛んだ。


「あっ、危ないです!」


 ミィシャの声に、三人は同時に意識を戻した。

 しかし。目の前には既に、無数の水の弾丸が壁のように迫っており――


『戦場で身内同士で喧嘩する馬鹿がどこにいるんだい?』


 ――三人の耳元に、そう嘲笑うような、学園長ウルティオルの声が聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ