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42話 おもい

「今日の課題は、チーム分けして、協力しての実戦形式だ。魔法使いは周りとの協力も大事だからね」


 朝一番、学園長は、湖のほとりで寝ぼけ眼を擦る皆を集めると、開口一番そう言った。

 そして、一枚の紙を懐から取り出す。


「それじゃ発表しまーす」


 こうして、僕達は四人一組のチームに分けられた……んだけど。


「わ、わぁ……何このチーム分け……」


 僕はつい、頬をひくひくと引き攣らせた。そんな僕に、肩を組んできたのは……同じチームになったファイアくんだ。ニッコリと裏表のない笑顔で、僕に話しかけてくる。


「おう、よろしくな、リオ! 後――()()()()()()()()()()!」


 そう。問題はファイアくんではない。同じチームに、()()()()()()()()()()()()()

 ランファくんは苦虫を噛み潰したような顔で僕達二人を見やって、舌打ちをした。


「……大変不服だな」

「そんなこと言うなよ……初対面じゃんかよ」


 つっけんどんな態度を取るランファくんに、ファイアくんは恐れも脅えもせず、ウザ絡み……ダル絡み? をする。


「……ぁ、ぁの」


 と、絡んでくるファイアくんを嫌がるランファくん……名前の似ていて紛らわしい二人を眺めていた僕に、話しかけてきた女の子が一人。今にも消え入りそうな小さなか細い声で、近くの彼女の声よりも、一〇メートルくらい離れているファイアくんの声の方が大きく聞こえるほどだ。

 僕は彼女に視線を合わせ、頭を軽く下げた。


「あ……よ、よろしくお願いします」

「ょ、ょろしく……お、ぉ……お願ぃ、します」


 女の子は目元まで伸びた黒く長い前髪を指で掻き分けて、僕に目線を投げかけてきた。

 彼女が、僕達四人チームの、最後の一人。『ミィシャ・シーモンス』さんだ。

 口調からわかる通り、引っ込み思案で照れ屋で人見知り。

 艶のある黒髪は長くたおやかに伸びており、前髪で目が隠れるほどだ。だから僕も、まじまじと彼女の目を見たことはない。

 服装はキチンと制服を正しく着ている……のだけれど。その……年齢に見合わない体型ボディラインをしているため、逆に……何ていうか、一言で言い表すと……えっちである。センシティブに見えてしまうのである。自分が何かいけないものを見ているような気分になってくるのである。

 ずっしりとした重みを、見ているだけでも感じるくらいに大きな胸の前で、ミィシャさんは手を組みながらオドオドとし始める。僕が「どうしました?」と話しかけると、ミィシャさんは肩を跳ねさせて驚いた。そして、やや狼狽えながらも、小さな声で言葉を紡いだ。


「ぅぅ……男の子ばっかり……だな、って」

「……確かに、女の子が居ないのは、ミィシャさんには酷かもしれませんね」


 僕がそう言うと、ミィシャさんはおどおどとしながら、複雑そうな声音で応えた。


「ぁ、ぃぇ……女の子にも友達いないので……」


 ……僕とミィシャさんの間に、何とも言えない、少しだけ重苦しい、いたたまれない空気が流れる。

 僕は現状の空気を打破するべく、ミィシャさんに若干砕けた感じで話しかけた。


「……僕も男の子の友達、そんなにいないです」

「え……でも、じゃぁ……ぁの二人は……?」


 ミィシャさんは不思議そうにしながら、ランファくんとファイアくんの方を見た。

 僕は苦笑しながらそれに答える。


「ファイアくん……あの赤髪の方は、最近友達になったばかりですけど……ランファくんは……どうなんだろ……?」


 友達……友達……? 模擬とはいえ、殺し合った仲ではあるけど、友達……ではないと思うなぁ……。ランファくんが僕に向けてくる殺気立ったあの目は、友達に向ける目ではないと思う。

 腕を組みながら、友達の定義について考えていると、ミィシャさんがぽそぽそと語り始めた。


「……私、……見た目が、その……。え、っと、……む、む……胸とか、色々大きくて……。それで、男の人からは変な目で見られて……」


 ……ごめん。僕もちょっとだけよこしまな気持ちで見てしまっている。

 そのことに内心で謝りながら、僕は彼女の話の続きを聞く。


「女の子、からは……むしろ同性同士の分……、……接触が、直接的で、凄く嫌で……時には、妬まれたり……変な噂流されたり……変な疑いかけられたりして……」

「疑い?」


 僕がそう聞くと、ミィシャさんは苦笑気味に答えた。


「人の彼氏に色目使ってんじゃねー……とか、よく言われます……」

「なるほど……」


 僕は頷いた。

 なるほど……女の子同士はそう言うのもあるのか。……まぁ、僕もいじめられていたので、裏で色々言われてそうだ。そう言った意味では、僕とミィシャさんは同士であるのかもしれない。

 勝手に僕は内心でミィシャさんに同族意識を感じ始めていた。

 ミィシャさんは溜息を吐いて、続きを話す。


「女の子からは、何もしてないのに嫌われること多いし……男の人も、強引に言い寄ったりしてきて……怖くて……何もしてないのに好かれるのも、ホント嫌で……もぅ、人間が全員苦手なんです……」

「……大変ですね」


 つまり、ミィシャさんは他人と色恋沙汰になるようなことが嫌な訳だ。

 それなら、その点、僕達三人は大丈夫そうだ。

 僕はそれを伝えることにした。


「じゃあ、僕達三人は大丈夫ですよ。僕はもちろん大丈夫ですし。ファイアくんは馬鹿だから男女の垣根とか興味無いだろうし。ランファくんは見ての通り、目に映る全てを見下してるし」


 あえて大袈裟に笑いながらそれを伝えると、後方から「「ア゛あ゛ッ!?」」と怒った声が二つ聞こえてきた。十中八九、ファイアくんとランファくんのものだろう。

 僕はそれを無視しながら、ミィシャさんに笑いかけた。


「少なくとも、ミィシャさんを……そういう目的で見るような人は、いませんよ」


 しかし、ミィシャさんは不安そうだ。おどおどした態度のまま、おずおずしながら、質問をした。


「ぁ、あのぅ……こんなこと聞いていいか、わからないんですけど」

「何ですか?」

「……え、エリオードくんが、私を、そういう目で見ない理由が、不確定……というか、曖昧……というか」


 べ、別に疑ってるわけではないんです……、決して自惚れている訳でも……。

 そう最後に付け足しながら、ミィシャさんはあわあわと手を振った。

 ……僕は、ミィシャさんの耳に口を近づけ、内緒話をするみたいに、小声で話した。


「……内緒の話をします」

「ひゃ、あっ、耳、弱ぃので……手短に……」

「はい。……多分、誰にも話したことないので……二人だけの内緒でお願いします」


 ミィシャさんは、耳のこそばゆさに耐えながら、僕の話を聞いてくれた。

 これは、自分の体型による苦労話……そんな、女の子からしてみればしたくないであろう話をしてくれた、彼女への……お礼って言うと変だけど。何となくの、自分なりの礼儀のつもりだ。

 ……ホントに、今からする話は、誰にもしたことないから……凄く、緊張する。


「僕は……僕は――」


 そして僕は、長年心の中に閉じ込めていたものを、その気持ちを……想いを、ほんの少しだけ吐き出した。


「シフレ・レグナソルテのことが、好きですから」


 ……やばい。口に出すの、恥ずかしい。耳まで赤くなってる自信がある。

 ミィシャさんの方を伺うと、彼女はほんの少しだけ微笑みながら、何故か彼女も頬を赤らめながら、えへへと指をもじもじさせた。


「なるほどです。わかりました」

「……ホントに内緒で、お願いしますよ」


 僕が気恥ずかしさに顔を赤くしながらそう言うと、ミィシャさんも頬を染めながら、真っ赤な舌のその先を、ちょびっとだけ出して笑った。


「どうせ、この秘密をバラせるような友達、私にはいないです」

「……それなら、僕達二人……秘密仲間のお友達、ってことで」


 僕はやや強引に小指を差し出した。指切り……約束をするために。

 ミィシャさんは僕の小指に、自分の小指を絡めて、そして上下に緩く揺すった。


「約束です。……初めて、男の子の友達、できちゃいました」

「あはは……光栄です」


 良かった。少なくとも、ミィシャさんとは、仲良くやっていけそうだ。

 僕は一息つきながら、安息感から空を見上げた。

 青い空には、小さな雲が二つ、ゆらりと仲良く風に揺られていた。



 △▼△▼△▼



「ね、ねぇ……」


 同時刻。シフレは、同じチームになった女子の友達『ハルカ・リリシエ』の腕を掴みながら、声を震わせて動揺していた。ちなみにネミコは、チーム分けでシフレと別チームになってしまい、見た目にも大袈裟に落胆していた。

 ハルカは、シフレに目をやりながら答えた。


「な、何、委員長……痛いんだけど、腕」

「あ、あ、あああ、アレ……」


 その、シフレの指す先には……指切りをして仲良さげにする、リオとミィシャの姿があった。長年リオを想い続けていたシフレの、その内心は穏やかではない。


「あー……ミィシャ・シーモンス。なんか、男を盗ったとか、噂だけ流れてきたこと、あったなぁ」

「……噂でしょ? 根も葉もない」


 シフレが半眼で睨むようにハルカを見上げて、そう確認すると、ハルカは、ぱあっとした笑顔で答えた。


「うん。流石、委員長! 色眼鏡が無い! 素敵! ……あたし、ちょっとだけあの子と話したことあるけど、そんなことするような子じゃないと思うよ。……けど、ちょっとだけ、あたしらにやったみたいに……釘刺した方が良くない?」


 ハルカはシフレにそう提案した。

 あたしらにやったみたいに――というのは、入学早々のことだ。シフレはクラスの女子を全員集め、半ば脅しのように『リオに手を出さないで』と凄んだ。その凄まじい圧と殺気に、クラスの女子は、入学早々に女としての力関係をわからされ……クラスの女子のトップは、自動的にシフレになった。このことは、今だにクラスの女子の間で鉄板の話題である。

 シフレは「違うの……可愛い子が多かったから、不安になっただけなの……」と、過去の行いを恥じながら、顔を真っ赤にして唇を尖らせた。


「……で。委員長。あたしらにやったみたいに、圧かけなくていいの?」


 再度ハルカがそう聞くと、シフレは声を不安に振るわせながら首を横に振った。


「……リオ、あたしとネミコ以外で、初めての女の子の友達だろうし……邪魔したくないし」

「うぅん。愛だね〜、委員長!」


 ハルカは両手を合わせるように組み、茶化すように笑いながら、シフレに顔をぐいと近づけた。

 ちなみに、前記の一件があるため、シフレがリオのことを好いているのは、クラスの女子全員が知る所である。

 しかし、シフレは顔を真っ赤にしながら。


「そんなんじゃない!」


 ……と、否定した。


「そんなんじゃないんなら、どんなんなんよ」


 ハルカは呆れたように首を横に振りながら、ため息交じりにそう問いただす。

 シフレは目を泳がせながら、喉奥から声を絞り出した。


「……ゆ、友情……?」

「……友情止まりで終わってもいいの?」


 小動物のように縮こまっていくシフレの耳元で、ハルカがそう囁くと、シフレは両手で顔を覆いながら震えた声で返答した。


「……結婚したい……子供二人は欲しい……一軒家立てて犬とか飼って、最終的には一緒のお墓、一緒の棺桶に入りたい……」

おっもっ……」


 涙目になりながら話した、シフレの将来設計に、半ばドン引きの意を示すハルカ。

 その時、ハルカの脳裏に閃きが走った。シフレを揶揄からかいたくなったのだ。

 彼女はそのまま、悪戯を思いついた悪童のような顔で笑い、シフレに言った。


「あー。でも、リオくん結構いい顔してるよねぇー。かわいい系。あたしも狙っちゃおっかな?」

「ッ、ハァッ!?」


 突然のことに見ただけでわかるくらい取り乱すシフレ。

 そんな彼女の様子をおかしく思いながら、ハルカは続けた。


「しかもリオくん、あたしと魔法のイメージシンボルも似てるじゃん? 案外、お似合いかもよ?」

「……イメージシンボルと、それは関係ないでしょう……!?」

「アイタタタタタタ委員長腕掴むの止めてください力強いってイタタタタタタタタ」


 シフレは、ハルカの腕を万力の如き力で、握り潰すように掴んだ。ハルカは、己の腕に血が出るのではないかと疑うほど強く食い込んだシフレの指に、顔を青くしながら冷や汗を流した。そんなハルカの顔色とは対照的に、シフレの顔は赤い。羞恥の他にもう一つ……怒りの感情が見え隠れしている。


「ゴメンゴメン冗談、冗談だから腕ホントに掴むの止めて痛い痛い痛い痛いッてェ!?」


 そんなわちゃわちゃした騒がしい問答を繰り返す二人に、二人の男が話しかけてきた。


「あ、いた。レグナソルテさんに、リリシエさん」

「俺達とアンタら、同じチームだ」


 二人は共に、群青色の髪をしていた。違いと言えば、短く切り揃えているか、長く伸ばしているか、の違い。あるいは、金色のメッシュが入っているか、銀色のメッシュが入っているか、の違い。

 二人は共に、同じ顔をしていた。違いと言えば、目元に泣きぼくろがあるか、ないか。

 二人は双子だ。リオ達の学年で唯一の双子――金色のメッシュの入った、髪が短く泣きぼくろのある方が『ゴルド・ウルトラマリン』。銀色のメッシュの入った、髪が長く泣きぼくろの無い方が『シルバ・ウルトラマリン』。


「「よろしく」」


 二人は声音までそっくりだった。同じ声音が同時に同じ言葉を発する……ただそれだけで、シフレとハルカは、幻惑されたかのような不安感を感じざるを得なかった。

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