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34話 新たな出会い

新章スタートです。

良ければよろしくお願いします。

 先日の魔人襲撃事件から、二週間が経った。

 とりあえず、この二週間で変わったことを伝えようと思う。

 僕の視点で一番変わったことは、やっぱり僕を取り巻く環境だ。僕はもう、誰からもいじめられなくなった。それどころか、ちょっと一目置いて見られるようになった。今まで僕をいじめていたランファくんの取り巻き達は、僕を恐れるようになった。今まで僕へのいじめに見て見ぬふりをしていた他のクラスメイトは、僕に魔法のこととかを聞いてくるようになった。


「僕が魔法使えない時は、全く助けもくれなかったくせに……僕が使えるとわかった途端、手の平返したように擦り寄ってくるなんて、虫がいい話だよね。僕のこと怖がってる取り巻きくん達の方がまだマシだよ」


 ある時僕がそう愚痴ると、シフレやネミコさんは苦笑気味に困ったような顔をしていた。

 ……やっぱ、こういう所も、学園長の言う僕の冷徹な所なんだろうか。

 ちなみにだけど、僕をいじめていたりした人の大半は男子達だ。女子からのいじめは全くと言っていいほどなかった。クラスの委員長になったシフレが、先に手早く手を回してくれていて……おかげで僕は、女子間では『委員長の幼馴染』というポジションに落ち着き、色々心配してもらったりしていたのだ。

 それでも完全にいじめが無くならない、それどころか、男子からのいじめがそれなりに激しかったのは……やっぱり、ランファくんの手回しによるものだ。

 つまり、ランファくんとシフレが、僕を巡って、裏でそれぞれ男子と女子を操作していた、ということになる。こうして書くと、僕、人気者みたいだ。今更ながら、照れるようないたたまれないような、こそばゆい気持ちになる。


「おはよう」


 ……僕はランファくんに、臆せず話すことができるようになった。挨拶をするようになった。……ランファくんの方から、返事が返ってくることはないけど。

 けど、僕には何となくわかる。ランファくんは、今までいじめていた僕にどう接すればいいか、それがわからないだけで……きっと、模擬戦での殺し合いや魔人との死闘で、僕にそれなりに仲間的な感情を抱いている。

 なぜなら……僕が、そうだからだ。いじめの主犯なんて、殺したいほど恨めしいものなのかもしれないけど……今、僕は、そんな恨み辛み以上に、彼と仲良くなりたい、そう感じている。

 後……僕が話しかける度に、その口調が和やかであればあるほど、ランファくんの顔が罪悪感で歪むのが、見ていて楽しい。あー、ランファくん、何だかんだで僕に悪いと思ってるんだなって、それが凄く面白いのだ。なので、欠かさず挨拶をするのは、彼の反応を楽しむためでもある。

 しかし意味わかんないな。悪いと思うくらいなら、最初からいじめなきゃ良かったのに……。

 次に、メグミさんのことを話そうと思う。


「シフレちゃん、ネミコちゃぁん! 助けて、センセがめっさ怒ってくるのぉ!」


 ……相変わらず、アーリン先生を怒らせては逃げ惑う毎日を送っている。そこに変わったことがあるとするなら、シフレやネミコさんを始めとするクラスメイト達と仲良くなったことだろう。もう、皆は僕の体質のことは知っている。メグミさんがいないと、僕が魔法を使えないことも。


「知らないですよ……メグミさんが悪いんでしょ?」


 こんな感じで、シフレは委員長らしさ全開で、メグミさんと接する一方で、ネミコさんは。


「メグちんメグちん、飴ちゃん食べる?」

「食べる食べる!」


 ……やけに仲良くなっていた。波長が合うのだろうか、この二人。メグちん、なんて呼ばれてるし。

 メグミさんは愉快な性格だから、クラスメイトと打ち解けるのにさほど時間はかからなかった。

 まぁ、こんな感じで、僕はようやく、充実した学生ライフを過ごすことができてる。これも全部、メグミさんが異世界からやってきたおかげだ。

 僕は、メグミさんがこの世界に召喚されたという幸運に感謝しながら、それでもたまに、ふと思う。


「結局……どうしてメグミさんはこの世界に来たんだろう……?」



 △▼△▼△▼



「あー……ぐっ! むぐむぐ……んぐ。……うっめェなぁやっぱ! おばちゃんの料理!」


 快活そうな声が聞こえてきた。

 それと同時に、美味しそうな匂いも漂ってくる。

 ここは、学園の食堂だ。安く美味しい料理が食べられるため、学生人気が高い。

 僕は今日、ここでお昼ご飯を食べようと思って来た。

 メグミさんにシフレ、ネミコさんも一緒だ。


「どこか席空いてないかな」


 辺りを見渡しながら、僕はそう呟いた。その横でメグミさんが『土日のイオンのフードコートくらい人がいる……』とげんなりした顔をしていた。何だろう、イオンって。

 シフレは僕にお金を押し付けると、手短に言った。


「あたし、先に席取っとくから、あたしの分も買っといて。日替わりメニューのBセットで。値段はワンコインだし、それで丁度だと思う」

「ん。了解。ネミコさんは?」

「ウチは今日、朝にパン買ったからそれ食べる」

「了解しました。じゃ、メグミさん、行きましょうか」


 メグミさんにそう促すと、メグミさんは顎に手を添えながら、訝しげに首を傾げていた。


「どうしたんですか?」


 そう僕が列に並びながら聞くと、メグミさんは眉を曲げながら、僕の後ろに立った。


「んー……。リオくん。この世界にもさ、ABC……アルファベットって、あるんだね」

「え、はい。なんか、古代に存在してた言語らしくて。今でも一部が残ってるそうです」


 アルファベットというのは、AからZ、計二六文字の古代言語の総称だ。昔の人はこれを使って会話をしていたらしい。今でも、AセットとかBセットとか、使いやすい所にだけ、そのアルファベットが残っている。

 メグミさんはそれを聞くと、己の唇に左の親指を当てながら、鼻から息を深く吐いた。


「……ずっと、考えてたことがあるんだけどさ。この世界……あんまりにも、あたしに都合よすぎるな……って」

「……それ、良いことじゃないですか?」

「まあ、そうなんだけどね? そこまで文化の違いとかもないし、ていうか日本語が通じるし……なんか、あたしに都合良すぎるなぁって、最近考えてて」


 前の人が注文を終える度、列は少しづつ進む。僕もメグミさんも、その少しづつの全身に身を任せながら、ずっと会話を続けた。


「いやまぁ、魔法っていう、ある意味超絶なカルチャーショックはあるよ? ……でもさぁ。それ以外の部分が、ね。料理の味は口に合うし、トイレもお風呂も、生活リズムが変わることなんて一切無い。世界が違うんだから、未知の病原菌があってもおかしくないのに、今の所は何ともないし。たまに、朝起きた時とか……不安になる」


 僕は、何となく、珍しいなって思っていた。メグミさんからそういう、弱音……とはまた違うけど、心の弱さみたいなのを聞けたことが、何だか凄く嬉しい。

 それと同時に、彼女は異世界の人であって……ある意味では、この世界では究極的な孤独だってことに、改めて気づく。


「……メグミさん。何か、悩みとかあったら……今まで僕、色々聞いてもらったし、助けて貰ってるし。聞きますよ」

「うーん……ま、そこまで悩みって感じでもないし、いいや!」


 メグミさんはそう言って、全然陰りを見せずに笑った。

 僕はそれを見ながら、本当に強い人だな、と思った。

 そうしてからも、僕はメグミさんと何でもない話をし続けた。シフレと自分の分の定食を買い、メグミさんも自分の分の定食を買い、シフレが見つけてくれた空き席に座った。

 メグミさんは僕達の定食を見ながら、呆れたように笑い出した。


「……リオくんが、焼き魚定食。シフレちゃんが、豚冷しゃぶ定食。あたしがカレーライス……。本当に、異世界なのに何でこんなに庶民的メニューなんだ……?」

「美味しいですよ? 『イマウーフィッシュ』の塩焼き。『ワイバーンピッグ』のお肉も美味しいです」

「素材は異世界なのに……この世界特有のものなのに……何でメニューは……ッ」


 メグミさんはうんうん唸りながら、カレーを一口食べて『うっま……』と目頭を抑えて俯いていた。本当に愉快な人だ。

 まぁそんな感じで、和気あいあいとお昼ご飯を食べていると……突然、僕達の席の真隣に座ってきた人がいた。赤髪を逆立たせた、快活そうな男の人。多分、僕らと同じ一年生だろう。

 青年はニッと笑って僕らを見渡すと、くわえた爪楊枝をゴミ箱に吐き捨てながら、突然立ち上がった。


「お前ら! リオ・エリオードって奴、知ってるか!?」


 大きな声、だけど全然うるささは感じない。この声……あ、あの声だ。食堂に入った時に聞こえてきた、ここのおばさんの料理を褒めてた声。

 その赤髪の人は、ニッと笑いながら親指を立てて、その指で自分を指し示しながら自己紹介をした。


「おっと、その前に俺が名前を名乗らなきゃな……俺は一年生の『ファイア・ヒートフレア』! 最強最高の魔法使いになる男だ!」

「……リオ・エリオードに何の用があるのよ」


 シフレが赤髪の人……ファイアくん、に半眼で尋ねた。

 ファイアくんはこれまた楽しそうに笑いながら、大袈裟な身振りで椅子の上に足を乗せて言った。


「決闘だ!」

「リオ・エリオードくんなら向こうで見かけたわ」


 シフレは食堂の外を適当に指さして、適当な口調で棒読み気味に言った。

 ファイアくんはシフレに頭を下げて礼を言うと、「待ってろリオ・エリオードォー!」と、食堂を後にして駆け出して行った。

 ネミコさんは、彼が走って行った先を呆然と見つめながら、シフレに聞いた。


「……シフレちん。リオちんここにいるのに、嘘ついていいの?」


 シフレは口に含んだトマトを飲み込んで、呆れたように答えた。


「いや、名前しか知らない人に決闘申し込むような奴よ? 絶対ろくな奴じゃないわ。リオに近づけさせられないわあんなの」

「あ、あはは……」


 僕とネミコさんが苦笑した――その時。


「きっ、聞こえたぞ今ァー……テメェ嘘ついたのか銀髪女……」


 ――びったりと、僕達の座る席の近くの窓ガラスに張り付き、中を血走った目で睨むファイアくんの姿が、そこにあった。走ってたせいか息が荒く、息をする度に窓ガラスが曇る。ファイアくんは張り付いたまま、突然の来襲に驚いて席を立った僕達四人を見渡して、震えた声を出す。


「俺ァ地獄耳だからよ……聞こえたぞ今の……リオ・エリオードそこにいんのかぁ……?」


 ヤバい、怒ってる……!?

 僕が戦慄していると。ファイアくんは、この騒動で何だ何だと集まってきた一人一人の顔をじっと血走った目で見渡しながら、鼻息荒く呟いた。


「いんだろがよォ~……一年生なのにクソ強ぇって噂のランファ・ミドゥーファと模擬戦で引き分けて……魔人を殺すギリギリまで追い詰めた策士でもあるっつー、リオ・エリオード……どこのどいつだ?」


 ……そんな噂が立ってるの僕。ちょっと照れるぞ……それは……。でも事実だな……照れる……。

 僕が慣れない気恥しさに身動ぎしていると、その動きがファイアくんの目についたようで……彼は僕に視線をビッと向けると、窓ガラスに張り付いたまま話しかけてきた。

 ……いつまで張り付いてるんだろう。カナブンかな?


「おうおう、そこの金髪頭……優しそうな顔じゃねぇか。優しい顔してるテメェなら、俺に教えてくれんだろ? リオ・エリオードがどこのどいつか……!」

「……リオ・エリオードくんなら向こうで見かけたよ」

「銀髪と同じこと言ってんじゃねェよ!」


 シフレと同じ返答をすると、ファイアくんはギャーギャーと騒ぎ立てながら憤慨した。僕はそんな彼を眺めながら、また面倒そうなのが来たなぁ……と、メグミさんやランファくんや魔人達の顔を思い浮かべながら、頬を引き攣らせるのだった。……って、流石にランファくんとか魔人と同列にするのはメグミさんに失礼か……。

 僕がそう考えていると、メグミさんが突然、僕に半眼を向けながら唇を尖らせた。


「ねぇ、リオくん。今、何か失礼なこと考えてなかった?」

「心でも読んでるんですか?」

「考えてたんだね」

「考えてましたね。すみません」


 はぁ……僕はがくりと項垂れながら、とりあえず食堂の皆さんに迷惑かけてる訳だし、外に出ることにした。気が重いなぁ……。

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