21話 銃と刀の殺し合い
「なっ……」
何してんの、アイツ!?
模擬戦を観戦していたあたし、シフレは、模擬戦中に唐突にリオに斬りかかったランファに、つい立ち上がってしまった。
即座に、ノーマン先生に駆け寄って提言する。
「ちょっと、先生!」
「む、レグナソルテ……わかっておる。今から止める」
ノーマン先生も突然のことに白髭を揺らして驚きながら、二人の戦いを止めようとした。
だけど、その時。
「――止める必要はないよ、ノーマンくん」
突然、その声があたし達の後ろから、冷たい響きを伴って突き刺してきた。
声の主は、まだ若い……二〇代半ばくらいの見た目をした、黒い服に黒い髪、そして笑みの形に閉じた眼が印象的な、中肉中背の男の人だ。雰囲気だけなら優男って言葉が似合うのに……どうしてだろう、視界に入れるだけで足元が揺らぐような不安が込み上げてくる。
その男の人は、グラウンドに足を踏み入れながら、続きを話し始めた。
「僕達魔法使いは、子供だろうが大人だろうが、遅かれ早かれ殺し合いの場に立つことになる。魔人や魔獣を相手に……あるいは、魔法使い同士でも、ね」
「ですが、しかし……!」
ノーマン先生は、戦慄したような面持ちで、男に、何故か敬語で反論をしようとした。しかし、その男はそんなノーマン先生を視線と威圧感だけで黙らせた。
男は、グラウンド中央で眠るリオとランファ、そのすぐ真上に浮かんだ夢空間の映像を見上げながら、また口を開いた。
「いらないんだ」
その言葉には、失望のような……深く冷たい感情が横たわっていた。
「いらないんだよ。たった一度の殺し合いで、病んで、トラウマになって、使い物にならなくなるような魔法使いは……。僕達はこれから、何度も命のやり取りを繰り返す。命を拾っては奪うことを繰り返す。それについてこられない軟弱者をふるい落とす……それも、魔法学園の存在意義だ」
そんな彼に、ノーマン先生は細く鋭くした眼を向けて食ってかかる。
「だからと言って、模擬戦だからと言って、教育者が生徒同士の殺し合いを容認していい理由にはならんでしょう!?」
「マトモな教育でも良い魔法使いが育つんなら、それでいいかもしれないけどね……」
「止めますぞ、私は魔法使いである前に教育者だ!」
ノーマン先生が男に背を向け、グラウンド中央で眠る二人の元へ歩を向けた――その時。
「……それならば」
――その場にいる全員が、まるで喉元に冷たいナイフの刃を当てられたような殺気に呑まれた。
それは、紛うことなく、この男の人から発せられたもので……あたしもノーマン先生も、クラスメイトの誰も、身動き一つ取れなくなった……。
男は殺気を辺りに放出しながら続けた。
「それならば……僕は、教育者である前に魔法使いだ」
男は、冷たい殺気を放ちながらも、しかし絶やさない笑顔でノーマン先生の顔を覗き込んだ。
「まぁ、黙って見学してなよ。学園長である僕の命令だよ」
――学園長。あの人が。その事実にあたしは目を見開いた。
このリスドラルーク魔法学園の学園長――それは、現・世界最強の魔法使いとも名高い『ウルティオル・ワイズストーン』だ。もし彼が本当に、その人であるなら……。
あたしは生唾を飲み込んだ。その音はやけに大きく響いたように聞こえた……。
△▼△▼△▼
「ちょこまか、ちょこまかッ……避けんじゃねェ!」
「嫌だよ絶対痛いじゃん!」
「安心しろ痛みァ一瞬だ……首切られた罪人が痛ェッつッてんの見たことあるか!?」
「まず、首切られた罪人を見たことがない!」
僕は必死で、ランファくんから逃げ惑っていた。ランファくんの振る刀を大袈裟にも無様にも見える動きで避ける。時に飛び跳ね、時に転がり……。そうしなければならないくらい、あの刀も、それを振るうランファくん自身も、恐ろしく見えた。
ていうか、こんなことになってるのに、どうして先生達は止めに来てくれないんだ……!?
僕がそれを不審に思っていると。ランファくんの刀が僕の頬の真横を掠めた。頬の切れた感触がする。多分、薄く皮を切ってしまったんだ。何かがタラリと垂れたような感覚もある……傷口から血が垂れたのだろう。
僕は、実際に傷つけられたことにより、余計に恐ろしくなり、情けない声を上げながら地面を転がるようにして逃げた。ランファくんは刀身と同じくらいギラギラさせた瞳で、逃げるように距離を取った僕を、いつもみたいに真っ直ぐ見据えて言った。
「余所事考えてる場合かよ!?」
「ッ……何で、こんなことするの!?」
僕がランファくんにそう聞くと、ランファくんは鼻息荒く答えた。
「俺の方がテメェより上だと証明する……そのためだ!」
「何言ってるの、確かに今の勝負は僕が勝ったけど……だからって、僕がランファくんより上な訳ないじゃん!」
「そういう所が――マジでムカつくんだよォッ!」
ランファくんは形相を鬼のように崩しながら、再び斬りかかってくる。そんな彼に、僕もようやく反撃をする覚悟を決めた。
殺らなきゃ殺られると言うのなら……殺ってやる!
「【攻撃魔法――アタック・バレット】!」
僕は右手の指先から魔力で練り上げた銃弾を撃ち出した。その弾丸はほんのり白く輝きながら、ランファくんの額に向かって突き進んだ……しかし、ランファくんはそれをあっさりと斬り払う。偶然ではない。現に、何発撃っても、ランファくんには一向に当たらなかった。
……どうして!?
「さっき言ったろ……? テメェのその、ただの弾丸の速度はとっくに見切ってんだよ!」
そういえばそうだった……! 僕はランファくんの先程の言葉を思い出し、歯噛みした。
そんな僕に、ランファくんは刀をいきなりぶん投げてきた。僕はそれを攻撃魔法で弾いて防ぐ。が、その弾いた時に出来た隙をランファくんに突かれた。ランファくんは僕の懐に潜り込み、僕の腹部を全力で殴りつけてきた。
「ガっ……ァッ!?」
今まで感じたことのない痛みが腹部に走る。口から漏れ出た何かを、衝撃でほんのり霞んだ目で確認すると、それは血の混じった唾液だった。少しではあるものの、吐血してしまう程、今のランファくんの一撃は重かったということだ。
こんな一撃……食らったことない……! 僕はそう思うのと同時に、今までのランファくんの、僕へのイジメの時の殴打が、かなり手加減されていたことを知った。
ランファくんは、膝から崩れ落ちる僕の髪を掴み、無理やり上向かせる。そして、目と鼻の先で吠えるように僕に詰問した。
「マグナムやら何やら……他にも色々あんだろ!? 全部使えよ! それとも何だ、俺には使うまでもねェッてか!? それとも人ォ撃つなんざできねェか!? だったら魔法使いなんか向いてねェよ今すぐ辞めちまえッ、この――『魔法使えない』がよォ!」
――『魔法使えない』。
その、いつもの通りの僕を詰る言葉を聞いた瞬間――僕の身体は無意識に動いていた。ランファくんの腹部に、両掌を当て、両の親指と人差し指で三角形を作るようにして……そこを銃口に見立てて、特大の魔力塊を発射する!
「【攻撃魔法――アタック・バズーカ】!」
「グッ――はァッ!?」
そして、ランファくんの身体が、まるでミノタウロス・コクーンに跳ね飛ばされたかのように宙を舞った。
大きな音を立てて地に落ち、僕よりも沢山口から血を吐くランファくん。そんな彼に、僕は精一杯の虚勢を張って、言い張った。
「僕は『魔法使えない』なんかじゃない……僕はッ、『魔法使い』だッ!」
ランファくんは立ち上がりながら、吐血で濡れた口元を乱暴に手の甲で拭い、口の中に残った血を乱暴に地面に吐き捨てた。
そして、僕に一撃によって絶え絶えとなった息で、吠えるように言った。
「……だったらァっ……殺り合おうぜ……どうせ模擬戦ッ! どっちかがグッチャグッチャになッちまうまでェッ……、……ブッ殺し合うんだよォッ!」
「……いいよ。殺ろう!」
僕は真っ直ぐ見つめ返して答えた。
双方、覚悟を決めた瞳で。僕の視線とランファくんの視線が、闘技場の上で絡み合い、ぶつかり合った。
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