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7.5話 言っちゃいけないこと

ちょっとしたおまけエピソードです。

よろしくお願いいたします。

「というか、魔力をほぐすって、実際どんな感覚なんですか?」


 アーリン先生が、僕のために、メグミさんの滞在許可を得るための職員会議に出ている間。

 僕とメグミさんは医務室でくつろぎながら語らい合っていた。

 メグミさんは、アーリン先生の机の上に置いてあったフィナンシェを勝手に齧りながら、紅茶を飲んでいた。


「ん? 気になっちゃう?」

「まぁ……。多分、前例が無いことなので」


 というか、前例があるとして、僕が知らない訳がない。

 何とか自分の魔力不全を治そうとして、家族も幼馴染も皆を巻き込んで色んな手法を探し調べ試したのだから。

 まぁ、全部効果なかったけど……でも、そのおかげで色んな知識がついて、賢くはなれたかな……。

 メグミさんは、フッフッフと自慢気に笑いながら答えた。


「あたし、人のオーラみたいなのが見える系女子なのね」

「女子……?」

「引っかかる所、そこなの? キレるよ?」

「冗談です、すみません」


 メグミさんは唐突に無表情になって僕を脅してきた。

 僕は急いで訂正し、謝罪した。今日色々ありすぎたからな……頭がぼーっとしてて、言っちゃいけないことまで言ってしまいそうだ。


「オーラが見えるって、どういうことですか?」


 僕はこれ以上メグミさんを怒らせないために、話を元に戻した。

 メグミさんはやや深めの溜息を吐きつつも、答えてくれた。


「はぁ……まぁいいけど。オーラ……まぁ、身体の中とか外側とか、そういう所にじわぁっ、て見えるのね。それで人の健康状態とか今の気持ちとか、わかるんだけど」

「へー」

「で、この世界に来たらびっくり。視界に入る人、皆が皆、なんか光って見えるわけ。で、魔法のある世界ってわかったから、じゃあこれが魔力なんだなーって」


 ……少し、気になることができたので、聞いてみることにした。


「あの……僕は、メグミさんにはどんな風に見えてます?」

「やっぱ気になるよね……ふふふ、いいでしょう。オーラ見える系“女子・・”であるメグミ様が、教えてあげよう」


 ……やけに『女子』を強調して、メグミさんはそう言った。

 表情は変わらず笑顔だけど……これ、まださっきのこと怒ってるかな……。

 僕の心配を他所に、メグミさんは紅茶を一口飲み、続きを話す。


「リオくんはねぇ……最初っから、眩しく見えたよ。今まで見た人の中で一番。ただ、なんか……眩しいんだけど、どこか濁って曇ってたから、濁りや曇りを揉み取るみたいなイメージでマッサージしたら、リオくんの魔力がほぐれたっぽい」

「うーん……スピリチュアルな話で、聞いただけだとイマイチ掴めませんね」

「まぁ、そんなもんでしょ。誰に話しても似たような反応だからね、こっちも慣れっこよ」


 そこでふと、僕は疑問に思ったことを聞いた。


「その目を使って、メグミさんは整体師として、元の世界でも色んな人をマッサージしてあげてたんですか?」


 ――瞬間。メグミさんは、ピンと張り詰めたように押し黙った。

 ……言っちゃいけないことまで、言ってしまったのだろうか。

 僕が内心で不安に思っていると、メグミさんは突然、その張り詰めた雰囲気を緩めて、笑って答えてくれた。

 ……でも、その笑顔は、どこか投げやりな、そんな感じがする。


「……そだよ。色んな人をマッサージして、色んな人を気持ち良くしてあげた」


 ……話を変えることにした。

 僕自身が、これ以上この空気に耐えられなかったから。


「……体内の魔力を操作できるって、凄いですよね。魔力以外にも、もしかして他にも色々、操作できるんですかね?」


 すると。メグミさんが、突然じっと僕を見つめてきた。

 そして、僕を試すように目元だけ微笑んだ。


「命に触れる……命を操作できる。身体に触れれば、生殺与奪が思いのまま……って言ったら、リオくん、どうする?」

「……えっ」

「それでも、あたしのこと、信じて、マッサージ受けられる?」


 その質問に、僕は迷わず答えた。


「はい」


 ……メグミさんは、僕が一六年間生きてきて、ようやく掴んだチャンスなんだ。信じて、受け入れる――それ以外に選択肢なんて無かったし、要らない。

 僕がそう答えると、メグミさんは突然、手を叩いて笑い出した。


「……ぶぷっ。アッハハハハハハ!」

「……何がおかしいんですか」


 僕が訝しげに、突然笑い出したメグミさんにそう聞くと、メグミさんは目元に浮かんだ涙を指で掬いながらはぐらかした。


「今日、こっちの世界に召喚されたり、魔法を見たり、でっかい牛を見たり……色々あって、頭がぼーっとしてるや。言っちゃいけないことまで言っちゃいそう」

「……僕もです」


 僕とメグミさんは、二人揃ってくすくすと笑った。

 と、突然、メグミさんの腕が伸びてきて、僕の首をがっちりホールドした。


「それはそれとして、リオくん。女の子が自分のことを“女子”って言った時、年齢が気になっても言っちゃいけないからね?」

「……すみませんでした……」


 ……やっぱり、まだ怒ってた……。

 僕がメグミさんに平謝りしていると、廊下の方から足音が聞こえてくる。

 アーリン先生のものだろうか。いい答えが、返ってくるといいな。

 そんなことを思いながら僕は、メグミさんのホールドから抜け出し、笑いながら頭を下げるのだった。

少しでも何か感じるものがありましたら、評価や感想などお待ちしております。

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